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40 旅は道連れ


「で、ではもう討伐なされたので……?」

「ええ、ここに」


 少し、見せるものでもないかと気にはなったが証拠には変わりないのでディメンションバッグからフロストベアの頭部を取り出す。


「お、おお、まさしくこれはあのモンスターの……」


 ゼオドーフ村の村長でリリルの祖父であるゼアス・ゼオが俺の取り出したフロストベアの頭部に恐る恐る触れる。

 そして、それを持ち上げ、幾度となく確認する。そしてようやく本物だと確信できたようで安心した様子で座り込む。

 

「誰一人……欠けることなく、か。よかったの、ほんによかった……」


 幾人か戦闘の心得があるものがいるとはいえ、あのような高ランクモンスターに誰も欠けることなく、倒せるはずもない。そういった状況での村長の心的負担や村人たちの不安はかなり大きいものがあったのだろう。

 年老いた顔を更にしわくちゃにして笑う村長の様子に自然と俺たちの顔にも笑顔が浮かぶ。


「さて、ソウジ殿、少し手伝っていただきたいのですが、宜しいでしょうか」

「? なんでしょう」

「皆を安心させる為にコレを見せていただきたいのです」

「それは……大丈夫でしょうか」

「問題は無いでしょう、むしろどんなものが自分たちの暮らしを脅かしたのか知るべきです」


 そういうもの、なのか? まぁ、こちらの世界というか、この村の方針がそれならば何も反対する理由はない。むしろここでとやかく言う方が間違っているだろう。


「わかりました」


 ◇


「我が村の民よ、脅威は去った! ここにいるソウジ殿とアリア殿が見事、倒してくれたのだ! もう怯える必要は無い!」


 村長の演説に合わせ、一礼。そしてディメンションバッグより頭部を取り出し、持ち上げる。


「おお……!」

「まさしくあの化け物だ」

「助かったのだな……」


 最初は理解が追いついてないようで、唖然としていたが、ザワザワと騒めきが広がっていき、村人たちの顔に笑顔が浮かんできた。

 それを確認すると村長はドンッと杖をつき、注目を集める。


「じゃが、村の大部分が破壊されてしまったのも事実。これから先、大変なことも多いじゃろう」


 そう、村自体はかなりの被害を受けている。復興には時間がかかるだろう。

 村人たちは静まり、村長の話に聞き入る。


「そこでこれから先への激励と冒険者殿への感謝の意を込めて、宴を開きたいと思う!」

「え?」

「「「オオオォォォォ!」」」


 思わず、身体の力が抜けてしまった。

 そんなことをして、大丈夫なのかと尋ねようとしたが、アリアに止められる。


「こうやって自分たちを鼓舞するんだよ、こういうときは騙されたと思って騒いだほうがいいの」

「そうなのか……」


 ほんとさっきから驚かされっぱなしだ。ところ変われば文化も変わると言うが、ここまで変わるものだったとは。

 視線の先では既にもう、リリルたちが宴の準備をし始めている。それを見てアリアもその輪に入っていくので笑って俺も追随する。


 ◇

 

「へぇ、それでこんな精霊と契約したんだ」

『こんなとはなんだ、こんなとは。失礼な小娘だな』

「だって、そんな姿だからねぇ」


 ぷにぷにとアリアがつつくのは、子猫サイズほどになった紅炎だ。

 どういう経緯で俺が助かり、なぜリリルの救うことが出来たのか、それを説明していた。そのとき紅炎が魔力をよこせと言うので与えるとこのようにして現界してきたという訳だ。

 確かにアリアの言う通り、こんな姿では威厳も何もあったものではない。


「はー、可愛いですねぇ」

『こ、こら! やめんか! (オレ)に斯様な扱いをするでない!』

「えへへー」

『はぁ……』


 しかも、何かがリリルの琴線に触れたようで蕩けた顔をしてミニ紅炎を抱きしめている。

 紅炎も逃げようともがくが中々抜けられず、諦めたようだ。


「にしても、ソウジくん」

「ん?」

「最終的には無事だったから、良かったけどもう二度とあんなことしちゃダメだよ。無茶した結果、死んでしまうなんてよくある事なんだから」

「……ああ」


 今思い返しても、リリルが死んでいたらと思うと背筋が凍るような思いだ。

 その話を聞いていたリリルが申し訳なさそうな顔で会話に混ざってくる。


「でも、あれはボクが勝手に……」

「いいや、リリルが居なきゃ俺は死んでいただろう。それは確かなんだが、同時にもっと自分の命を大切にして欲しい」

「それは……お兄ちゃんが、ソウジさんが死んじゃうって思ったら勝手に身体が動いて」

「それでも……!」

「そこらにしてやってくれないかな」

「!」


 頭上から穏やかな声が聞こえたかと思うと、ぽんと肩に手を置かれた。

 振り返ってみると、そこには門番をしていたリリルのお父さんがいた。


「えっと……」

「リアスだ、遠慮なく呼び捨てしてくれて構わないよ」

「いえ、そんな、リアスさんと呼ばせていただきます」

「礼儀正しいんだね」


 ふっと柔らかく笑うと俺の隣に腰を下ろす。

 そして、真面目な顔つきとなり、俺の事を見据える。


「正直な話、私は怒っています」

「お父さんっ!?」

「リリルは黙っていなさい」


 突然の言葉に驚いたように叫ぶリリルだったが、関係ないとばかりに一蹴されてしまう。


「大事な娘が一人の冒険者を助ける為に命を失いかけたのです、それもよく知らない者をです」

「それは……」

「ええ、これは私の感情論です。頭では仕方ないと割り切ってもいますし、リリルも無事でした。怒る方がおかしいのでしょう」


 そう言って顔を伏せるリアスさん。心無しか、リリルによく似たその金髪も艶を失い、耳も垂れ下がっているように思える。


「私は、いえ私たちは数年前に妻を亡くしております」

「! ……そう、だったのですか」


 姿が見えないとは思ったが、まさか亡くなっていたとは……。


「ええ、活発で男顔負けの腕っ節、彼女の格闘術は私なんて遠く及ばない、技巧と勢い両方を兼ね備えたものでした。リリルのこの活発さも彼女譲りでしょう」


 やはりか、リリルの戦う様子を見れば母親が優れた格闘家だったことは想像に容易い。


「だから余計に怒ってしまうのかな……」

「俺が不甲斐ないばかりに……すみません」

「あ……いえ! こちらこそ村を救ってもらったことには違いないのに、こんな……私自身、何が言いたいのかわかっていなかったのですが、こうして君と話せてよかった、君になら任せられる」


 先程とは一転、憂いが晴れた表情で笑うリアスさん。よく分からないが……。

 今度はリリルへと向き直り、彼女のことを見据えて、何かを促すようにする。


「ほら、リリル。言いたいことがあるのだろう?」

「お父さん……気づいてたの?」

「私を誰だと思っている、お前の父さんだぞ」

「……ふふ、そうだったね」


 そして、リリルは父親の促しを受けて俺たちの前へとやってきた。

 居住まいを正すその様子に俺はついていけない。だが、どうやらアリアは分かっているようだ。


「えと、リリル?」

「お兄ちゃん、アリアさん、ボクも連れて行ってもらえないでしょうか?」

「連れていく、ってどこに?」

「はぁ……ソウジくん、とぼけないの」



 本当に分からないので、どう返事したものかと考えているとリリルが困った顔で付け足す。


「えっと、お兄ちゃんに冒険者になってついて行きたいんです……」


 えっと、それはそのクォーツリクまで来て冒険者になって、俺たちとパーティを組むと言うこと、だよな。


「いいのか?」

「はい」

「俺だってクォーツリクにずっと居るとは限らないぞ?」

「大丈夫です、そうなっても着いていきます」

「……リアスさんはいいんですか?」

「娘が決めたことです、親が口出しするものでもないでしょう」


 最後の砦も陥落済み……。どうしたものかと迷っていると、リリルが最終兵器宜しく上目遣いで見上げてくる。


「ボクのこと、嫌い?」

「んぐ……! 嫌い、じゃない……」

「じゃあ?」


 こんな風に言われて断れるやつがいるのだろうか、いやいない!


「はぁ、いいよ」

「やったぁ!」

「……娘を宜しく頼むよ」


 俺が頷くと、リリルは飛び上がって喜び、抱き着いてくる。

 横ではリアスさんが射殺さんばかりの視線で俺の事を見てくる。……そんな顔するなら許可しないでください。


「よろしくね、お兄ちゃん!」


 こうして俺たちの仲間に小悪魔めいた妹が増えたのだった。


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