207話 予期せぬ再会
今回はレイが主役の話!
そしてレイが再会すべき相手と言えばゼノだけ…。
帝都では戴冠式前日という事もあってか夜を過ぎても騒ぎ声が止まない。
街灯以外にも飲食店や露店の光が暗い道に差し込んでいる。
そんな中、レイは人気のない廊下を潤いを求めてただ歩いていた。
貸切もあってか深夜並にホテルは静かでレイの足音しか響いてこない。
立ち止まれば小銭を投入する音、自販機の稼働音やお気に入りの飲み物が取り出し口に落ちる音だけが響き渡る。
少しだけ休憩しようと長椅子に座ろうとしたが数秒で立ち上がって廊下を駆け抜ける。
嬉しさと迷いと焦り、そして僅かな怒りを交えながらも声を押し殺して中庭へ飛び出した。
外の空気を浴びたかったのか?
いや、そうならば長椅子に座らずに真っ先に中庭に向かった筈だ。
それに暗がりの中、南国風の木の下に誰かが立っている。
無論、それは同級生や教員、ホテル関係者ではなく別の何者かだ。
だがレイだけがそれが何者か知っている。
荒げる息を整える間もなく、レイは大声で問いただす。
「こんなとこで何やってんだよ!兄ちゃん!!」
そこに居たのは貪狼騎士団団長のゼノ・フィースベルだった。
いや、貪狼騎士団団長という肩書きは今はどうでもいい。
彼の姓はフィースベル、レイ・フィースベルの兄にあたる。
だが兄弟の再会にしては騒がしいというよりも荒々しい。
今にもレイは再会した兄に殴りかかりそうな勢いだ。
どうやらレイは兄に対して並々ならぬ憎悪と怨念を抱いているようだ。
「…今すぐに父さんの元に連れて行く!そこを動くな!」
「時間がない!落ち着いて聞いてくれ!」
「うるせえ!言い訳は後で聞くから黙ってろ!」
レイは兄の元に駆け寄ろうとするが足が止まる。
聞く気になったのでなく動けなくなったのだ。
この自分の意思で体を動かせない状況をレイは知っている。
(…束縛!?何で!?いつ詠唱した!?まさか設置型!)
「どういうつもりだ!!」
「悪いけど今はまだ帰れないんだ。いや、一生帰れ…」
歯切れの悪い返答をするゼノだったが突如として悶え始める。
左手で胸を右手で頭を抑えながら言葉にならないほどの叫声を上げている。
そして数秒ほどで落ち着きを取り戻すと聞き取れぬほどの小さな声を出した。
「おいおい、時間はまだ過ぎてないだろ…。大人しく寝取れ」
(精霊とでも会話しているのか?それよりもさっきの八年前の状況と酷似していた)
「…学園の皆を連れて帝都外に避難しろ」
「僕がそんな事を言っても学園が動くわけないだろ!何か起こるとでも言うのか!?」
「確実に起こる!」
「なら兄ちゃんが説明して言えよ!それぐらいできんだろ!」
「無理なんだよ今の俺では!…時間だ。じゃあなレイ」
不可思議な残留物を置き去りにしてゼノはその場を去る。
そして庭園には再び孤独と静寂が戻ってきた。
兄が何を伝えたかったのかは未だに理解できていない。
それでもレイは行方不明だった兄の姿を確認できて安心している。
だけ兄に対する憎悪が消えたわけではない『兄はまだ死んでいない。自分の手で復讐できる』という意味で安心しているのだ。
八年前のあの日に芽生えてしまった感情は決して消えることはない。
いや、肉親をそれも唯一の兄弟への憎悪など芽生えてほしくなかった。
八年前のあの日に兄がしたことを弟は忘れはしない。
何の前触れもなく愛する母に致命傷を与えて消えたことを。
結果的に母は命を繋ぎ止めたが弟は兄がしたことを赦しはしない。
母は『戻ってきたら説教してバグするだけよ』と言っているが自分はそうはいかない。
それはほぼ裏切られたの一言で済む話になる。
兄の服装や口調を真似するほど尊敬していたからだ。
赤子の頃より共に過ごし笑いあった者の豹変と逃亡。
困惑と悲嘆よりも憎悪の方が勝り今に至る。
行き場のない怒りを収めてレイは再び兄が消えた闇夜の先を睨みつけて顔を弄り笑顔を作る。
そして皆が憎しみなく語り笑いあう広間に戻っていった。
まだ前日譚は終わりません。
まあ、次回で今回の章は終わりますけど。
それではまた次の話で!




