22 宿屋の看板娘
「じゃあ、いきますか」
「うん、そうだね」
食事を終え、俺達は食堂前にいた。……どうやらアリアの機嫌はもう治ったらしい。女心と秋の空というが、本当によくわからない。
「ちょっと待ちな!」
準備を終え、いざ出発しようとしたところ聞き覚えのある大きな声で呼び止められた。
見れば予想通り、女将さんがいた。
「どうしたんです? 女将さん」
「あんたら、今日街を見て回るんだろ?」
「そうですね」
「アリアも随分この街に来てなかったろう。色々と変わっているから、戸惑うんじゃないかい?」
その言葉を受けてアリアの方を見るが、彼女は確かにわからないかもしれないと首を縦に振る。
「だったら、うちのアーゼを案内役に連れて行ってやっておくれ」
「それは願ったり叶ったりですが、いいのですか?」
「いいんだよ、あの子も私と旦那が忙しいせいであまり外に行かせられていないからね」
一瞬、憂いの表情をみせる女将さんだがすぐに気を取り直したようで笑顔を見せる。
「せっかくだし……」
「そうだね、お願いしようかな」
少し考えた後、俺とアリアは了承の意を示す。
「そうかい! ありがとうねぇ」
「いえいえ、むしろ、こっちが助かってますよ」
これはお世辞でもなんでもない、手助けがあって困ることはないのだ。
「アーゼッ! アーゼはいるかい!」
「はーいっ! お母さんどうしたの?」
彼女が例のごとく大きな声で、アーゼことアグネーゼを呼び出すとすぐに鈴のような可愛らしい声が帰ってきた。
「あんたに仕事だよ!」
「仕事? わかった、今行くね!」
ドタバタと音を立てて、顔を出したのは朝会ったばかりの茶髪の女の子だ。
彼女は、俺たちがいるのを見て首を傾げる。
「あれ? お兄さんたちどうしたのです?」
「あぁ、今朝ぶりだな」
「アグネーゼちゃん、おはよう!」
「おはようなのです!」
手を振って、挨拶をする。彼女もすぐに挨拶を返してくれ、笑顔だ。
「アーゼ、この人たちを街に案内してやんな」
「街に?」
「そう、色々と冒険者としての準備をしたいんだとさ」
「わかった! 任せてくださいです!」
んふー!っと鼻息荒く張り切る様子はとても可愛い。
こうして俺たちは彼女の案内を受けて街を回ることになった。
「昨日も会ったので覚えていると思うのですが、『猫の水晶亭』看板娘のアグネーゼというのです! 親しい人にはアーゼって呼ばれているのです! お兄さんとお姉さんもそう呼んでくださいです!」
街へと出てすぐ、彼女――――アーゼの自己紹介を受けた。
「俺は、ソウジって言うんだ。よろしく頼む」
「私は、アリア。こう見えてもバリバリの有名冒険者だよ!」
「ソウジお兄さんとアリアお姉ちゃんですね! よろしくなのです!」
アーゼに返答するように、俺たちも自己紹介を返す。
彼女もそれに頷き、にぱぁっと擬音が聞こえてきそうな明るい笑顔を返してくれる。
「今日は、どこに行きたいんです?」
俺には分からないので、全てアリアに任せる。まぁイメージ的にこんなのはいるだろうってのはあるんだが。俺が口を出す必要も無いだろう。
「そうだね……。ひとまず服屋と雑貨、それとポーションかな」
「了解なのです!」
ポーションか、傷とかが治るんだろうが想像付かないな。よくラノベとかで傷が再生するようにって言うけど、あれって普通に考えてグロいし、気持ち悪いと思うんだが……。
それに雑貨か。どんなものがあるんだろう?
「なぁ、雑貨って例えばどんなのがあるんだ?」
「ん? そうだね……ナイフとか、ロープその他諸々かな?」
「ふぅん、この街だったら水晶のナイフとかもありそうだけどな」
なんとなく、率直に思ったことを述べてみると何やらアーゼがごそごそとポーチをいじっている。
「? どうしたんだ? アーゼ?」
「あったのです!」
疑問に思い、尋ねるがアーゼはそれに答えず何かを取り出した。
それは形状的にナイフのようだが、刀身にあたる部分が鞘で隠れて見えない。
「それは……」
「はい、さっきソウジお兄さんが言ってた水晶のナイフです! クリスタルナイフって呼ばれてます」
そういってすらっと鞘からナイフを取り出す。
薄く透き通っているその刀身は芸術品としても価値が高そうだ。しかし、聞けばこのナイフわりと安価で購入できるらしく、強度も見た目に反してよいそうだ。
にしても、ネーミングはそのままなんだな……。
「ソウジ君……」
「ん?」
「あの子はああいってるけど、ほかの街じゃそこそこ高値で取引されてるんだよ」
「まじか……」
「特産品ならではって感じだね」
アリアからちょっとした豆知識を教えて貰って感心しているとアーゼもナイフをしまい、こちらに来る。
自慢できたのが嬉しかったのか、機嫌がよさそうだ。
「あ、アーゼちゃん」
「どうしたです? アリアお姉ちゃん」
「アリアお姉ちゃん……。じゃなくてっ!」
「???」
アーゼに姉呼びされて身悶えるアリア。うん、わかる……わかるぞ、その気持ち。
「イグネスさんのお店って残ってるよね」
「イグネスさん? 鍛冶屋さんのです?」
「そうそう」
「なら、ありますー!」
「なくならないとは思ってたけど、やっぱり安心するなぁ」
鍛冶屋……防具についてかな? イグネスさんね、やっぱりドワーフなのだろうか。
「じゃあ、行こうか。ほら、ソウジ君」
「行くです!」
「ん、了解だ」
少しイグネスさんの風貌を想像していると、話が終わったようで俺に行こうと呼びかける二人。俺もすぐ返事を返し、ついていく。
「まずはどこに行くんだ?」
「んー、ここからなら……。服屋さんです!」
まずは服を見にいくようだ。
こうして、俺たちは街へと歩き出した。





