37 フロストベア討伐戦②
先日は投稿できず、申し訳ありません。
代わりにという訳でもありませんが本日は二話投稿させていただきます。
「このままじゃ、崩れてしまうぞ!」
誰ともなく叫ぶ声が聞こえ、村人たちが混乱し始める。
ここまで、直接的に攻撃を受けるのは初めてなのだろう。
「落ち着いてください! 今から私たちが応戦します! 皆さんは落ち着いてここで待機していてください! ......ソウジ君、行ける?」
「ああ、大丈夫だ」
アリアの問いかけに頷くが、正直緊張している。こんなランクの高いモンスターと戦うのは初めてだからな。
「ソウジさん、アリアさん。気をつけてください」
後ろからリリルの心配そうな声が聞こえる。
......ああ、そうだ。昨日決めたばっかりじゃないか。不安な顔をさせないと。俺が弱気になっていちゃいけないよな。
振り返り、リリルの元まで戻る。
「ソウジさん......?」
こちらを見上げる不安げなリリルの頭を撫でる。
「大丈夫だ、俺は強いんだからな。ここで待っててくれ」
「......はい」
リリルが頷いたのを確認して、踵を返しアリアの後を追う。
◇
「こいつはやべぇな......」
地上へ出た俺たちを待っていたのは、想像を遥かに超える巨躯を持った熊だった。
青い体毛が通常の毛皮の上に鎧のように重なっていた。見た目はホッキョクグマのようだがその鋭い爪と硬質な毛皮は比にならないだろう。
「とりあえずここから離すぞ! アリアは援護を頼む!」
「わかった! 気を付けてね!」
刀を抜き放ちつつ、牽制に火魔法を放つ。
――――――火魔法Lv.1 緋牡丹
周囲に火球が浮かび、フロストベアへと殺到する。
「グオオオォォ......」
が、こんなもの煩わしいとばかりに首を振るだけで一向に効果がある様子を見せない。
「けど、それでいいっ!」
――――――常在戦場の構え
――――――強化魔法Lv.6 全身強化・視覚強化
――――――魔力纏化・火
できる限りの強化を施し、フロストベアへと肉薄、そして火属性の魔力を帯びた刀ですれ違いざまに斬る。これも浅いが、躊躇わずそのまま走り抜ける。
背後から、迫ってくる気配を感じる。このままでは追いつかれるだろうがそろそろ......。
「はぁっ! 『五月雨・光』!」
アリアの声が聞こえたかと思うと、幾筋もの光の矢がフロストベアへと突き刺さる。初めて会った時に見たあの技だ。
流石のフロストベアもこれには堪えたようで黙っていない。俺を追いかけていた足を止め、アリアへと向き直る。
「グオオッッ!」
そしてそのまま太い腕を振ると、その軌道上に氷の矢が現れ、アリアへと飛んでいく。
「アリアッ!」
「だいっじょう、ぶっ!!」
慌ててアリアへと声を掛けるが、やはりそこはBランク冒険者。杞憂だったようで、向かってくる矢にたいして迎え撃つように風の矢を当て相殺していた。
それを確認し、こちらへ背を向けるフロストベアへ駆け寄る。腹部が通らないなら......!
駆け寄る俺に気づいて思いっきり腕を横薙ぎにしてくる。かなりの速度だが事前に読めていれば問題ない!
しゃがんで攻撃を躱すと、その反動を利用して飛び上がる。狙いは空振りしたことで無防備な腕だ。
――――――刀術Lv.6 一刀両断
だがこれも浅く表面を斬るだけ。
「くそ、何処も彼処も硬すぎだろう!」
俺が離脱すると同時に、矢の雨がフロストベアへと突き刺さる。
苦悶の声を上げるがこれも痛手にはならない。
どうするか......このままではいつかボロが出てやられてしまうだろう。
飛んでくる氷の矢や腕の攻撃を避けつつ、打開策を考える。
「あ......向こうが硬いなら......!」
一つ、この状況を打開できそうな案が思い浮かぶ。しかし、それには幾分か時間がかかる。
そこで無理を承知でアリアに声をかける。
「アリア!」
「なに!?」
「今から一か八か、やってみたいことがある。その間、時間を稼いでくれ! 少しでいい!」
「……仕方ないっ……ね! 任せておいて」
「すまない!」
フロストベアから大きく距離を取る。
追随してこようとするが、それはアリアが許さない。
「クマさん、こっちこっち! ダンスのお相手をお願いできるかな!」
幾本もの風の矢が突き刺さり、見事にフロストベアの注意を引く。本当に頼りになるパートナーだ。
アリアの手際に感心しつつ、俺は刀身に手を添え魔力を練り始める。
相手が硬くて刃が通らないのなら、此方の刃をより鋭くしてしまえばいい。向こうをどうこうするよりかはずっと現実的な筈だ。
とはいえ、今回初めての試みだ。刀身全体に及んでいる魔力を刃先に集中させるのは、やらずとも相当な難度であることは想像出来る。
「ふぅぅぅっ!」
纏化に回す魔力量を増やしつつ、それを刃先へと収束させていく。中々上手く収束できず、魔力は直ぐに散る。そうしている間もアリアが視界で奮闘しているのが見える。
かと言って焦っても意味は無い。落ち着いて、今までの訓練を思い出して、収束させていく。
刃先に魔力の刃を上乗せするようなイメージで……。
──────魔力纏化・鋭
「よし……! アリア!」
その状態を維持して、フロストベアへと肉薄。
アリアに目配せし、彼女が気を引いている間に無防備な背後から攻撃を加える。
「奪うのは……機動力!」
──────刀術Lv.6 横一文字・火
渾身の力を刀身に乗せ、脚を横に断つ......つもりで放つが肉が異様に硬いようで流石に一刀両断とはいかない。しかし、相当深く斬ったはずだ。
「グガッ......グオオオォォ!!!」
その成果を確認すべく、のたうつフロストベアを見る。そこにはやはり、深く刻まれた傷があり、鮮血が迸っていた。
立ち上がるのも、容易にはいかないようである。
「よし、これ......で......」
――打開策が見つかった。俺の口からその言葉が出ることはなかった。
なぜなら予想を覆す、驚きの現象が起きたからだ。
そこには傷口が凍っていき、塞がれ、すんなりとフロストベアが、立ち上がる光景があった。
初めて与えた痛手だっただけに唖然として棒立ちになってしまう。
これがいけなかった。
「ソウジ君っ!!」
「え?」
次の瞬間、俺は空中を舞っていた。
自分のことなのに他人事のように思え、叫ぶアリアの声も何処か現実味がない。
緩やかになる時のなかで、ようやく俺は攻撃を受けたことを自覚する。
「がっ......」
そのまま、地面へと叩き付けられ、数瞬遅れて猛烈な痛みが襲ってくる。
「か......は......」
呼吸もままならず、身体は言うことを聞かない。
おそらく肋骨ぐらいは折れているだろう。
なんとか視線を向ければ、アリアが魔法と弓を駆使して応戦していた。
しかし、元来、後衛職である彼女では次第に追い詰められ、危険な状態に陥るだろう。
痛む身体を叱咤し、よろよろと立ち上がる。刀を手放してなくて良かった。
「ソウジくん!」
俺を呼ぶ声が聞こえる。大丈夫だ、アリア、すぐに行くから……。
刀を握りしめ、顔を上げる。
「あ……」
視界に飛び込んでくる大きな氷の槍。
この身体では躱すことはできない。
諦めにも似た感情を覚えたとき。
「危ないっ!」
声が響き、横から突然、突き飛ばされる。
無防備だった俺はその勢いに任せて倒れ込む。
そして、直後に肉を穿つ鈍い音が聞こえた。
急いで身体を起こし、何が起きたのか確認したとき、俺の時間が止まる。
「リ……リル?」
「カフ……良かった、無事です……ね、ガフッ」
「あ、ああ……あぁぁぁッッ!」
そこには、氷の槍に腹部を貫かれ、倒れ付すリリルの姿があった。





