38 フロストベア討伐戦③ 契約
本日2話目です。
「お前……な、なんで……」
「心配になっ……て見に来ちゃいました……」
「分かった、もういい! 喋るな、今すぐ助けてやる!」
喋る度に口から血がこぼれる。まだ何か伝えようとしているが、喋らないように必死に止める。
「ねぇ、ソウジさん……ボクね、ずっとお兄ちゃんが欲しかったんだ……」
「なにを……」
「短い間だったけど、ソウジさんはまるで……お兄ちゃんみたいで……お兄ちゃんって呼びたくなっちゃった……」
「いい!……呼んでくれ! だから、逝くな!」
「えへへ……お兄ちゃん……だ」
何が、"俺は強いんだからな"だ、何が、"必ず助けてやる"だ……! 結局、俺はこんな小さな女の子一人すら救えない……! 世界を救う大それた力なんて要らないから、身近な、大切な誰かを救う力が欲しい! このままじゃ、俺はいつまでも……!
──────力が欲しいか?
「!! 何だ……ここは?」
突然、声が響いたかと思えば俺は何も無い白い空間に立っていた。
アリアもリリルもいなければ、フロストベアもいない。あまりのことに驚きよりも困惑が勝つ。
『ここは精霊界だ』
まただ。何処からともなく、声が響いてくる。
「何だ、誰なんだ……!」
『今はまだ教えられん。お前から、"答え"を聞くまではな』
「何を言っている……?」
ちょっと待てよ……さっき、『精霊界』と言ったか? つまりこの声は精霊、それも自我を持つ大精霊の類……!
少し落ち着こう……まずは現状確認だ。
「大精霊、少し尋ねたいことがある」
『ほぅ……ヒントを出したとはいえ、すぐに辿り着くか。よかろう、答えられることならば答えよう』
やはり、大精霊で間違いないようだ。先程から気になっていたことを尋ねる。
「まず一つ、ここは精霊界と言ったが俺はどうなってる?」
『うむ、現世のお前は未だにあの少女を抱いたままで、精神だけをこっちに連れてきた』
精神だけ……身体もあるように感じるのだがな。
「じゃあ、俺がここにいる間、俺の仲間たちはどうなる?」
『……ここは現世とは、時間の流れが違う。ここで幾ら過ごそうが、向こうでは数秒と経っていまい』
よかった……一番の懸念は問題ないようだ。ひとまずは安心できた。
「最後に、どうすればリリルを助けられる?」
『分かっていたか……』
「最初は取り乱したが、呼んだタイミングを考えればな。……それで俺は何をすればいい?」
何だってしよう、足や手の一本や二本くれてやろう。この命すらも……。それであの少女を救うことが出来るのなら。
『……ふっ』
「?」
『ふっはっはっはっ!!!』
突然、笑い声が響いたかと思うと目の前に大きな火柱……いや、炎柱と言うべきものが吹き出す。
「熱……くない?」
『それはそうだ、お前は敵じゃない』
熱いよりも、むしろ身体の芯から暖かくなってくるようなそんな炎だ。
声が聞こえ、その炎柱が収まると、そこにはフロストベアなど比にならない巨躯をした紅い虎がいた。
「虎……?」
『改めて自己紹介しよう! 我は炎の大精霊! 貴殿と契約を交わしたい!』
身体のあちこちに炎を纏い、紅虎が咆哮をあげる。
そして、その存在が俺と契約をしたいと言う……って契約だと? アリアが言っていたあの契約か?
『問おう、貴殿は何の為に戦う? 何の為に力を望む?』
「……世界なんてどうでもいい、ただ身近な誰かを、大切な誰かを守る、その為に戦う。だから、それを成す為に力を貸してくれ」
紅虎の問いに対し、さっき誓ったことを答える。
すると紅虎は、ニヤリと凄絶な笑みを浮かべ、俺の元へ歩み寄ってくる。
『いいだろう、今、この時より我はソウジ・アカツキを主とし、運命を共にすることを誓おう!』
再び、紅虎が吼えるとそれは炎となり、俺の身体に吸い込まれていく。
胸の奥がどんどんと熱くなり、確かに大精霊の存在を感じる。
『我が真名は分かるだろう……その名を呼べ、それで契約は完了する』
「分かった……力を貸せ! "紅炎"!」
『任せるがいい!』
そして、俺の精神は現世へと戻り、時が動き出す。
目を開くと眼下には虚ろな目でこちらを見上げるリリル。
「おにい……ちゃん?」
「リリル、もう大丈夫だ」
(紅炎、やることはわかってるな?)
『もちろんだ』
身体に満ち溢れる魔力を一気に解放、そしてリリルの身体へと収束させる。
そこからは紅炎と力を合わせ、魔法を練り上げる!
──────精霊魔法・"再生の祝炎"
その瞬間、リリルの身体が燃え上がる。
もちろん攻撃ではない、その証拠に彼女も衣服すら燃えてはいない。
「なに……これ、あったかい……」
この魔法『再生の祝炎』は、莫大な魔力が必要な代わり、欠損以外の傷ならば必ず治すという馬鹿げた魔法である。
だが、今はその馬鹿げた魔法に救われた。
「あれ、痛くない……?」
「傷はもう、塞がったぞ」
目をパチクリとさせるリリルを抱き上げ、木陰に寝かせるとここで待っているように言う。
「私も行く、お兄ちゃん!」
「大丈夫」
「……本当に?」
「ああ、お兄ちゃん、強く"なった"から。それに……ひとりじゃない」
泣きそうなリリルの頭を撫で、笑いかける。
それで安心したのか、ふっと笑うと眠るように意識を失った。
「さて、今度はこっちの番だ。たっぷりお礼をしなきゃな……紅炎」
ぽつりと呟くと右手に持った刀が炎に包まれる。そして、炎が消えるとそこには先程までの黒く美しい刀身はない。
代わりに、燃え上がる炎を表したような波打つ刃文を持つ、紅の刀身が姿を現した。
軽く魔力を込めると、ユラユラと炎が立ち上がる。
「行くぞ……!」
──────強化魔法Lv.8 全身強化・極
──────魔力纏化・炎
圧倒的に増えた魔力を注ぎ込み、今までの数倍の膂力を得る。
脚に力を込め、飛び出した。視界が加速する。
「アリアッ!」
「ソウジくんっ!?」
フロストベアの脇を潜り、攻撃を受けるアリアを抱えてその場を離脱する。
少し、距離を取ってアリアを回復させる。
「悪い、待たせた」
「大丈夫なの!? リリルちゃんは?!」
「大丈夫だ。今やったみたいに回復させた」
「あ、ほんとだ……何があったの? その刀といい、その眼といい……」
刀は分かるが、目とはどういうことだ?
こっちにも何か変化があったのか?
『主の右目は、今、我の影響を受けて瞳孔が紅く染まっている』
なるほど……ってなにそれ、カッコイイじゃないか。厨二心を擽るな。
「後で、説明する。とりあえずお前はここで休んでろ」
「いい、私も……」
「大丈夫だよ、あんな熊野郎、問題ない」
『その熊野郎にさっき、やられたんだがな』
(それは言うな……)
踵を返し、フロストベアの前に立つ。
低く唸り声を上げるが、構わず刀を構える。
「さっきは世話になったな、でもここからは……って危ねぇ!」
──────刀術Lv.6 引き潮
口上を無視して、腕を振り下ろしてくるフロストベア。刀で受け、返す刀でその腕を斬り裂く。
直後、その部分から炎が吹き出す。
「グガァッ!? グゴォォ……」
逞しかった腕は、あっという間に焼けただれ、もはや見る影もない。
狼狽えるフロストベアにもう一度刀を向ける。
「ここからは、俺たちの反撃だ!」





