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191話 聖霊と王の愉快な話③

王と聖霊を出会わせます!

そして物語開始!

 ホールの入り口付近を歩いていた王様は歌声に惹かれるまま幕が下りて生い茂る木々が投影された舞台に歩んでゆく。

 また、観客達は今か今かと二人が出会う瞬間を待ちわびている。

 これほどまで観客達の心を鷲掴みにしているこの物語の原本は廃墟となった教会で発見された木箱に入れられていた。

 よっぽど大切に保管したい物語だったのか木箱と本が傷まないように魔法がかけられていた。

 更に木箱と本には今でも希少価値が高い材料を使用している。

 また、原本が見つかるまで口伝えだった物語が『物質として見つかった』という事実は奇跡と言っても過言ではない。

 王様が舞台に近づくにつれて幕が徐々に上がり始めた。

 そして草花に囲まれた岩に腰をかけて歌う聖霊がいた。

 聖霊は王様の存在に気がついて攻撃態勢に入った。

 そのため急いで王様は詫びを述べる。

 

「これは失礼した!あなたに危害を加えるつもりはない!私は妖精に愉快な話を聞こうとして森を彷徨っていた人です。癪に障ったのなら即座にこの場を立ち去る!」


「…敵意がないのなら攻撃はしない。…それよりも愉快な話というのは何でしょうか?」


「愉快な話とは皆が楽しい気分になり笑みを浮かべる話だ!」


「…それをあなたは収集しているの?」


 それほど難しい事を訊かれている訳でもないのに王様は無理難題を考えるかのように何度も同じ場所を回っている。

 そして六周ほどすると王様は答えた。


「ああ、確かに私は愉快な話を収集していると言えるな。それがどうかしたのか?」


「興味がある。外の世界の事はあまり知らないから」


「外に出られない理由でもあるのか?」


「…私は聖霊ですよ。この大地を守ることが私の使命、ここを離れれば大地は荒廃してしまいます。それ故に外の世界に出られないのです」


 目的の妖精とは違ったが珍しい聖霊に出会えた。

 愉快な話以外にも聖霊と話せることは滅多にない。

 通常通りならば王様は聖霊に愉快な話を聞くであろう。

 しかし、王様は聖霊から愉快な話を聞こうとせずに咳払いをして、喉の様子を確認すると聖霊にこう言った。


「その岩に腰を下ろしなさい。これより私が収集してきた中でも印象に残っている愉快な話を語ろうではないか!それはあなたに決して飽きを与えぬ良い時間となる筈だ。無論、不快な気持ちにさせぬ事を誓おう。準備はよろしいですかな?」


 そう言われた聖霊は目を輝かせながら岩に腰を下ろした。


「はい!あなたが収集してきた愉快な話を私に聞かせてくださいな!」


「…では語るとしよう!それは遠い異国で起きた話、我が国と貿易を行うためにやってきた貿易船の船員から聞いた物語だ。その国のとある場所に取り柄と言えば力強さだけの至って普通の男が居ったそうな」


 王様が 物語を語り始めると辺りが暗くなり、そして一瞬にして明かりが戻ってきた。

 しかし、そこには王様も聖霊も居らず代わりに鼻歌を交えながら呑気に昼間から酒を飲んでいる男が居た。

 ここは王様と聖霊、二人だけの物語を語るための世界、故に登場人物と場面が必要なのだ。

 そして『聖霊と王の愉快な話』が人気な訳は無作為に選ばれた物語を月が変わるごとに上演しているという理由もある。

 無論、それを演じる役者も月ごとに入れ替わっている。

 これより語られる話の題名は『人生を貸した男』である。

まだ、未定ではありますがおそらく、一話で終わると思います。

進行状況によっては二話、続けて書くかもしれません。

それではまた次の話で!

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