33 異変の正体
俺もアリアも全身強化を施して走った為、さして時間もかけず、街へと帰ってきた。
そして、着くや否やギルドに急ぐ。正直、ここまで焦っているアリアは見たことがない。
何故なのか、尋ねようにも今は無駄だろう。
ギルドにつき、脇目も振らずカウンターに向かうとミライアさんがこちらに気づく。
「アリアじゃない。丁度、例のモンスターについて新しい情報が......ってあら? ソウジさん、その子は?」
「ミライア!! 後で説明するからまずコレ読んで!」
何か気になることをミライアさんが言おうとしたが、俺の背中の少女に気づいたようだ。
尋ねようとしたがアリアが遮り、例の手紙を渡す。
最初は訝しげな顔をしていたミライアさんだが、手紙を読み始めると途端に視線は鋭く、真剣な顔つきとなる。その表情からは険しさすら感じ取れる。
「これは......! アリア、これはその子が?」
聞きながら、俺の背後に視線を向ける。
「そうです。あの、この子を寝かせてあげたいんですが何処かありませんか?」
会話の途中だったが、まずはこの少女を休ませてあげたい。
「ああ、そうですね。でも、その前に......すみません。これギルドマスターに渡しに行ってください」
「あ、はい! えっと......」
「私からってことと見ればわかるって言っておいてください」
「わかりました、では」
ペコリと俺たちにも頭を下げ、手紙を持って立ち去る職員。
ミライアさんはそれを見送って立ち上がる。
「さて、では行きましょうか。ギルド職員用の仮眠室があるので」
「助かります」
彼女を連れていき、ベッドへ寝かせる。
そうしてその場を去ろうとするが、服の裾が掴まれており離す様子がない。
どうしようかと迷っているとミライアさんが見かねて助け船を出してくれた。
「別段、移動する必要はないのでここでお待ちください。何かあれば呼びに来ますので」
「分かりました。すみません」
「いえいえ」
そうして、彼女が退室した後、俺はようやくアリアに尋ねる。
「なぁ、そろそろ俺にも教えてくれないか」
「あ、うん、わかった」
一瞬、「あれ?」みたいな顔をした後思い出したように頷く。
「まさか忘れてたんじゃ......」
「違う違う」
首を振るアリアだが忘れていたんだろう。
まぁ仕方ないと思うけどな、あの焦りようだし。
「えーと、端的に言うとその子の村の近くでモンスターが発見されて、いつ襲われるかわかんないから討伐してくれって内容」
それは確かに大変なことなのだが......。
「それならああまで慌てる必要はなかったんじゃないか? ああ、いや、もちろんその村に隔意があるわけではなくて」
俺が言いたいのはそれならそれで手の空いている冒険者にでも緊急依頼で出せばいい話だということだ。
「そのモンスターが3mを超える大熊だとしても?」
「え?」
頭を鈍器で殴られたかのような衝撃が走る。
それはカイトたちが見たのと同じ......。
いや、なら今ナザースが討伐に向かってるはず。
「それならナザースが――」
「――ソウジ君。カイト君たちがそれを見たのはどこだって言ってた?」
急に何を、と言いたいところだが少し考える。
確かいつもと違うところに行ってたって......。
「街から見て南東の森だったか?」
「そう、ナザースが調査に行ってるのもそっち方面」
「で、それの何が問題なんだ?」
分からず、首をかしげる。
「あ、そうか。ソウジ君は知らないのか。この子の村はこの街の北側だよ」
「......え?」
え、でもカイトたちが見たのは南側で、ナザースが言ったのも南側で......。
「ってまさか!?」
「そう、似たモンスターが全く別方向で確認されてるのよ。つまりナザースのものとは別の存在がいるってこと......そして極めつけはその熊、青いらしいの」
青い......? てことはまた別の上位種ってことか?!
そんなもん倒せる冒険者なんてここにいるのか? ナザースは出払ってる。
どうしたらいい?!
「失礼します。ソウジさん、アリア、ギルドマスターからの呼び出しです」
焦る俺を尻目に、ミライアさんがやってきて俺たちが呼び出されたことを知らせる。
◇
(ギルドマスター......いるとは思ってたけどこんなに早く会うことになるとは。一体、どんな人なんだろう)
「こちらです」
あれから少し、カウンターの奥に通され暫く歩いていたが、ようやく着いたようだ。
目の前には重厚な扉があり、今からここのトップと会うということをより意識させる。
ミライアさんが扉を開け、入っていくのに続いて中へ入る。
まず目に飛び込んでくるのは、書類が山積みにされた机。その向こう側には椅子があり、誰も座っていない。
......って、いない!?
「っ!!」
誰も座っていないということに違和感を感じた直後、真横に突如気配が現れる。
慌てて、その場にしゃがみこむ。その瞬間頭上をボッと音を立てて何かが通り過ぎる。
即座に刀に手をかけ、その状態から居合を繰り出す。
――――――刀術Lv.6 居合・昇龍
「っと、あぶねぇっ!?」
「なっ!?」
かなりの奇襲だったはずだが、容易く躱されてしまう。
「こりゃあ、グランの言う通りとんでもねぇなっ!」
......ん? グラン?
聞いたことある名前が襲撃者から洩れる。
驚いてそちらを見ると、そこには服の上からでも分かるほど鍛えられた筋骨隆々な体に、短く刈り上げられた赤い髪の男性が立っていた。
どういうことかと思案しているとミライアさんから衝撃の一言が発せられる。
「......ギルドマスター、いきなり何するんですか!!」
............ギ、ギルドマスターァァァァ!?
思わず、刀を取り落としそうになる。そんなこちらの心情にもお構いなしに男はただ笑っているだけだった。
「え、えーと、ギルドマスター......ですか?」
信じられずに確認するとその男は笑いながら頷いて見せる。
「挨拶が遅れたな......いや、ある意味“挨拶”はしたか」
ええ、ええ! のっけからいい“挨拶”を頂きましたとも!
「ここ、クォーツリクの冒険者ギルド『水晶の探求団』ギルドマスターのヴァルト・アルヴェリアだ。よろしく頼むぜ、坊主!」
ビシッと親指を立て、ニカリと白い歯を見せる男――――ギルドマスター。
ああ、神様。こんな人がギルドマスターで本当に大丈夫なんでしょうか。
俺は早くも不安で満ち溢れるのだった。





