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168話 別れと約束

八章これにて幕引き。

陸斗と千草といったんお別れします。

 バーベキューをした翌日に俺達は逢魔町へ帰ってきた。

 アリスの空間歩行者(スペースウォーカー)で帰る手もあるが全員で却下した。

 俺達は最後まで騒いで騒いで騒ぎまくった。

 今生の別れにはならないが二人といつ再会できるかわからない。

 でも、そう遠くないうちに二人と遊びたいものだな。

 今度は二人を逆にこっちの世界に招待しようか。

 ああ、そのことで思い出したが異世界のことを公に明かすことは止めてもらうことにした。

 ディルフェアン連合の件で俺は逆にこちらの世界の連中が異世界に資源や土地を求めて攻めてくるのではという考えが浮かんだ。

 そのため親父に全力で抗議をして快く受け入れてもらった。

 異世界を護るのも皇帝としての仕事だ。

 そして俺達は今、異世界転移門の前で別れを惜しんでいる。

 もちろん、レンも共に異世界に転移する。

 当然、二人は異世界に付いてこれないのでここでお別れだ。


「…やっぱり、レンと別れたくないよ~!」


 別れ間際で千草が泣きながら親友のレンに抱きついた。

 異世界転移門を潜ればすぐ会える。

 だが二人が居るのはたまたま繋がった世界、いつ途切れてしまうかわからない恐怖が襲ったのである。

 しかし、実際にはこの二つの世界は絶対に離れたりしないのでそんなことはない。


「千草、私も同じ想いです。けれども行かなければなりません。…しかし、今生の別れではありません。ですのでどうか笑顔で見送ってください」


「うん、そうする。龍も元気でね」


「ああ、二人も末永くお幸せに」


「お前、別れ際でからかうなよ。…まあ、お前も元気でな。時間感覚が変わって、俺が爺さんになった時に来るなよ!」


 うわっ、それだけは洒落にならないなぁ。

 陸斗の孫を陸斗と勘違いして、年老いた陸斗を見た瞬間に腰が抜けて倒れそうだ。


「公務の合間に来てやるよ。…でも、陸斗の死に際だけは絶対に見たくねぇなぁ。自分が魔族だって驚いたがそっちの方が怖ええよ」


 正直な気持ちを言った。

 俺と陸斗は百年、年齢が離れている。

 そして先に死ぬのは言わずとも陸斗の方だ。

 これがどうしようもなく恐ろしい。

 決して逃れない生物の仕組みに俺は一番、恐怖している。

 

「…そん時はそん時だ!まあ、笑顔で見送ってくれや!盛大に国葬をしてくれたって良いぜ!正直に言って俺も怖ええよ。何十年後に俺が死ぬ時、龍はまだ若い姿のままってことがよ。けど俺はそんなんでお前の親友は止めねぇよ龍。ほら、行けよ」


「…じゃあ、また皆で遊ぼうぜ。アヴェル、門を開けてくれ」


「畏まりました」


 龍に命じられるとアヴェルは門に魔力を流して、向こうで待機している門番に門を開けるよう伝えた。

 ちなみに日本の門は何の違和感のない細長い石で、異世界で制御しているために何も繋がっていない。

 そして門のような細長い石はゆっくりと横に開いていき日本に来る時に通った異世界転移の穴が一同の目の前に現れる。

 王の護剣を筆頭に次々と別れを言って、門を潜る。

 最後に龍とレンが入ろうとした時、


「龍!」

「レン!」


 陸斗が龍に千草がレンに声をかけた。

 二人は思わず立ち止まって、振り返る。

 そして千草はレンのもとに駆け寄り、レンを自分の方へ寄せて抱きしめた後に門の方に向かせる。


「向こうに行っても頑張ってね!それと絶対に振り向かないで約束…破っちゃうから」


「うん、千草も頑張って。またね」


 レンは龍を残して門を通った。


「…ああ、立ち止まらせて悪いな。ちょっと言いたいことがあってよ」


 言いたいことってなんだ?


「…想像できねぇけどよ多分、龍はこれから予想もしない出来事に見舞われたり、事件の渦中に佇んでしまうことがあると思う。いや、既にあったし、これからもあるんだろうな。ようありがちな言葉を言うけどさ辛い時や無理で無理でどうしようもない時は逃げても良いんだぞ。だけど負けるな。逃げても良いが最後には絶対に勝て!」 


 確かに良くありそうな言葉だな。

 というか何で照れ臭そうに言ってんだよ。

 真剣に言っている所で悪いが思わず笑っちまいそうだ。


「ああ、やっぱり今のなしだ!照れ臭くて黒歴史に残りそうだ。…まあ、龍の場合、逃げる事が難しそうだな。だってお前は」


「「平和主義者だからな!」」


 二人の言葉が重なった。

 少しだけ間が空いて、二人は腹を押さえながら笑い出す。

 自分が口癖のように言っていた言葉、親友が口癖のように言っていた言葉、何の面白味のない言葉が最後に二人を笑顔にする。


「何だこれ?俺ら何でこんなくだらなぇことで笑ってんだ?」


「くだらないとは失礼だな。結構、気に入ってる言葉なんだぞ。まあ、最近は話を聞かない相手が多いから言えてないが…。平和主義者だとしても国民のために俺は勝つよ。平和主義者、舐めんなよ」


「それもそうだな。ほれ」


 陸斗は『これでいったんお別れだ』と言いたそうに右の拳を前へと突き出す。

 対して龍は名残惜しそうにそっと同じく右の拳を前へと突き出して、陸斗の拳にぶつけた。

 良くありがちな男同士の別れの挨拶である。

 そんな普通の別れ方で二人は締めた。


「頑張れよ皇帝陛下。…おいおい、レンは泣かなかったのにお前が泣きそうでどうすんだよ」


「悪ぃ…。我慢してたけど無理そうだ。泣かないうちに行くわ。またな陸斗、こんな俺の親友になってくれてありがとう」


 振り返った龍から一粒の雫が落ちた。

 扉は四人の別れを惜しむように音を立てながらゆっくりと閉まる。

 もう、扉は開かなかった。


「行っちゃったね」


「ああ、そうだな。…こっち見るなよ」


「陸斗だって見ないでね…」


 我慢していた涙が一気に押し寄せた。

 閉まった扉を見ている二人の脳裏には四人で過ごし記してきた思い出がフラッシュバックするかのように流れる。

 本当はもっと居たかった。

 一緒に文化祭と体育祭を楽しみ、三年生になれば修学旅行で思い出を作り、受験勉強なんかも悩みながら共にやりたかった。

 そして一番は卒業式、卒業証書を受け取って思い出に浸りながらそれを見せ合い、最後には桜の木の下で写真を撮る。

 二人が必ずまた戻ってくる、それはわかっている。

 けれどもう四人で作れない思い出だってある。

 一生に一度の思い出を四人で作りたかった。

 しかし、世界はそれを許さない。

 泣こうが喚こうがすがりつこうが世界は四人を引き離す。

 …だけど二人は涙を拭いてもう涙を落とさなかった。


「…あ、そういえば龍の父さんと母さんは別れを言わなくても良かったんですか?」


「うん?ああ、別に良いさ。両親っうのはな何も語らずに子供を送り出せば良いんだよ。子供の旅立つ背中さえ見れればそれで充分だ。こんな大層なこと言ってるが初めて送り出す時はその背中を蹴飛ばしたんだがな儂」


「…あんた龍に何やってくれてるのよ!!」


「ギブギブ!」


 初めて龍の背中を蹴って送り出したことを聞いた琥珀は翔龍の首を締め上げる。

 そして翔龍は苦しそうに琥珀の腕を何度も叩く。

 また、陸斗と千草に苦笑いをしながらその光景を眺めていた。


(…またな龍)

(…またねレン)



次章からはとにかくやりたくてやりたかった戴冠式篇をやっちゃいます(≧∀≦)

それではまた次の話で!

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