122話 糸
龍が陸斗にほとんどのこと暴露します。
アリスとシエラが消えた事を知らされて女子以外の全員が総出で捜索を始めた。
そして予想通り垣根に人為的に隙間が作られていた。
また、エレノアと千草にはフィアナと恋を見張ってるよう伝えてある。
更に先ほど王の護剣から『怪しい箇所は隅々まで捜したが居なかった』と伝えられた。
「何処に消えたんだ!」
「落ち着け龍。まだ何かあった訳では」
「何かあったんじゃ遅いんだよ!」
陸斗は知らない。
アリスとシエラの精神状態がどれだけ不安定かを。
早く見つけねぇとゼロ・コントロール状態になっちまう。
今度は俺の記憶からもシエラが消えてしまう!
「というかさっきからボディーガードの人達、龍に報告してるよな?報告せずに捜せばいいのによ」
…陸斗もそろそろ勘づいてきたか。
…出し惜しみなしで全力で行くぞゼロ!
『考えがあるのか?』
アリス、シエラのどちらかの魔力の残留物質を見つけてくれ!
多分、ギリギリの抵抗はしている筈だ。
俺の事は二の次に考えろ!
絶対に二人を見つけてくれ!
『了解した。眼帯を外せ龍!』
「おい、どうした?さっきから固まって」
「世の理に叛逆せし神の魔眼!」
「こんな時に何言ってんだ!?」
何処だ!何処に居るんだ!
…捉えた!不良にしては考え抜いたな。
確かにそこなら捜索の手が届きにくそうだ。
「創造!飛行!」
「…飛んだ!?」
(え!?俺って読書中に寝たのか!?どうなってんだ!?龍が飛んだぞ!訳がわかんねぇ!)
龍が飛び立ってから数秒後、王の護剣が未だに目の前で起こった現状に戸惑っている陸斗の所に来た。
龍が何処に向かったのか訊くためである。
「陸斗様!龍様はいったいどちらに向かわれたのですか!」
「俺もわかんねぇよ!てか、あんたらが側にいれば二人は拐われずに済んだんだぞ!」
「…それに関しては私達も反省をしております。しかしながら私達の護衛の対象はあの四人ではありません」
アヴェルは弁解の余地がないことを悟ったのか淡々と真実を語り始める。
「じゃあ、誰だよ!」
「龍様です。我らが主、英雄魔王の孫、ノボル・インフェルノ様です」
「ノボル・インフェルノ…!?」
一方、その頃、龍は飛行と創造で創り出した風で高速移動をして昼前に登った山に向かっていた。
不良達は一度、龍達が立ち入った山に拠点を設けていたのだ。
まさか昼前に行き安全だと思っていた場所に潜伏しているなど誰が考えつくか。
境内の方が明るい。
聖域にバイクや原付で乗り込んでいるのか?
待ってろ二人とも!
龍は静かに境内の手前に降りて見張りをしていた不良二名を瞬時に戦闘不能にしてもう一人を捕らえた。
「警察か!?」
「二人は何処だ?。五秒以内に話さないとこのまま腕を折る」
「洞窟の前だ。頼むから折らないでくれ!」
「ご苦労」
龍は軽く気絶する程度の電流を浴びさせて不良を気絶させた。
この先に二人が捕らわれている。
俺は救出すべく急いで物音を立てずに木陰に入りながら洞窟へと向かう。
きっと二人なら大丈夫だ。
そう思っていた自分を殴りたい。
俺はその場に立ち尽くして目を錯乱しながら状況を確認している。
荒縄で縛られた二人、泣いて濡れてしまったシエラの服、必死に抵抗するアリスに近づく不良共のリーダー、その行為を盛り上げようと拍手や声をかける糞共、そして二人をコケにして笑ってやがるガキ大将。
バイクや原付のエンジン音よりも自分の心臓の鼓動の方が鬱陶しい程よく体に響き渡る。
心の最奥ではどす黒い何が理性の蓋を抉じ開けてきた。
呼吸は徐々に荒くなっていきゼロの声が聞こえない。
何かが起きてからではもう遅い。
不良共のリーダーがアリスに手をかけた瞬間、俺は不良共のリーダーの頭を掴んで地面に叩きつけていた。
俺の大切な何かがプツンと聞こえてはならない奇妙な音を立てて千切れた。
「…殺す」
次回!龍VS不良!
それではまた次の話で!




