1 プロローグ②
只今、大幅な改稿を行っています。
混乱なされるかもしれませんが、宜しくお願い致します。
ひとしきり叫んだ後、呆けていると女神───アイテリアルが
「あ、あの大丈夫ですか?」
と恐る恐る尋ねてくる。あー......うん。
「......これが大丈夫に見えてたまるかぁぁ!」
うん、ほんともうガチで。よくラノベとかで主人公が受け入れて「世界を救います」とか言うけどそんなのムリムリ。人間、許容範囲超える出来事が起きると頭パーだよ、パー。しかしまぁ、確かに自分がそうなることを想像したことがないといえば嘘になる。色々と妄想もした。そうやって自分が選ばれたなんて聞くと半信半疑ではあるが嬉しい。でもそれ以上に驚きが勝る。開いた口が塞がらないとはまさにこのことだ。
とはいえ、何時までもこうしていても意味はない。とりあえず切り替えて話を聞くべきだろう。
そう考えて無理やり自分を納得させる。
「はぁ......」
「あ、紅月さん?」
「すまない。ちょっと取り乱した。とりあえず続きを教えてくれ」
「あ、はい!」
今更ながら恥ずかしいな、仕方ないとは思うが叫ぶのはなぁ......。
チラッとアイテリアルを見ると目が合い、彼女は不思議そうに首を傾げた。
......くそぅ、可愛いなおい。
「では説明していきますね! まず向こうの世界『ロストフィア』についてですが、ご想像の通り、剣と魔法の世界です!」
やはり......というかそれ以外であって欲しくなかったけど。だって、SFものみたいに巨大昆虫で埋め尽くされてたり、プレ〇ターに襲われてる世界とか嫌だよね?
「それは俺にも魔法が使えるって事だよな......?」
「はい、ご自身と相性のいい属性の魔法が使えます。魔力量にも依りますが、ある程度のものは使えると思いますよ」
「それはどうやればわかるんだ?」
「それはですね、向こうへ着いてからギルドへ行ってください。そこで冒険者登録の申請をすればその際に属性診断があります」
ギルドがあって、冒険者登録があって......。
ここまでくるとライトノベル作家は異世界に行ったことがあるんじゃないか、とすら思えてくるな。
「またあちらの世界では成人を迎えると神々からの贈物として霊魂器というものが与えられます」
「れいこんき?」
「はい。生物の精神そのものを表す霊魂に、入れ物という意味の器と書きます。文字通りその存在そのもの、わかりやすくいえばもう一つの自分......でしょうか? 大抵その人の天職や心の底から為りたいと願ったことに相応しいものになりますね。しかし、余りに大それた願いなどには適応しません。多くは武器として具現化されます」
「つまり、オリジナル装備というわけか」
中々良いシステムだとは思う。もし天職がなりたくないものでも心の底から願ったのなら違うものに適すのだから。......まぁそこまでうまくいくという保証はないのだが。
「じゃあ言葉とかはどうなるんだ? もちろん違うんだろ?」
「大丈夫ですよ。向こうに行く際、体を再構成させるのですが、その時に自然と使えるように組み込んでおきますので」
今、サラっと凄いこと言った気がする......。ま、まぁ気にしないでおこう。
「なるほど。特に問題は無いわけか。......で、そこで俺は何をすればいいんだ? それこそ魔王討伐とかか?」
「そうですね。結論から言うと何もしないでいいです」
......!? ど、どういうことだ? ここは「貴方に世界を救って欲しいのです!」とか言うところだろ?
今までテンプレが続いたからか、急に胡散臭く思えてきたな。現実的に考えれば、テンプレの方がおかしいんだろうけどけど。
いや、さっきの魔法は本物だったし。ううむ......。
「強いて言えば貴方が貴方らしく、思うように生きてください。戦わず、楽しく暮らしたいのならそれもいいでしょう。時には悩むことも辞めたくなる事もあるでしょう。そうだとしても貴方が選びたい道を選んでください」
.........。
「俺が......俺らしく?」
「はい。貴方が貴方らしく、です。その道の先にきっと私たちの望む未来があるでしょうから」
そういってニコリと微笑む彼女。そこには一欠片の疑念も見当たらない。
「......わかった、行くよ。でも少しだけ待ってくれ。両親に挨拶だけしたいんだ」
正真正銘、今生の別れだ。墓を介してすら会えない、俺はこの世界から骨すら残さず消えるのだから。
「構いません。特に急ぐ必要もありませんので、ゆっくりしてきてください。私はここで待っています」
◇◇◇
ひとまず墓参りを終え、それなりの準備をして戻ってきた。例えば、服装。先程までのジャージではなく黒のストレッチパンツに、上はぴったりと張り付くタイプの黒Vネックインナー、前が開いた膝下ほどまでのこれまた黒のコート。何処かの黒の剣士さんもかくやという姿だ。
もらったナイフも太ももにつけるタイプのナイフ鞘に入れ、付けている。
そして背中のリュックには、三日分ほどの水と食料を入れてある。食料もあまり嵩張らないカロ〇ーメイトやウ〇ダーインゼリーのようなものばかりだ。水はペットボトルに入れている。
あとは向こうで換金できそうな金目の物。自分の腕時計や鉱石のネックレスなどだ。端金にしかならないだろうが、ないよりはましだろう。
また両親の形見は、最小限だけ持ってきた。母の指輪に父の愛読書、その本に挟める程度の家族写真だ。それ以外は名残惜しいが置いてきた。
「......準備はよろしいですか?」
色々と確かめ終わった俺にアイテリアルが尋ねてくる。なんだかんだと随分と待たせてしまった。
「ああ。大丈夫だ、いや、不安がないわけじゃないけど......まぁ大丈夫だよ」
ぎゅっと震える手のひらを握りしめる。身体は興奮で燃えそうに熱い。けれど頭はなぜか冷たく落ち着いていた。
「ふふ、なんですかそれ。でも、わかりました」
そう彼女は微笑みながら了承してくれた。
「では、取り掛かりますね。向こうの街付近に転移させます」
「頼む」
おもむろに彼女は胸の前で手を組み、何事かをつぶやき始めた。そのまましばらくすると足元に何か違和感を覚え、見ると徐々にいわゆる魔法陣らしきものが浮き出始めていた。
「おおっ! おおおおおぉぉぉぉ!?」
ピシピシと世界ごと軋むような音が響き、その魔方陣が完成すると同時に身体が四方に引っ張られるような痛みを感じた。それがピークに達したとき魔法陣が一際強い光を放った。
かろうじて聞こえたのはアイテリアルが俺に向けて何かを言ったことだけだ。
「───我は願う。貴方の選択の先に正しき道が創造されんことを。私の、私たちの世界をお願いします」
彼女───アイテリアルのその言葉を最後に俺の意識は深い闇の中へと落ちていった。