154話 宣戦布告
はい、宣戦布告しに行きます。
多少、胸糞要素あり
翌朝、翔龍は誰よりも早く起きて早朝の五時に敷地外に出かけていた。
それも村の外、谷山村は村を出た先に街が在るとは言え、街までは数時間も掛かる。
当然、今頃になって買い出しには行かない。
それなら何をしに行ったのか?
「国主、進行方向に人が居ます」
「昏睡させて。無関係の奴は殺したくない」
「ほう、感心したぞ。被害報告も来ていないようだし、真のようじゃな」
「…お爺ちゃん何者?」
ディルフェアン連合の幹部は目の前の老人に訊ねる。
もちろん、老人は翔龍である。
では何故、敵の正面に堂々と立っているのか?
「ショウリュウ・インフェルノと名乗ればわかるな?」
「インフェルノ!?まさかルシフェルの息子か!?」
「あら、大物が出てきちゃった。何をしに来たの?まさかこの人数をたった一人で倒せるとでも?」
見た限り、この場に居る敵の数は百人を超える。
これでも少ない方である。
流石に翔龍でもこの人数は無理がある。
「…何ってそりゃあ宣戦布告じゃよ」
突然、雰囲気が変わった翔龍を見て国主以外の団員は怖じ気づく。
翔龍はディルフェアン連合に宣戦布告をしに来たのだ。
いくら温厚な翔龍と雖も黙ってやられる訳にはいかない。
翔龍にだって闘争心は残っている。
「舐めてんじゃねぇぞ小娘共!自分のガキを殺されるのに親が黙っとるでも思っていたのか!?それはそうと小娘、今年で何歳になる」
「十八」
「哀れだな。今、龍は目覚めようとしている。それを刺激するなど哀れしか言いようがない。食わねば戦はできぬ。飯を食ってから来い。一人残らず叩きのめす」
翔龍はそれだけ言うと振り向いて、屋敷に戻っていく。
だが団員の三人が目で合図を送って一斉に翔龍に襲いかかる。
無論、翔龍はこれしきの不意打ちで傷を負うことはない。
不意打ちをした三人は一撃で戦闘不能になった。
(ああ。立ち振る舞い、魔力量からして敵う筈がない相手なのにさ。まあ、あいつらは使えないし、切り捨て確定だったから良かったけど)
翔龍は屋敷へと戻っていった。
「国主様、どうか回復薬を私達に」
(ああ、そんな子犬みたいな顔されると…昴っちゃう)
国主は団員に近づいた。
回復薬を渡すためではなく、トドメを刺すためだ。
徐々に近づいてくる国主の顔には憐れみの表情はなく、連合王の敵へと向ける冷酷極まりない氷のような冷たい表情しかなかった。
三人は瞬く間に自分達は殺されると察して地面を這いずりながら逃げる。
しかし、また一人、また一人と断末魔を上げ息絶える。
最後の一人は逃げるのを諦めて頭を地面に付けて懇願する。
死にたくない死にたくないと流れ落ちる冷や汗、高まる命の鼓動、震える足腰が生を訴える。
「国主様!どうか御慈悲を!まだ私は役に立てます!先ほどは失敗に終えましたが次は必ず成功させますのでどうか!どうか!その剣を鞘に収めてください!」
国主は歩みを止め屈み込んで懇願する団員の顔を覗き込む。
先ほどとは違って、柔らかい赤子をあやす母親のような表情だ。
「それだけ?本当の気持ちは?」
「…まだ死にたくない」
「そうだね死にたくないよね」
その言葉で懇願していた団員の顔に笑顔が戻る。
だが、
「けど私が気に入らないと思ったら君は死なないといけないんだよ。じゃあ、バイバイ」
溜め息で希望の火種を消されて絶望が心を支配する。
それは冷酷にも免れない死を誘き寄せた。
「嫌だ…。嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!」
団員は恐怖のあまり、尻を地面に付けたまま後ろに下がる。
国主は剣を振り回しながら殺すことなく近づいてくる。
そして大声で笑い、散ろうとしている命を見下す。
肉は切り裂かれて辺りに飛び散り、血は吹き出す。
腕がなくなろうと足がなくなろうと団員は止まることなく、泣きながら下がっていく。
「アハハ!!面白いねぇ!お漏らししちゃってるよ!もっと逃げて逃げて逃げて!」
「国主様」
「うん?今、楽しんでいるんだけど?」
「死んでおります」
団員は原形を残さずに肉塊になっていた。
それを確認すると国主は剣に付いた血を拭き取って鞘にしまう。
「誰か綺麗に片づけといて。後、食事の用意もできる?無駄なことしたからお腹、減った」
「了解」
国主の名はルナ・ファナティア、連合王に心酔し、狂恋の果てに堕ちた少女だ。
その心にあるのは連合王に対する狂った愛のみ。
己の命が果てるまで愛し続け、他者の命を散らして愛を示す。
ただの狂信者である。
「また一歩、あの方の目指す理想郷に近づいた」
次回も地上の方になります!
てなわけで両陣営、腹ごしらえタイム!
それではまた次の話で!




