31 特訓②
「まずは私も持っている風と水から行こうか」
そう言ってアリアは、目の前に水の塊を浮かべた。
いつの間にかというか、本当に一瞬で視界に現れたのだ。
改めて魔法というものの存在を身近に感じる。
「これは“クリエイトウォーター”。水魔法の初歩中の初歩だよ。何の殺傷能力もないただの水を生み出すだけ。でも、これをこうすると......」
アリアから魔力の動きを感知したと思えば、浮いていた水の塊がググっと形を変えていく。
「おお......?」
先ほどまで球体だった水は、今や薄く引き伸ばされ刃のようになっている。
太陽の光をキラキラと反射するその様子はとても美しく感じる。
見惚れる俺を余所に、アリアが近くの木へと腕を振る。
「うおっ!?」
その瞬間、予想だにしない速度で水の刃が射出される。
風切り音を響かせながら、それはアリアが腕を振った木へと真っ直ぐに進む。
そして激突の瞬間、それは水面を叩いたような音を響かせて樹皮を抉る。
俺が近づいて確認すると、想像よりも遥かに深く傷がつけられている。一体、どれほどの威力があればこのような芸当が可能なのだろうか。
「次は風っ!」
「えっ?」
そうアリアが叫ぶと同時に魔力が弾け、彼女の頭上に幾本かの風の矢が生まれる。
まだ的である木のそばにいた俺は慌てて距離をとる。
「はっ!」
短い発声と共に風の矢が射出される。
矢の形である為か、先程の水の刃より幾分か速度が出ている。気づいた時にはもう木へと肉薄していた。
音もなく、矢が突き刺さる。
そして魔力が霧散し消えていく。
「どう? 凄いでしょ?」
何やら、『ここまでの展開速度は滅多にできない』だの『これで全力ではない』だの自分の凄さを滔々と語るアリア。
確かに凄い......凄いのだが。
「危ないだろっ! 万一当たったらどうするつもりだったんだ!」
「あ......」
何もあのタイミングで撃つ必要はなかったはずだ。
その意図について追求するが、アリアは気まずそうな顔をした後、ふいっと顔を逸らす。
まさかとは思うが......。
「......何も考えていなかったのか?」
「え、えへ......」
「......」
まぁ分かっていたことではある。
凄いのは事実なのだから、もう少しお淑やかにできないものか。
こういうのを所謂残念美人というのだろうか。いや、年齢的に......。
「残念美少女、か」
「え?」
「なんでもない、それより早く教えてくれ」
俺の呟きはアリアの元まで届かなかったらしい。
聞き返してくるのだが、適当にはぐらかし話をすり替える。
「あ、うん」
少し腑に落ちないようではあったがやるべきことを優先するようで頷くアリア。
「えっと、水と風の魔法を取得してもらうんだけど私が持っている以上すぐできると思うの」
「ああ」
脳裏に浮かぶのは時空魔法のこと。
あの時のようにすれば、俺が取得するのは難しくないだろう。
「だけど問題は他の属性。私が持っていない以上、ソウジ君が自力で出来るようになる必要がある」
「それは......」
何やら含みを持たせるが......。
彼女のことだ、何も解決策を用意していないわけではないだろう。
「普通、魔法というものは誰かに師事して変質の仕方を教えて貰うものなの。私がソウジ君に時空魔法を教えた時もそう。まぁ相当時間かかるはずのところを一瞬で終えちゃったんだけど......」
何だろう。褒められている気が一切しない。
言外に人外だと言われているような......。
「それ以外の方法として、魔石を使うものがあるんだ」
「魔石?」
「そう、魔石」
魔石とはあの魔石だろうか。
モンスターの体内で生成され、彼らの核ともいえる存在。様々な用途があるらしく、ギルドでも高値で取引されるものの一つだ。
「この方法はコストもかかるし、段違いに難易度も高いからやる人はほとんどいないんだけどね。それこそ、金持ちの道楽ぐらいじゃないかな」
「難しいのか」
「ソウジ君なら大丈夫でしょ、変態性能だし。まぁ、とりあえず水と風はやってしまおうか」
「この言われよう......」
以前と同様、手をつなぐ。
すぐにアリアから魔力が流れて来る。
これは......水の魔力だろうか。目を閉じ、自らの魔力の質を変化させていく。
時空魔法の時よりかは幾分かやりやすい。魔力が海を想起させるような、穏やかなものでイメージを掴みやすいからだ。
後はそれに近づけていくだけだ。少しずつ、階段を上るように。
「よし、出来た」
魔力の変質が完了する。
それと同時に脳内に響くお馴染みのアナウンス。
――――――スキル「水魔法」を会得しました。
俺はそのまま魔力を練り上げ、呟く。
「“クリエイトウォーター”」
その瞬間、魔力が弾け手から水が生まれる。
その水はそのまま地面へと落ちる。
「は?」
予定ではアリアのように空中に留めるハズだったのだが......。
「取得は相変わらず早いねぇ。でも、その様子だとさっきの私みたいにしようとしたってところかな?」
「......」
図星である。
ぐぅの音も出ない図星である。勘がいいとかそんなレベルじゃない。
「もっと丁寧に『イメージ』しなきゃ」
「『イメージ』?」
確かにイメージは重要だろうが、それならしっかりしたはずだ。
「魔法は“如何に精霊にイメージを伝えるか”なんだよ。さっき精霊のこと意識した?」
「いや......」
そうだ。精霊のことを忘れていた。
やってもらうのにあんなにおざなりにしてはいけないだろう。
気を取り直してもう一度魔力を練り始める。
(どうか、頼む。俺のことを助けてくれ)
丁寧にイメージを固め、精霊たちに頼み込むようにして魔力を集める。
『──────!!』
『────! ───?!』
「!!」
何か喜んでいるような気配を感じた直後、目の前に水の塊が浮かんでいた。
(今のは......精霊なのか?)
更に魔力と共にイメージを伝える。すると先程のアリアと同様に、水の塊が蠢き刃状に形を変える。
「......水刃」
頭に浮かんだ言葉を口に出し、木へと飛ぶように意識する。
──────水魔法Lv.1 水刃
これまた彼女と同じく、いや少し遅いか。それでも中々の速度で飛ぶ水の刃。
そのまま木へとぶつかり、浅く切り込みを入れる。まだまだ威力は弱いがそれはこれから鍛えていくしかないだろう。
「よしよし、いい感じだね。次は風に行こうか」
「ああ」
──────スキル「風魔法」を会得しました。
先程と同様の手順を踏み、風魔法を取得した。
今度は矢の形にしてみようとしたが失敗する。上手く精霊にイメージが伝わらなかったのだ。
そこで水魔法と同じく、刃状にするとすんなりイメージが伝わる。ここでも職業的なものが関連してくるのだろうか。
気にはなるが今考える必要があるわけでもなく、置いておくことにした。
「さて、次はこれだね」
そう言ってアリアが取り出したのは魔石だ。
ただ俺が今まで見たよりも少し大きく、そして。
「赤い......」
そう、宝石のルビーのごとく赤く透き通っていたのだ。通常、魔石というものは小さく色も黒ずんだ色をしている。
(まぁ、それも俺が見たものだけだけどな)
「これはある程度高ランク、そして属性魔法を用いるモンスターから取れる属性魔石だよ」
「属性魔石......これは火属性か」
「そう、これで火属性魔法を取得できるの」
アリアが言うにはこの魔石、火属性の魔力を帯びているらしい。
そこから今までと同様に魔力を循環、同調させることで魔法を会得するのだ。
何処が難しいのか、今までと同じではないかと思ったのだが......やってみて分かった。
「くっ......またヒビが......」
実はこれ、魔力伝導率が良すぎるせいか上手く流さないと余剰魔力が漏れてヒビが入ってしまうのだ。
当然割れてしまえば魔力なんて維持出来ず霧散してしまうだろう。
常に気を張ったまま、同調を行わないといけないため集中力が持たない。
少しでも同調に意識を向ければ魔力の流れが歪になってしまう。
「とりあえずもう二つくらいあるから、ひとつくらいは大丈夫ではあるんだけどね」
と言われてもな......。
余計に失敗したくなくなった。
気合を入れ直し、慎重に魔力を通し始める。





