199話 暗黒面
帝都インフェルノの暗黒面を見せます
大荷物を載せた竜車は華やかな場所に向かうと思いきや帝都北西の壁際付近に向かっている。
風景はある境界を越えると絵本の頁をめくったかのように暗い雰囲気を醸し出す住宅街に変わった。
しかし、そこには廃墟のような人が住むには相応しくない家が建ち並ぶ。
帝都インフェルノには地元よりもマシな仕事を探しに、もっと家族に豊かな暮らしをさせるために、冒険家として名を上げるために、騎士になるためにと様々な夢を持った者達が移住してる。
だが現実は柔らかい何かで包みもせずに現状を叩きつけてくる。
確かに成功さえすれば夢は叶うが失敗すれば当然の如く夢は叶わない
それを身に刻まれてもなお彼らは帝都に住んでいる。
例えば就職したが何も変わらない現状に嫌気がさして会社を辞めてしまい堕ちてしまった者。
例えば家族の合意で田舎から移住したが父親が賭博や酒、女に溺れて蒸発し幸福が崩れてしまった者。
例えば冒険家になったが度重なる依頼の失敗によって挫折を味わい立ち上がれなくなった者。
例えば騎士になったが自分自身の怠慢な生活や堕落によって己の夢を自分の手で終わらせてしまった者。
そんな彼らは終わりの見えない日陰の日々を過ごしている。
その居住区の名前は貧民街、皮肉めいた別名は夢の墓場だ。
「特別見学の時間だ。今までは陽を見てきたが今からは日陰の番。ここは貧民街、要するにスラム街だよ。積んでるのは廃棄されるが充分に食せる飲料や食料、売れ残りの日用品に寄付された医療道具さ。帰りたいのなら帰れ。残るのは自由だが軽蔑や哀れむような態度をしてみろ処刑覚悟で殴り飛ばす」
「わかりました。勉強させてもらいます」
「…私も兄と一緒に黎明期の時にここに連れてこられた。着いた途端に私と兄が『引き返せ』と喚きだしたから親父に思いっ切り殴られたわ。ま、お陰で色んな事に気づかされたけどな」
「ヴィクトリアさん、そろそろ始めますか?」
「そうだな。子供達も出てきたし準備を始めるぞ。ああ、ちなみにこの人達はボランティアだ。お前も降ろすのを手伝え。私は炊き出しの準備をするから」
「了解です」
龍は積極的に竜車の積み荷を降ろし始めた。
そして指示された場所まで運んで、そこで積み荷を広げているボランティアに渡して同じことを繰り返す。
それを龍は誰にも負けないスピードで慎重かつ丁寧に運んでるので、連れてきたヴィクトリア本人も唖然としている。
少しは困って誰かに助けられる皇帝を見れると思っていたからだ。
「あの子、ヴィクトリアさんの所の新入社員ですか?」
「知り合いの子供だよ。連れてきてなんだが私も驚いてる」
「引き抜いたらどうですか?」
「それは無理な話だ。既に勤務先は決まってるんだよ。それまでに『社会を教えてやれ』って頼まれてな」
(まあ、明日になったら嫌でも勤務先はわかるがな)
この古着はこっちのテントで種類ごとに別ける。
…あ、テントを張って屋根を作るのか。
見るからに向こうの世界での運動会で使うようなテントだから俺にもできるな。
「手伝います!」
「おお、助かるよ。ならこっちの角を持ってくれ」
「わかりました!」
「じゃあ、広げて順番にそれぞれの場所に置いていく!タイミングを合わせて持ち上げるぞ!」
会場設営は滞りなく行われて約一時間ほどで終わった。
そして炊き出しを終えたヴィクトリアの声掛けにより家の中に隠れていた住人達が続々と姿を現す。
これより世界初と言っても過言ではない皇帝とスラムの住人の交流が始まる。
次回はなんと200話目の更新になります!
…戴冠式の時に200話目を迎えたかったなぁ。
それではまた次の話で!




