32 特訓③……そして不穏な影
「くっ......はぁ......!」
数時間後、俺は額に大粒の汗を浮かべ、同調を続けていた。今までが簡単に出来ていたから軽く見ていたがこれは本当にきつい。
今持っている魔石は最初と同じ物だ。もはや、元の姿は見る影もなく蜘蛛の巣のようにヒビが張り巡らされている。
あとほんの少しで出来そうなのだが......。
(思い切って全力で同調してみるか)
魔力調整を気にせず、注ぐ魔力量を増やしていく。
魔石からピシピシと聞こえる音が大きくなって来るが構わずに同調に意識を傾ける。
「あっ......」
ビシリと音を立てて魔石が崩れ、手から零れ落ちる。
「あぁ、ついに割れちゃったか。まぁでもよく頑張った―――」
「―――いや、出来た。出来たよ」
「え?」
開いていた手をギュッと握ると頭に響くアナウンス。
――――――スキル「火魔法」を会得しました。
「いやぁ、流石だね......こればかりは驚いたよ」
「相当に難しかったがな......」
魔力を集め、精霊たちへと受け渡す。
この数時間で魔力制御能力が上がったようで驚くほどスムーズだ。
「クリエイトファイア」
――――――火魔法Lv.1 クリエイトファイア
手の平に小さな火球が生まれる。
小さなそれは周りの空気を取り込み、脈動するようにして大きく広がる。
そしてそれは幾つもの拳大の火球となり俺の周囲に広がる。
――――――火魔法Lv.1 緋牡丹
ゆっくりと木を指さし、呟く。
「行け」
風切り音を響かせて、火球が宙に舞う。
それぞれの軌道を描き木へと激突していく。
爆発音を響かせ、煙が晴れた後には深くえぐられ、焦げた木が残るだけだった。
「……よし」
長時間に及び、火属性の魔力に晒されたこともあるが自分でも驚くほどに火属性との親和性が高いようだ。炎属性持ちというのが関係しているのかな。
「もう私、なにも驚かない……驚いてちゃ身体が持たない……分かっていて呼んだとはいえ、ここまでとは……」
ふと見ればアリアが焦点の定まらない瞳で虚空を見つめ、何事かを呟いている。
怖い怖い……ハイライトさん仕事してください。
「ア、アリア?」
「……なにかな」
「いや、なんでもない」
どうかその目でこっちを見ないでください。
アリアはしばらく此方を見ていたが、ため息をつくと元に戻った。
「ふぅ……とりあえずお疲れ様」
「お、おう」
「で、どうする? 土属性の魔石もあるけど」
「そりゃあもちろん……」
◇
──────土魔法Lv.1 クリエイトソイル
バサリ……と手から土が落ちる。
あれから幾分か時間をかけ、俺は土魔法も習得した。……魔石を二個も使ってしまった上、攻撃に使えるレベルではないが。
まぁ、何はともあれ、下位全属性を習得できたのだ。今日の成果としては上出来だろう。
上位属性に関しては、『私に出来ることはない』そうだ。炎や氷などの上位属性は一朝一夕で出来るものでもないし、取得方法も公にされてないそうだ。これは自分一人で試行錯誤してやっていくしかない。
「さて、そろそろ帰ろうか」
辺りを見渡せば、もう日暮れの寸前である。
ここは素直に帰るべきだろう。本音を言えばもう少し練習したいがな。
「ああ、そう……!」
そこから先は俺の口から出なかった。
後方に位置する茂みへと目を向ける。
「ソウジ君」
アリアも気づいたようだ。
何者かの気配がそこの茂みから此方を見ているのだ。
余りにか細い雰囲気なため、気づくのが遅れたが……。
刀を抜いて構え、片方の手には火属性の魔力を集める。アリアも弓を取り出し、風属性の矢を番えている。
その状態で数分が経ち、突然茂みが動く。
「!!」
そうして中から出てきたのは……。
「「女の子ォッ!?」」
12、3歳ぐらいだろうか、姿を現したのは黄金色の髪と耳が生えた獣人の女の子だったのだ。
俺は迷うことなくすぐ鑑定をする。
名前:リリル・ゼオ
年齢:14歳
種族:獣人〔狐〕
称号:村長の孫娘
職業:unknown
筋力:110
敏捷:300
知力:130
魔力:400
器用:80
運:130
(特に問題はない……か?)
「お兄さんたち……冒険者?」
「!……そうだけど」
向こうから話しかけてきた。
冒険者かどうかが必要なのか?
いや、まず何故こんなところに?
疑問が留まるところを知らないが、とりあえず今は状況把握に徹しなければ……。
「良かった……ボクの……ボクらの村を助けて」
「え?」
「おいっ!」
安心したような顔をしたかと思えば、急に崩れ落ちる彼女。慌てて抱きとめるが……。
「駄目だ、気絶してる」
よく見れば、服も相当汚れており、顔には疲労の色が濃く見える。
怪我も何ヶ所かしているようだ。
「アリア、頼む」
「了解!」
とりあえずアリアに回復魔法を掛けてもらう。
ひとまずはこれでいいだろう。
と、ここで彼女の手に何か握られていることに気づく。
「これは……?」
「ちょっと見せて」
「あ、おい!」
どうやら手紙のようだ。中を見るのは躊躇したが、アリアは構わずに中を確認する。
読み始めたアリアだが、読み進むにつれ彼女の顔色がどんどん悪くなる。どうしたのだろうか……?
「おい、どうした?」
「ソウジ君、その子を背負って走れる?」
「それは大丈夫だが……」
「じゃあ行くよ!」
「え? ちょっと待てって!」
俺が肯定するや否や、即座に走り出すアリア。
何が何だか分からないが、置いていかれる訳にも行かない。俺も少女を背負い、後を追い始める。
どうにも俺の行先に暗く不穏な影が忍び込んできているようだ。





