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23 職業病は時として人を狂わせる


 街へ出て、最初に向かったのが服屋だった。


「おお......」

「ここは一年ほど前にできたところで、普段着から儀礼用の服まで数多くを取り揃えている人気のお店なんですよ」


 見上げた視線の先には、シックで落ち着いた雰囲気の看板があり、そこには「ネーナの服屋」とだけ書かれている。おそらく店主の名前なのだろう。


「すごいなぁ、わかってたことだけどこうまで変わってると感慨深いものがあるね」

「アリアお姉さんはいつからここを離れていたのです?」

「んーとね、二年ぐらい前かな」

「ほへー、だいぶ前ですね」

「まぁね」


 しゃべる彼女たちを置いて、俺は服屋のドアへと向かう。

 あのまま、待っていたらいつまでも入れなさそうだからな......。


「ここからでいいのかな? ごめんくださーい!」


 扉を開けて中を覗いてみる。

 まず視界に飛び込んできたのは壁一面に飾られたさまざまな服。色とりどりのものがあり、その中には絶対着たくないようなものまで存在した。

 しかし、遠目でもしっかりと作られているのがわかる。人気だというのは確かなようだ。......あんまり服飾関係は詳しくないけどな。


「いないのかな?」


 声をかけてみるが、返事が返ってくる様子がない。これは出直さないといけないのだろうか。


「「どうしたの(です?)」」


 と、ここで話していた彼女らも中へと入ってきた。

 何度か声を掛けたが、返事がないことを説明する。


「そうかぁ......どうしようか?」

「もういっかい、呼んでみるです。すぅ......ネェェナさぁぁぁん!!」

「うおっ!?(きゃっ!)」


 アーゼが軽く息を吸い込んだかと思うと、次の瞬間その小さな体のどこから出ているのか、と突っ込みたくなるほどの声量で声をかける。

 数瞬して、ドタンッ! という音が響いた後、どたばたとこちらへと何か(・・)が駆けてくるのがわかる。


「す、すいません! ちょっと寝ちゃってたみたいで......]


 そして、奥から顔を出したのは素朴そうな顔をした女の人だった。

 寝起きらしいボサっとした金髪を携え、申しわけなそうに、たははと笑う。


「いえ、大丈夫ですよ」


 へこへこと謝る彼女に大丈夫だと告げ、今日来た要件を伝える。


「普段着ですか......全員分かな?」

「いや、こっちのソウジ君の分だけです」


 アリアが彼女の問いに俺の分だけだと答えるが、自分のはいらないのだろうか?


「なるほど、ソウジくんだっけ? ちょっと来てもらえるかな」

「?? はい」


 店主――――アーゼの言葉通りならネーナさんのもとに向かうと、おれの身体に触れてまさぐり始めた。


「っ! な、なにするん――]

「――ただの採寸ですよ。ほら、動かな......」


 採寸だと言った直後、彼女はなぜかフリーズして言葉を途中で切った。


「......どうしました?」

「ねぇ、ソウジ君」

「っ!?」


 疑問に思い、彼女の方を振り向くが獲物を見つけた肉食獣のような視線を向けられる。


「ねぇ、この服どこで手に入れたの?」


 思わず目を見開いてしまった。叫びたい衝動を必死に抑える。


(テンプレきたぁぁぁぁぁ!?)


 今の自分の服装は日本のものだ。見た目などがあまり周りと比べて違和感がないので忘れていたが、やはりプロが見れば気づくのか......。

 とにかく、今は誤魔化すしかない。


「い、いえ。旅に出る時に親が持たしてくれた一張羅なので、どこで手に入れたとかは分からないです」


 くっ! 少し苦しかったか......?


「そうですか......残念ですが知らないなら仕方ないです」


 (いいのかよっ!)


「そ、そうですね」


 さっきまでの生き生きとした表情はどこへやら、一転してこの世の終わりのような表情をするネーナさん。さすがに不憫に思い、妥協案を出すことにした。

 

「あ、あの......この服返却してもらえるのならお貸ししてもいいですよ」

「ほんとですかぁぁっ!?」


 俺の着ていた上着を差し出すといきなりがばぁっと起き上がり、詰め寄ってくる。

 近い、近い! 良い匂い! ごちそうさまです!!

 じゃなくて......!


「はい、ほんとですよ」

「ありがとうございますぅ!!」


 目をキラキラとさせて、俺の手を握り、ぶんぶんと振ってくる。

 先ほどとのテンションの差が激しすぎて正直ついていけない.......。

 


「この縫製、この生地!! なんという技術! うへへぇ」


 いけない顔だ......人に見せちゃいけない顔だよ、これは。

 アリアやアーゼは、引いてしまって言葉も出ない様子だ。


「あ、あの......」

「んふふ......はっ!? す、すみません」

「いえ、大丈夫です......]


 どうやら戻ってきてくれたようなのでとりあえず服を身繕ってくれるように頼んだ。


「普段着ですね、何着くらいでしょう?」

「そうだね、五セットかな。下着から上下の服含めてだね」


 おお......先ほどまで沈黙を保っていたアリアがようやく会話に参加した。

 にしても五セットか、お金足りるかな......。


「そうですねー......先ほどの服のこともありますし、全てお譲りしますよ」

「「え......?」」

「うんと、うちの店でも質の良いものからいくつか身繕ってきます」


 俺たちが反応できない間に彼女は言うが早いかと奥に引っ込んでいってしまった。

 

「えーっと......どうしようか」

「......どうしようってどうもできないし、お言葉に甘えないか?」

「うん、まぁそうだね」


 残された俺達二人(一人は店を見て回ってるようだ)は困惑するしかなかった。


 ◇


 「はい、どうぞっ!」


 しばらくして、彼女は大量の服と共にあらわれた。

 量が多すぎて、彼女の顔が見えないほどだ。


「わあぁぁぁ!! すっごいいっぱいの服だね」

「はい、高そうなのです!」


 さすがの女性陣、量にうんざりすることもなく目をキラキラと輝かしている。

 言っておくが、君たちの服じゃないんだからな......。

 

「じゃあ、合わせていくよっ!」

「はい、存分にしていただいて結構です! 向こうに鏡もありますのでぜひご利用してください」

「はぁ......」


 こうして俺は女性陣の着せ替え人形と化していくのだった。

 あれも違う、これも違う、ときゃいきゃい騒ぎながら俺に服をあてていくこと十数分......。


「じゃあ、これをいただきます」

「承りました。では、こちらの服はしばらくお借りします」


 選んだのは、襟付きのシャツで動きやすさを重視したものばかりだ。

 ズボンも足首まで覆うにも関わらず、すごく伸縮性があり動きやすいものだ。


「それにしても、本当によかったんですか? こんなにいただいて無料というのは......」

「いいの、いいの。こんな垂涎物の服を見させていただけるなら、安いくらいよ! うへへ......」

「は、はい」


 さすがにやばいのではと尋ねるが、彼女は問題ないと返す......発作のように口元が緩んでいるが。


(これも一種の職業病なのだろうか?)


 そんな風に考えてしまうのも仕方がないだろう。



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