160話 祖父と親父と俺
試験は終わって真剣な話し合いをします!
…まあ、勇者パーティーのことです。
信じられないが俺は爺ちゃんに勝てた。
そして血が上っていた頭は戦いが終わると冷静さを取り戻して爺ちゃんが何故、あのような事を口走ったのか気づいた。
「…合格だ。さっさと立ち去れ」
「…戦いの中での全ての言葉、あれって嘘だろ?」
「ああ、そうだ。…流石の我も悪役にはなれんだか。…その扉を抜ければ再びこの世界は現れない。そして我も二度と蘇らない。これが最後の別れだ」
アダマンタイト製の理由がようやく理解できた。
あの球体ではなく部屋そのものが魔導具なのか!
そして地下室として偽り、この大規模な魔導具を隠す。
全てがこの修行に繋げるための隠蔽工作…。
おっとそういえば伝える事があったな。
「そうそう、親父が元気でやっているってさ」
「ふん、伝えなくてもわかるわ。…あのどうしようもないガキが良くやったものだ」
「親父って悪ガキだったの?」
「ああ、いつの間にか『武者修行の旅に出る』っつう書き置きがあって居なくなってた。で、何か嫁を連れて帰ってきた」
何だそりゃあ!?
親父って昔は自由奔放な奴だったの!?
そして旅先で母さんと結婚したのかよ!
「それと龍、そこに座れ」
いや、急いで地上に出たいんだけど。
龍が地上の方を心配しているとルシフェルは微笑んで言う。
「直ぐに終わる。上では数秒の出来事だ」
「わかった。けど早めに終わらせてくれ」
龍は安心してその場に座った。
祖父と孫、初めての真剣な話し合いである。
「まずはこれを渡しておく」
ルシフェルは録音機をお互いの目の前に置いた。
戦いの最中に壊れないよう離れた場所に保管していたのである。
「これを五王家だっけか?ベルブゼラ、ゴブリード、ウィディア、ペオル、ルークスの現当主に聴かせろ。内容は今からお前に言う」
多分、『自分の国をこうしてくれ』とか『自分の遺品は始末しといてくれ』とかそんな話だろうな。
「勇者は生きておる」
「…今、何て言った?」
俺の聞き間違いじゃなければ『勇者は生きている』って言ったよな。
「勇者は生きている」
「…はぁ!?爺ちゃんが倒したんじゃないの!?」
「世間ではそうなっている。しかし、創造でも奴は倒しきれんだ。封印できるまで体力を削った後に魔法で封じた。それと勇者以外にも生きてる奴は居る」
「ちょっと待ってくれ!もしかして勇者を倒せってか!?それと勇者パーティーの仲間も生きてるの!?何人!?」
冗談じゃねぇぞ!
勇者が生きてて、その仲間も生きてるのか!?
爺ちゃんでも倒せなかった化け物を俺に倒せと…。
「絶望するのはわかるがお前は我より強い。それだけは保証しよう。…話を戻すぞ。勇者以外に生きてると思われる奴は戦士、僧侶、魔導士の三人だ!」
ああ、やっぱり定番なんだその職業。
勇者パーティーってだいたい勇者、戦士、僧侶、魔導士だよな。
「戦士の奴は確定だ。奴は輪廻転生という言葉通りに死亡時に転生する個力の持ち主だからな」
ほうほう、転生物の主人公ですか。
なら、チート能力を使用してきそう。
「次に僧侶、奴は神に仕える身でありながらも禁忌に手を出した。不老不死になった。まあ、勇者同様に封印したが勇者に隙を付かれて持ち逃げされたわ」
何やってんの!?
ああ、探すのに苦労しそうだ。
今でも封印されていると良いがそれは最高のパターンだろうな。
「最後に魔導士、奴は勇者パーティーの中で唯一、人族ではなかった。種族はハイエルフ。奴は終盤になると一切、現れなかった。恐らく何処かに逃げ失せたな。大方、僧侶のと行動してるのであろう。こいつらに関してはこれにも録音している。龍達にも役に立つ情報も入っている…。無理を承知での願いだ!我が生前にやり残したこと、この四人が世界規模で何かをやる前にどうか葬ってくれないか!」
龍は少し黙って録音機を持って立ち上がり、目を瞑りながら考える。
例え祖父に自分の強さを保証されても自信がない。
もし仮に勇者達を倒せなかったらどうなるのか?
恐らく世界は滅亡するだろう。
また、こちらの世界にも奴らは手を出す。
そして、そんな最悪な状況になってしまうのではないかと恐怖している。
だが皆の力を借りれば倒れるのではないか?
そんな希望も頭の中にはある。
龍は覚悟を決めて目を見開いて答えた。
「ああ、やるよ。爺ちゃんが言うほど俺は強くない。けど俺には爺ちゃんに初代五王家の当主や家臣らがいたように皆がいる。だから皆と一緒に世界を救ってやるよ!」
「引き受けてくれるのか。…では手始めに地上で戦っている友を救ってこい!」
…ああ、そうだった!
色んな事を考えすぎて頭から抜けかけていた!
龍は急いで門に入ろうとする。
しかし、ふと立ち止まりルシフェルの方を振り向く。
「ありがとう爺ちゃん!俺、爺ちゃんと過ごした記憶がなかったからここで爺ちゃんと一緒に修行できて良かった!正直言ってすげぇ楽しかった!」
それを言い終えると龍は地上へと戻っていった。
「…礼を言うのは我の方だ。行ってこい龍、我が自慢の孫よ。あの可愛らしかった赤ん坊が立派になったものだな」
(…うん?それはそうと龍の奴、何か忘れていないか?…いや、我も忘れているようなぁ)
そう龍は何か忘れていた。
大雑把に説明すると体の一部のような奴だ。
「意気揚々と我を忘れていたな。まあ、その方が都合は良いのだが」
「ゼロ!龍はもう出て行ったぞ!」
「ああ、心配はいらん。一人でも出れる」
「何だそれは?」
置いてかれたゼロは何故か慌てる様子を見せなかった。
それよりも『これで良い』と言いたそうな顔をしている。
また人型の何かを持っていた。
「…依代」
てなわけでこの物語のラスボスは勇者です!
それとゼロがやっていることを結論から言うと単体で顕現しようとしてます。
それではまた次の話で!




