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10 成長の実感


 ようやく全身に巡らせることが出来たのは、もう日も暮れかかったころのことだった。


「ぜぇ……はぁ……よ、ようやくできた……」

「おめでとうー! なら今度はそれを維持したまま素振りでもしてみようか。はい、ソウジ君の刀」

 

 ようやく魔力を全身に循環させられるようになったかと思えば、アリア師匠がにこやかな笑みと共に信じられないようなことを宣い、刀を手渡してきた。


「……バッカじゃねぇの!?」


 信じたくない気持ちから思わず敬語も忘れ、心のそこからの本音が漏れ出る。


「バカじゃないよー、私は夕ご飯取りに行ってくるから。戻ってくるまで続けておいてねー」

「ちょ、まって……!」


 しかし、そんな俺の言葉もどこ吹く風。制止の声も聞こえていないようで師匠はそのまま、森のほうへ駆けて行ってしまった……。

 ポツンと取り残された俺は大きくため息を吐き……渋々、素振りを開始するのだった。


「……197、198、199、200! はぁ……! もう無理……」


 あれからしばらく全身に魔力循環をしたまま何百と素振りを繰り返した。

 とうとう疲労もピークに差し掛かり、俺はその場で寝転がって、休憩する。しかし、ある程度、意識を割かなくても出来るようになってきたこともあり、魔力循環は続けたままだ。

 段々、魔力循環が癖になりそうで怖い……。

 と、そんなとき茂みを搔き分け、師匠が姿を現す。


「やってるねー。師匠が帰ってきたよ」

「……あぁ、お帰りなさい」


 見れば、彼女は何処からか大きな猪のような動物を取り出した(・・・・・)

 これは時空魔法の一種らしく、ディメンションバッグというらしい。早い話が、四〇元ポケットだな。


「弟子の成長を祝って、今日は大物にしました!」

「あ、はい、ありがとうございます」

「む……反応が悪いね……!」


 疲れからリアクションをとるのもしんどくなり、曖昧に返事を返すと彼女は整った顔を河豚のように膨らませ、ブーブーと抗議の声を上げてくる。

 誰のせいだと思ってるんだろうか……このひとは。


「あ、そうそう。とりあえず一旦循環を解除していいよ」

「マジですかっ!」

「うん」


 思い出したように本当の休憩の許可を出される。

 俺は即座に解除して、身体を弛緩させる。


「はぁ……なんて心地いい脱力感……このまま眠ってしまいたい」

「だらけているところ悪いんだけど、もう一回木を殴ってみてくれるかな」

「ええ……?」

「い い か な ?」

「……はい」

 

 笑顔の裏に隠れた底の知れない恐怖に立ち向かうことは俺にはできず、渋々従う。

 俺は起き上がり、近くの木の前に立った。


「行きますよ」

「いいよー」


――――――強化魔法Lv.3・腕力強化


 拳を握り、強化魔法を発動して木を殴る。

 結果、先ほど同じように、いやより、細かく、多くの範囲が粉砕されている。


「!!」

 

 しかし、俺はそれ以外のところに驚いていた。それは魔力の展開が驚くほどスムーズだったのだ。

 初めて行った時のような、ぎこちなさはなく、ほぼ無意識で魔力が蠢き、補強、攻撃に転じることが出来た。


「上々だね。今度は全身に強化魔法をかけてみようか」


 戸惑っているところへ新たな指示。

 俺は言われるがままに強化魔法を発動する。


――――――強化魔法Lv.3・全身強化


 ……魔力を展開してから、収束、強化までのタイムラグが全くない。試しに近くの木を蹴ってみると、呆気なく粉砕された。


「もういいよ。解除してね」


 魔力を霧散させて、解除する。これが先ほどまでの成果だというのだろうか。


「いい感じに仕上がっているね! 流石、私の弟子だねっ!」

 

 師匠は、ふんすっと鼻息荒く、何度も頷いていた。

 そんな様子を他所に俺は自分の手足を眺め、思わず、つぶやいていた。


「……すっげ……」

「よーし! じゃあさっきの肉を使って、盛大に焼き肉と行きましょう!」

「……はい!!」


 師匠の音頭を元に意気揚々と俺たちは洞窟の中へと戻っていった。


「あ、食べた後はソウジ君の刀に魔力を通す練習するからねー」

「げぇ……」


 食後に、また二時間ほど地獄のような特訓をして、ようやく刀への魔力循環が出来るようになった。

 そして俺はそのまま横になり、泥のように眠ってしまうのであった……。




 あ、肉はとってもおいしかったです。


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