202話 龍とアイザック
アイザックと話そう!
きっと忠犬属性を得ている筈だよ!
あと他の属性もね(-ω-;)
俺は眼前に広がる光景に目を疑ってしまった。
いや、彼がこの様な過程に至るようクラウスと交渉したのは他の誰でもない俺自身だ。
約数ヶ月前までは利己的でドス黒い精神を内包していて、俺と目を合わせるだけで殺意と嘲笑を飛ばしてきた。
そんな彼が俺に跪いて流す筈がない涙をさながら滝のように流している。
また、彼の態度と立ち振る舞いは仕えられる身として誇らしい。
もちろん、以前の彼は決してこの様な態度と立ち振る舞いを相手に示すような者ではなかった。
仮に彼が人生で一度も純粋な悪意に触れてなければ今のような状態になっていたと断言できる。
ああ、そうかアイザックという人物は本当はこんなにも立派な騎士だったのか。
「さすがヴィンセント、どんな腐った根性の持ち主でも改心させ鍛え上げる、その技量にはかなわないな」
「ま、第四は荒くれ者を集めた集団だから慣れてんだよ。というか根っこは元からアレだ」
…どんな反応をしたらいいのか困る。
そりゃあアイザックを第四騎士団に任せたのは俺だ。
いつかこうなる事ぐらいはわかっていたさ。
けど唐突すぎるし心が漂白されすぎだろ!?
この短期間で何があったんだこいつ!
「おい…。いきなり跪いてどうしたんだアイザック。皇帝陛下との謁見が叶うまで跪かないと宣言しただろ?」
「…その宣言がこの様な形で叶ったから僕は跪いているんだ!見間違える筈がないこの方は陛下だ!」
「…はい。明日の主役です」
困惑しつつも龍は自分が明日の主役だと伝える。
そして新聞で拝顔した龍の顔を思い出し騎士達は直ちに跪いた。
ややぼやけてはいたが元同級生の同僚が言うのなら間違いないと確信しての行動である。
「…ヴィクトリア!!ヘルプ!ヘルプ!もう限界だ!絶対にお前、これを見たくて連れてきただろ!!」
「正解だよ陛下!恐れながら申し上げます。そのリアクションは最高ですよ!」
物陰から出てきたヴィクトリアは笑いを堪えながらも第四騎士団の元に龍を連れてきた目的を砕けた口調で明かす。
普通の国の国王にこんな仕打ちをしたら不敬だとは誰もが理解できる。
しかし、ルシフェル大帝国の次期皇帝の龍はそれを平然と見逃すのだ。
はっきり言って砕けた口調で王と話せる国などルシフェル大帝国だけだろう。
「ヴィンセント!こんな事で使いたくはないが初の命令だ!この状況を何とかしろ!」
「仰せの通りに…」
「それと笑いを堪えながら言うな!」
「直ちに立ち上がれ!それは明日する事だ!今はさっさと夕飯の準備をしろ!後、アイザックはこの場に残れ。ついでに報告だ」
流石は団長、先ほどの一声で団員達が夕飯の準備をするために動き出した。
だけど忠犬アイザックは目を輝かせて跪いたままだ…。
「…アイザック、気持ちはわかるがもう少し物事を考えて行動しろ」
「わかりました!どんな罰でも快く受け入れます!耐久マラソンですか!それとも耐久筋トレですか!それとも便所掃除ですか!」
罰というのは悪いことをしたから受けるものだ。
当然だが楽しいものではない。
それなのにアイザックは罰を求めるかのように言い寄ってくる。
これが受ける者の態度というのなら与える側は少し怖じ気付くだろう。
「受けたいのかお前は!罰に対して快楽を生み出そうとするな!罰を与えた意味がないだろ!その場で正座してろ。極東の文化だがわかるだろお前なら」
「オマケとして岩を膝に乗せますか?」
「普通の正座だ!」
「…これ本当にアイザックですか?変貌しすぎて逆に恐ろしいんですけど。忠犬属性以外に別の属性も入手しましたか?」
何というか今のアイザックは『痛み』を『喜び』に変えているような気がする。
いや、確実にそうだと言えるのかもしれない。
何故なら正座をしながら快感を味わってそうな表情をしているからだ。
…本当にあの後、君に何があったの?
「陛下はアイザックのユニークスキルを覚えているよな?」
「常識外れだろ?」
「それで精神や物理的痛みを感じていなかったせいなのか?陛下に仕える喜びや己がやった事に対する負い目、団員達からの信頼等の様々なモノが相殺しあったり混ざり合ったり何やかんや色々あってだな。…被虐体質になった」
「ああ、この痺れ最高ぉ~」
「…はぁ!?」
ということで次回は報告回です。
何の報告?
無論、貪狼騎士団の情報です。
一応、アイザックはそれなりに貪狼騎士団の深部まで気づかれずに潜ってますからね。
それではまた次の話で!




