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17 普段大人しい人ほど怒ると怖い


 sideグラン


「ったく、アレ(・・)が新人やて? 冗談も程々にしてくれや......」


 報告に向かってる途中、先ほどまで戦っていた黒髪黒目の少年を思い浮かべる。物腰は穏やかで、紳士的だがその目は間逆といってもいいほど強い意思に満ちていた。

 正直、十分強い力を持っているのだが、負けたことに悔しそうな顔を浮かべていた。普通なら、格上だったと自分を納得させるというのにだ。

 元々自分も本気で戦う気なんて無かった。軽く様子を見る程度のつもりだったのだが、最後の一撃を彼が放ったとき本能が強く警鐘を鳴らし、気がつけば彼をその場にたたきつけていたのだ。しかも、衝撃を受け流し切れず、多少なりともダメージを受けてしまった。

 その小さな体は溢れんばかりの戦闘センスと伸びしろを備えていた。そう、思わず嫉妬してしまうほどに......。


「――――っと着いたか」


 どうやら考え込んでいる間に、目的地に着いていたようだ。軽く身なりを整え、扉をノックする。


「グランです。試験の件で報告に参りました」

「......入れ」


 返ってきた野太い声に、扉を開けて中へと入る。


「よう、グラン。元気か?」

「お生憎様ですが、疲れていますよ」

「......ほう?」


 書類に囲まれたこの部屋の主は、俺の言葉にピクリと反応する。


「お前がそういうってことは今回の新人は期待できるのか?」

「ええ。一撃もらっちゃいましたしね」

「ほう! お前に一撃を食らわせるか!」


 喜色に満ちた顔でこちらに乗り出してくる。


「これは楽しみだなっ! がっはっはっは!!」


 大きく声を上げて笑う上司に苦笑を漏らして嗜める。


「ほどほどにしておいてくださいね? ギルドマスター(・・・・・・・)

「おうよ!」


 燃え上がるような赤い髪を短く刈り込んだ、筋骨隆々の偉丈夫が大きく叫んで返事をする。

 彼――――この冒険者ギルド『水晶の探求団』のギルドマスターは獰猛な笑みを浮かべていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ソウジside


 試験を終えた俺は、ミライアとは別れアリアの元へと向かっていた。


「あ、お疲れー。どうだった?」

「はぁ、普通に負けたわ......」

「やっぱりね」


 訳知り顔でうんうんと頷くアリアに若干イラっとしてしまう。


「やっぱりって......。勝ってこいって言ったのはアリアだろ」

「そう、ふてくされた顔をしないの。あんなのはソウジ君のやる気を引き出すための嘘だよ」

「余計、性質(たち)が悪いわ!!」


 ふふっと楽しそうに笑うアリアに、これ以上何か言う気にもなれずその隣に腰を下ろす。

 そこで先ほどのミライアさんの言葉をふと思い出す。


「そういや、さっきミライアさんが気になることを言ってたんだが」 


 そのことについて話題を出すとアリアがビクッと動きを止める。


「へ、へぇ。どんなことかな?」

「それがなんか、”特別冒険者試験”とかなんとか」

「ふ、ふーん。そうなんだ」

「何か知らないかな?」

「......いやぁ、わからないかな」


 視線を逸らそうとするアリアをジト目で見据える。怪しすぎる。


「知ってるんだろ?」


 ニコリと笑ってアリアに問いかける。


「そ、そんなことよりもそろそろ結果がわかるんじゃないかなー!」

「誤魔化そうとしても――――」

「――――ソウジさん。先ほどの試験について合否発表です」


 逃げようとアリアをさらに問い詰めようとしたとき、背後から声がかかる。

 振り返るとそこには、先ほど話題に出たミライアさんが立っていた。


「あ、はい」

「では、こちらに来てください」

「わかりました」


 立ち上がり、ミライアさんの方へと向かう。

 

「あ、アリアもですよ?」


 そのまま行くのかと思いきや、さらに彼女はアリアに声を掛けた。


「あ、あははー。どうしてもいかないと駄目かな......?」

「当たり前じゃないですか。そもそも彼を推薦(・・)したのは貴方でしょ?」

「そ、そうですよね」


 ......当事者であるはずの俺が一番事情を把握できていないというのは、どうなのだろう?


「というか、なんでそんなに渋るんです?」

「あー、いや、行くよ。ほら! 行こうか!」


 頭の上に疑問符を浮かべたミライアさんがアリアに尋ねる。しかし、アリアは即座に誤魔化して先導し始めた。

 

「それはいいですが、アリア」

「ん?」

「どこに行くのかわかってるんですか?」

「......あ」


 ミライアさんはため息をつくと俺たちを先導し始めた。

 ――――そうして歩くこと数分、辿り着いたのは小さな会議室のような場所だった。

 部屋の中心に長机があり、壁には質素ではあるもののしっかりとした装飾がある。


「では、二人とも。ここにおかけください」

「わかりました」

「はーい」


 部屋に入るとすぐ椅子に座るように促される。

 

「これは......水晶?」


 座って気づいたのだが、机の上には子供の頭ほどの水晶玉らしきものが置いてあった。その隣にはなにかの機械らしきものもある。


「はい、と言いたいところですが違います。魔道具の一種ですね」

「魔道具......」

「まぁ追々説明しますので、まずは合否発表です」


 真剣味の強い彼女の言葉に思わず、居住まいを正してしまう。


「端的に言いまして......」

「......」


 背筋に汗が伝う。


「合格です」

「っ! はぁー! よかった」


 緊張の糸が切れ、思わず机に突っ伏しそうになるが理性を総動員して押しとどめる。


「ソウジ・アカツキさん、あなたは”特別冒険者試験”を合格し、またその実力など加味した結果、ランクEからの登録となります。おめでとうございます」

「えっと......」

「?? どうされましたか?」


 反応の薄い俺に、首をかしげるミライアさん。くぅ! 可愛い!

 こんなことを聞くなんて恥ずかしいが仕方ない。何やら焦った顔をしたアリアが、いやいやと首を振っているがそんなことは俺には関係ないのだ。



「すみません、”特別冒険者試験”とは何でしょうか?」

「......はい?」

「あはは......」


 俺の余りといえば余りな質問に、ミライアさんは開いた口が塞がらないようだ。また隣では、アリアが乾いた笑いを上げている。


「えっと、それはどういうものか分からないということですか?」


 しばらくして再起動したミライアさんが確認するように聞いてくるが、そういうことではない。


「いえ、存在すら知りませんでした」


 ミライアさんは、ゆっくりと顔を動かしアリアの方を見る。

 しかし当のアリアは、目を合わせまいと明後日の方向を見ている。

 

「アリア」

「はひぃ!」


 冷たく感情のこもっていない声が、アリアの名を形作ってミライアさんの口から洩れる。


「どうして、伝えなかったのですか?」


 ゴミを見るような瞳で、アリアを見据えながら彼女は尋ねる。俺も声を出して、アリアを追及したいところであるのだが、無理だ。猫の......いや、獅子の尾は踏めないのだ。


「えっと、いやぁその......だったの」


 アリアがごにょごにょと何かを呟くが、聞こえない。


「聞こえません」

「だから! その、そうしたら面白いかな......と思いました」


 信じられないような言葉がアリアの口から洩れるとともに、正面からプツン、と切れてはいけない何かが切れた音が聞こえる。


「......」

「えっと、ミライア?」


 ミライアさん――――いや、それ(・・)はゆらりと立ち上がる。


「 ア リ ア ! ! 」

「ひぃっ!」

「あなたは突然帰ってきたと思ったら――――」


 そこからは、雷様も真っ青な説教が始まった、ということは伝えておく。

 俺には恐ろしすぎて、言葉にするのもはばかられるのです。



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