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14 冒険者ギルド

 

 ようやく街へと足を踏み入れた俺は、目の前に広がる光景に思わず見入ってしまった。


「おお……」


 そこには、小規模ながら市が開かれていた。その喧騒と売られているものをみて、異世界に来たという実感を味わう。


「へい、らっしゃい! 新鮮な野菜が仕入れられているよ!」

「この街、名産! 水晶のアクセサリーは如何かな!」

「近くの湖でとれた、新鮮な魚はどうだい!? 今日は大物が入ってるよー!」


 その賑やかさと風景に圧倒されて、言葉が出てこない。


「どうかな? 活気が凄いだろう? 街に入ってきた人たち目当てにここにはいつも市が開かれるんだ」


 自分が凄いわけでもないのにどやっと胸を張って、誇らしげにするアリア。

 ……張る胸はないのだが。


「あぁ! すごいな! こんなの見たことない! あ、あれって……」

 

 見渡せば、武器を持った冒険者らしき人、それにちょっかいをかけて笑う屋台の店主。その中には、当然のように動物の耳が生えた人種もいる。もしかしなくとも獣人という奴だろう。

 俺の元いた世界では明らかな異物であり、違和感の塊でしかないはずなのだが、何故か俺は何も思わず、違和感のいの字すら感じることは無かった。

 それでも珍しいことには変わらず、思わず声を出してしまう。


「ん? 獣人を見るのも初めてなの?」


 失敗したか……? もしかしてどこにでもいる種族だっただろうか?

 思った以上に獣人とは浸透しているのかもしれない。


「あ、ああ。俺の村はほんとに小さくて、普通の人しか居なかったから……」

「へぇ、そうなんだ。じゃあ、次はギルドへ行こうか」


 危ない危ない……。どうやら問題なかったみたいだ。

 にしても、ギルドか。ゴロツキや強い冒険者、そして綺麗な受付嬢。やはり夢は膨らむものだ。

 アリアの先導に従って、市を抜け、しばらく進むと大きな建物が見えてくる。


「見えたね。あれがこの街のギルド『水晶の探究団』だ」

「あれがギルド……」


 中世の城のような建物のあちこちに、水晶の大結晶が飛び出ており、名前にふさわしく印象的な建物だ。

 アリアと共に両開きの扉を押し開けて中へ入ると、中にいた大勢の冒険者が一斉にこちらを振り向く。その大量の眼光に気圧されてしまい、足が止まってしまった。

 が、すぐに興味を失ったのか、視線を切り談笑を再開した。

 その中で、一人の冒険者がこちらへ歩んできて、アリアに声を掛ける。


「久しぶりじゃねぇか。いつぶりだ? 『光弓(こうきゅう)戦姫(せんき)』よ?」


 『光弓の戦姫』……彼がそう言った途端、再度ギルド全体が騒がしくなる。


「おい、聞いたか? 『光弓の戦姫』だってよ」

「あれが……? まだ少女じゃねぇか」

「だから最年少でBランクなんだろ?」

「ちょ、超かわいいんだな……おらの嫁に……!」


 Bランクなどといった声が聞こえてくる。もしかしなくとも、アリアのことだろうが……。どれほどなのか、わかりはしなかったけれど、何やら普通ではないということは分かった。あと、最後のやつ、お前やばいだろ。


「そうだねー……。二年ぶりくらいじゃない?」

「ほう、もうそんなに経つのか。俺も年を取るわけだ」

「まだまだ現役でしょ? ナザース」

「おうよ! もちろんだ」


 あの白髪の冒険者は、ナザースというらしい。ベテランとしての風格に満ちているというか、強そうだ。背中には大きな大剣を背負っていた。

 顔には、目の横から頬にかけて深い傷痕が残っており、それがまた威圧感の一助となっている。


「で、お前さん、今日はどんな要件だ?」

「今日は私じゃないよ。こっちの彼の冒険者登録」

「お? ほほぅ……なかなか鍛えているみたいじゃないか。それに……刀か。ここらじゃ見ないから驚いたぜ。俺はナザース、『剛剣』のナザースだ。一応、Aランクだ」


 Aランク……最高に近いランクだとは思うが……道理で強そうなわけだ。

 失礼があってはいけないと、居住まいを正し彼の目をしっかりと見つめて挨拶をする。


「初めまして。俺はソウジ・アカツキです。ナザースさん、よろしくお願いします」


 彼は俺の事を、目を細めて見つめた後、アリアに何か耳打ちした。

 アリアは一旦フリーズしてからその白磁のような肌の顔が、赤く染まる。


「ち、違うよ! ソウジ君は、ただの弟子だよ!」

「がっはっはっは!! お前さんがそんな様子を見せるだけでも十分だ!」

「あ、あの……」


 何のことかわからず、ついていけない。

 思わず、漏れ出るようにして声を掛けてしまった。


「お、すまんすまん! アリアの反応が面白くてな! つい、からかい過ぎちまった。えっと、ソウジだっけか。俺に対してはそんな敬語はやめてくれ、あと呼び捨てでいい」

「え、そんなわけには......」

「いい! おれがそうして欲しいんだ」


 俺のことに気がついた彼は、その精悍な顔を破顔させ、俺の肩をバシバシと叩いてくる。

 中々思いきりのいい人物のようだ。初対面で若い俺に、呼び捨てでいいとは……。


「はぁ、わかったよ、改めてよろしく。ナザース」

「おう、応援してるぜ。ソウジ。じゃあな」

「いって!」


 最後に強く俺の背中を叩き、去っていくナザース。なんだか終始、圧倒されっぱなしだったな。

 気がつけば隣にアリアがいて、ニコニコと笑っている。


「なんだ?」

「気に入られたね、ソウジ君」

「そうなのか?」

「うん、呼び捨てでなんて普通は呼ばせないからね。あのおじさん」


 いや、なんか……誰にでもあんな感じで接しそうだが......。

 そのまま、受付へと向かうとそこには燃えるような赤い髪の眼鏡っ子がいた。彼女は俺たちに気づくとにこやかに微笑みながら挨拶をした。


「いらっしゃいませ、ギルド『水晶の探求団』へようこそ! 本日はどのようなご用件でしょうか?」

「冒険者登録をお願いします」

「あ、俺です」

「わかりました、ではまずここに署名と使用武器を記入してください。また、魔法の適正属性がわかっている場合もこちらに記入ください」


 そういって羊皮紙と羽ペンを渡される。


「大丈夫? 書ける?」

「ああ、文字くらい書ける」


 心配そうにアリアが尋ねるが、ペンを持ったら、書くべき文字が頭に浮かび、慣れた手つきで文字を書くことが出来た。これも異世界転移の特典の一つなのだろうか。


「はい、承りました。ええと、ソウジ・アカツキさん。使用武器は刀で、魔法は使用可、しかし属性は不明。ですね! では、少しお待ちください」


 少し待つように言われ、彼女は奥へと入っていった。むぅ手持無沙汰だな……。

 するとアリアが。


「少し時間がかかるようだし、ちょっと講義しようかな。魔法には属性があることは教えたよね?」


 あぁ知っている。基本属性に、火、水、土、風があり、その上位が、炎、氷、岩、嵐。そして特殊な属性として、光、闇、時空がある。ちなみにアリアは基本四属性と光、時空が使える。


「適正属性の中にも得意、不得意があって、私は光と時空特化だね。なぜこうなるかというと、この世界には各属性を司る精霊がいるんだ。基本属性、(サラマンダー) (ウンディーネ) (ノーム) (シルフ)、上位属性、(イフリート) (アイシクル )(ガイアルム) (テンペスト)、特殊属性、 (ソレイユ) (シャドウ) 時空(クロノス)、という風にね。そして各精霊と波長の合うものが属性を使用、そしてよっぽど気に入られている場合、それに特化するんだよ」


 なるほど。この世界には精霊という概念が存在するのか。もしかしたら、いるのでは程度には思っていたが本当に存在するとは……。


「そして、私たちの持つ霊魂器、これには──」

「──アカツキさーん! 準備が出来ましたので、こちらへ来てください!」

「……準備ができたみたいだね。続きはまた後でかな?」

「了解」


 ついに試験が始まるようだ。俺は緊張とそれを凌ぐワクワクとを胸に抱えて試験へ望むのだった。


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