6 師匠ができました
sideソウジ
ピチョン……。
「うっ……?」
滴り落ちる水滴の音で意識が覚醒する。目を開けば、そこはどこか薄暗い空間のようだった。
「いてて……」
身体を起こそうとして気づいた、どうやら全身に包帯が巻かれているようだ。
つまり、誰かが治療してここに連れてきてくれたということだろう。そう、おそらくは記憶に残るあの銀髪の少女。
「それにしてもどっかで見たことある気がするんだよなぁ……」
ガタッ!
「おわぁっ!?」
突然鳴った物音に驚き、音が聞こえた方へ振り向く。
そこには、先程思い浮かべたその銀髪の少女がおかしな姿勢で固まっていた。
「あ、あはは……起きたみたいだね」
「あ、あぁ……お陰様で」
「え?」
「ん? いや、これ治療してくれたの君だろ?」
包帯に巻かれた身体を指さして尋ねる。彼女は、若干顔を曇らせてから頷いた。
「あぁそういうことか……そうだよ?」
「やっぱりか……。ありがとう、助かったよ」
「……ごめんね? ダメだったんだ」
「んん?」
彼女は何故か心底申し訳なさそうに、俯いて謝る。どうも要領を得ないな......。
「どういうことだ……?」
「ちょっとごめんね?」
徐ろに近づき、俺の包帯を取り始める。端正な顔立ちが至近距離にあり、緊張してしまう。
スルスルと剥がされていく包帯、そしてそれが全てなくなった時、俺の胸部にある左肩から右脇腹へと至る傷跡が露わになる。
「私の治癒魔法じゃ細かい傷は治せても、この傷だけは跡が残ってしまったの」
「おぉ、凄いな……」
「え? ……凄いって?」
「だってさ、こんな傷痕かっこいいじゃないか」
「かっこいい……?」
俺の発言に彼女は目を丸くして、首を傾げている。
まぁそうなるよな……普通こんな傷見たら嫌がるだろうし。
彼女の気持ちも理解できるのだが、俺はあえて笑顔を向け、肯定する。
「あぁそうさ、だから……助けてくれて"ありがとう"なんだ」
俺のその言葉で彼女は、弾かれたように顔を上げた。
その顔は驚きに彩られ、目尻には涙が浮かんでいた。
「あ、ええと、だから、なんていうのか……普通に"どういたしまして"でいいんじゃないかな……?」
「……ぷっ……ふふ、あはははは! 何それ、もう!」
俺はその顔を見て、思わず狼狽えてしまう。しどろもどろになりながら、何とか言葉を返す。自分でもなにを言ってるのか分からない。
それに対して彼女は数瞬、固まった後、小さく吹き出し、笑いだした。
「べ、別に笑うことないだろ……!」
「だって……ううん。ここは……"どういたしまして!"だね!」
彼女は屈託のない笑みで頷き、ようやく俺の感謝を受け入れてくれた。
しかし、直後悪戯を思い付いた子供のようにニヤリと笑った。
「あ、後、色んな意味で"ありがとう"!!」
どうしてのかと思っていたら満面の笑みで含みを持たせた感謝を述べてくる。
今度は、俺が固まる番だった。思わず苦笑が漏れる。
「はは……"どういたしまして"」
してやられたな……。ニコニコと笑う彼女を見て溜息をつく。
さてと……傷自体は治ってるみたいだし、起き上がらないとな。
俺は身体に力をいれ、起き上がろうとするが……。
「あ、駄目っ!」
「いっててて!!!!」
全身に筋肉痛にも似た痛みが走り、目がチカチカとする。何が起こったのだろうか……。
◇
聞けばこの症状は治癒魔法によるものらしい。
そもそも治癒魔法とはそんな万能なものではなく、魔力によって働きかけ、その人自身の再生能力を一時的に底上げするもの……つまり、治癒された本人は身体の栄養やら養分、およそエネルギーと呼べるもの全て一気に欠損するのだ。その結果どういうことが起きるかというと俺のように、暫く身体を動かすことすらままならなくなるそうだ。
「だから暫くは安静にしていないとダメだからね」
「了解だ……いてて……」
「まぁ何事にも、例外というものも存在していて治癒魔法に関して特化した人は、その魔法適性と膨大な魔力に物を言わせて、治療に必要な養分とかですら魔力で補ってしまうんだけどね……」
こうして、休息を余儀なくされた俺はアリア(彼女の名前だそうだ、魔法に関する講義の前に自己紹介された。ちなみに冒険者らしい)と共に、この洞窟で過ごすことになった。
◇
「にしても……やることないなぁ」
「だったらさ、ソウジくん魔法使える?」
「あー……いや俺の村には教えてくれる人がいなくてさ、魔力が何かすらよく分かってないんだよ」
そうそう......先程の自己紹介のときから俺はド田舎の村から冒険者になるために出てきた、ということにしている。村の名前とか聞かれたらどうしようかと思っていたが、聞かれることはなく何とか誤魔化せたようだ。
「そうなんだ……なら私と一緒に魔力操作から練習する? コレでもそこそこ教え――」
「――するっ! 何をすればいいんだ!?」
思わず食い気味に答えてしまったが、仕方がないというものだろう。魔法が使えるかもしれないのだから。とにかくこれで退屈することにはならなそうだ。
わくわくとした気持ちが抑えられず、また身体を起こそうとしてしまい慌てて止める。
「……じゃあ私の事は教えてるあいだ師匠って呼ぶこと! いい?」
「はい、宜しく頼みます! アリア師匠!」
そんな俺に呆れたのか溜息を軽くつくと自分のことを師匠と呼ぶように言って、それが条件だという。
もちろん、迷う理由などあるはずもなく、即座に頷いた。
こうして俺とアリア師匠との楽しい?訓練生活が始まった。





