162話 天に至る
皇帝陛下出陣
戦いは終わりを迎えていた。
ディルフェアン連合側の損害はほぼゼロになっている。
それに対して明野家側は戦う者の誰もが満身創痍で地べたに膝を付けて立ち上がる気力がない。
自分の主の子を、自分の主を守ろうと武器を取りたいが握れない。
最終手段としてレンは躊躇いながらも出陣しようとした。
だが、その時に木製の扉が怒声を上げて戦場に帰還を知らせる。
そして、そこから何者かが静寂な怒りを堪えて出てきた。
ほんの数日前の出来事なのに彼は見違えるほど逞しく成長している。
眼光は鋭く、呼吸は落ち着いており、筋肉もやや膨れ上がっている。
現れた彼に誰も声を掛ける事なく、代わりに泣く者や笑顔を取り戻す者が居た。
彼は静かに前へと歩み出でて庭に下りる。
そして第一声はこれであった。
「お前ら良く戦ってくれた。もう、大丈夫だから後は俺に任せろ」
龍が修行から戻ってきた。
「龍様!」
アヴェルは龍に近づいた。
もちろん、他の王の護剣もだ。
「悪ぃちっとばかし力を掴むのに手こずった。で、あれがディルフェアン連合の大将って事であってるか?」
「いえ、大将ではなく国主という幹部に相当する者です」
ディルフェアン連合は幹部を別の呼び方で表してるのか。
連合だから国主として呼ばれてるんだな。
じゃあ、なるべく逃がさないように努力するか。
色んな情報が引き出せそうだし。
「龍様、我々も戦います!」
「アヴェルよ!龍、一人でやらせておけ。爺ちゃんはどうだった?」
「無茶苦茶、強かった」
「爺ちゃんってまさかルシフェル様!?龍様、ルシフェル様と修行してたの!?内緒で同行すれば良かった」
いや、流石にそこまで同行するなよ。
というかしたらアヴェルにお仕置きを喰らわされるぞ。
さて、茶番はこれぐらいにして…。
「まあ、そこで見とれ」
龍は一人でディルフェアン連合の前に出る。
「あんたがノボル・インフェルノ?私と大して年は変わらないじゃん。うわっ、弱そう」
「悪かったな弱そうで。というか絶対にお前より俺の方が年上だぞ!」
俺が大将だと思っていたのは隣の屈強な男の方だったんだけど。
ああ、そちらが国主ですか。
お互い見かけによらず凄い地位に居ますねぇ。
けどあんたのは共感できねぇけどな。
「その年で幹部とかそれなりの事情があると思う。だがあんたの身の上話は牢獄でたんまりと取り調べついでに聞きますよ」
相手の数はそれなりだな。
数は多いが負傷してるから大した支障にはならない。
では始めますかね。
「そんなのめんどいからパス!けど一応、礼儀として名乗っておくわ。私はルナ・ファナティア、御存知の通りディルフェアン連合の国主、幹部よ!」
あら御丁寧にどうも。
でも、目が何か狂ってるぞ。
今すぐにでも俺を殺したいっていう目だな。
じゃあ、俺も名乗っておくか皇帝らしくビシッとな!
「我が名はルシフェル大帝国二代目皇帝ノボル・インフェルノ!御存知の通り、魔王だ。直々に相手してやる光栄に思え!そして手加減は一切しないから精々、足掻いて我を楽しませろ!」
「さあ、標的がのこのこ自分から現れたよ!我らが連合王様のために奴を葬りなさい!」
団員達は龍に一斉に襲いかかり、戦いは再開された。
そしてこれは龍が戦いの中で皇帝、魔王として初めて名乗りを上げた瞬間である。
アイザックの時のように苗字と名前だけではなく『ルシフェル大帝国二代目皇帝』という肩書きを添えてだ。
次回!龍VSディルフェアン連合!
それではまた次の話で!




