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41 事件の裏では......


 ???side


「む? ......どうやらクォーツリクに送った魔物たちが倒されたみたいですねぇ」

「だーから、俺様が行ってやるっていったんじゃねぇかよぉ!」


 薄暗い部屋の中、二つの声が響く。

 先に聞こえたものは、整えられた白髪にモノクルを付けた老齢の執事が発したもの。そしてそれに応えたのは、毒々しい紫髪をツインテールにした幼い少女のものだった。

 その容姿に似合わない粗野な言動をする少女の前に、執事姿の男は珈琲をコトリと置く。


「まぁまぁ落ち着いてください、珈琲は如何です?」

「ん、飲む......」


 ふてくされたようにブラブラと足を揺らし、ズズズと音を立ててコーヒーを飲み干す少女。

 が、すぐに舌を出し、苦々しい顔をする。それを見た執事が笑い声をあげ、少女を揶揄(からか)う。

 

「うぇ、やっぱり俺には無理だぁ、苦い」

「ほっほっほっ、いけませんねぇ。もう少しお淑やかにしないとコーヒーは美味しく感じないものですよ?」

「うぅ......うるっせぇ! 元々コーヒーなんざいらねぇんだよぉ!」


 涙目で言い返し、ドタバタとツインテールを揺らして少女は男の燕尾服を引っ張る。

 だが、彼はニコニコ笑って素知らぬ顔をするだけだ。


「......イルム、アルバ、五月蠅いぞ」


 そんな時、もう一つの声がその空間に響く。

 それを受けてイルムと呼ばれた少女が片眉を上げる。

 

「む、元はといえばお前があんな雑魚を送るからだろ」

「イルム、それに意味がないわけでもないのですよ?」

「何処がだよ! さっさと俺が行って潰したほうが早いじゃんか」


 執事姿の老人――アルバが窘めるが、聞く耳を持つ様子はない。

 先ほどのように不機嫌な様子を隠そうともせず、ユラユラと脚を揺らして座っているだけだ。


「それがどういうことになるのか、わかっているのか?」


 ゆらりと壁にかかったランプの灯が揺れる。

 そして、気が付くと先ほどまで誰も座っていなかった椅子に一人の男が座っていた。

 腰近くまで伸びた黒髪に、落ち着いた物腰の男。

 そしてその冷徹な琥珀色の瞳が、まるで夜闇に浮かぶ月のように視線を引き付けてやまない。


「私にもコーヒーを頼む」

「ほっほっほっ、かしこまりました。......ブラックで良かったですかな?」

「ああ」

「俺もブラック......は無理だから、ホワイトくれ!」

「えぇと......ホットミルクでよろしいですかな?」

「? おう!」


 突然現れたというのに、彼らはなんら変わった様子を見せない。

 そこには驚きも、怒りも何もなくただの日常的なことのように彼らは応じる。......いや、実際に日常なのだろう。

 

「で、どういうことだよ?」


 イルムが男の対面に座り、頬杖をついて尋ねる。

 それに対して、黒髪の男はその端正な顔を薄く歪めて笑う。

 

「やはり、わかっていなかったか」

「な、なんだよ......」

「良いか? まずお前が出張っていけば何が起こる?」


 男はまるで講義するかのような口調で、イルムへと問いかける。

 

「だから、一瞬で殲滅して終わりだろ?」

「ああ、そうだな。それは間違っていないだろう、お前の実力ならば、な」

「急に、ほ、褒めるんじゃねぇよ」


 男の肯定に対して、その白磁のような肌を赤らめ、照れるイルム。

 が、男はそれに対して頷くでもなく、首を横へと振る。


「やれやれ......問題はその後だ」

「ん?」

「お前が姿を見せていたことが周囲にバレればどうなる?」

「バレたらって......あ」


 何かに気づいた様子を見せるイルム。次第に、顔色が青ざめていく。

 

「俺たちだってバレる......」

「そうだ、何処のものかってわかってはいけないだろう? だからああいった捨て駒(・・・)を放り込んで潰せたら御の字だろう」

「あうっ!」


 男は手に弄んでいた食事用のナイフを鉄球に変えて(・・・・・・)イルムへと弾く。

 それは風切り音を立て、そのまま一直線に飛び、紫髪の合間に見える額へと直撃する。


「い゛っでぇぇぇぇぇぇ!」


 椅子から落ち、額を抑えて転げまわるイルム。

 そこへ両手にマグカップを持ってアルバが戻ってくる。

 

「ほっほっ、珈琲が淹れ終わりましたぞ」

「ありがとう、イルムもいつまでも転がってないでさっさと飲んだらどうだ?」

「温かいうちにどうですかな?」


 そう、声を掛けられて転がりまわっていたイルムがピタリと止まる。

 そのまま起き上がり、軽く男を不貞腐れたように睨む。

 

「転がってないでってお前が言うなよな!」


 そう憤る彼女の額は真っ赤になっていた。

 ......鉄球をあの速度で打ち込まれて、その程度で済んでいる方が驚きなのだが。

 

「ふっ、当てられるほうが悪い。あの程度、避ければ良いだろうに」

「何処のやつが話の最中に鉄球なんてもん打ち込むんだ! それにお前どうせ、"必中の呪い"かけてたろ!」

「......さて、何のことやら?」

「あぁぁもうっ! 腹立つ!」


 怒られている当の本人は意にも介さず、ただ肩をすくめるだけだ。

 それが余計にイルムの怒りを買い、彼女の握りしめた拳からおよそ少女が立てているとは思えない音をミシミシと鳴らす。


「......二人とも、そのあたりにしておいてはどうですか?」

「む?」

「お?」


 言い合っていた――片方が一方的に突っかかっていただけだが――二人が振り向くとそこには椅子に座り珈琲を飲んでいるアルバの姿があった。

 彼が先ほどまでと同じく、ニコニコと笑っているにも関わらず、二人の顔色は悪くなっていく。

 手に持っていたカップをコトリと置くと、ほっと溜息を吐く。


「珈琲やミルクは温かいうちに飲むのが鉄則ですよ......?」

「あ、ああ、わかっている。私は飲んでいるだろう?」

「俺も! 俺も飲んでるよ、ほら......ってあっちぃ!」


 アルバの背後からゆらりと黒いナニカが立ち上り始めたその瞬間、部屋の空気がズンと重くなり、世界が色褪せたように見え始めた。

 二人は慌てて、机にあった珈琲とミルクを手に取って飲み始める。

 イルムは一気に飲みすぎたらしく、熱いと叫んでいるが。

 

「ふむ......今日のところはまだ冷めていないようですし、良しとしましょうか」


 そんな二人の様子を見て、アルバはオーラのようなものを引っ込め、また珈琲を手に取る。

 それと同時に空気も元通りになり、あからさまな安堵のため息を付いて、イルムたちも椅子へと腰を下ろす。


「......ふぅ、ま、そういうわけだ」

「んー、それは分かったけど、結局何も出来ずに終わったじゃんか」

「そうですね、早々にどうするかを決めなければならないかと......」

「分かっている」

「ほ、では?」


 アルバに尋ねられ、男は不敵な笑みを見せる。

 

「ああ、直に伝えるとしよう。今回のことでわかったこともある」

「ふむ......ではそのように他のものにも伝えておきましょう」

「まー、あいつら来るかどうかわかんねぇけどな!」

「ま、いいさ。やつらにはやつらで仕事もある」


 そう言って席を立つ男の脳裏には、フロストベアと対峙していた刀を扱う少年と白髪の少女が思い浮かんでいた。

 

「......見せてもらおう、貴様が我の希望(・・)に足る存在なのかを」


 暗い闇に落ちた廊下を歩みながら、男はこれからの先の未来へ思いを馳せ、笑みを浮かべるのだった。

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