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0 プロローグ



「ようやく見つけた。私の世界を救う、彼等を倒す力を持つ器……。今はまだ弱々しいけれど貴方なら大丈夫────」



 ◇◇◇



 ────暗い。何も見えない。


 ここは何処だろうか、自分が自分でないような不思議な感覚に陥る。辺りを見渡すと真っ暗な世界がどこまでも広がっていた。浮いているのか、立っているのかすらわからない。

 暫く周囲を見渡していると何もないと思えた世界にぽつりと小さな光を見つけた。吸い寄せられるようにそちらへと足が向く。黙ってひたすら光を目指して歩みを続けていくと、気が付いた時にはその光はこちらを飲み込むほど大きく────。




「……知ってる天井だ」


 なんて某有名アニメの台詞を少し変えて呟いた。枕元で鳴り続ける時計を止めて、体を起こして大きく伸びをする。


「ん、はぁ……またコレか」


 最近、不思議な夢をよく見る。ハッキリと内容を覚えているわけでもないのに、"夢を見ていた"という感覚だけが明瞭に残っている、そんな夢。

 特に深刻な実害はないのだけど、何処となく違和感を感じて寝覚めが悪い。


「まぁ、いいか」


 もう、慣れたことだと俺――紅月 蒼司(あかつき そうじ)は気を取り直して起き上がった。軽く朝食を済ませて、動きやすい服装に着替える。スポーツ飲料水、タオルを持ち、準備は終わり。そしていつものように仏壇の前に向かい、両親へと挨拶をする。


「父さん、母さん、おはよう。今日も俺はいたって元気です。変な夢こそ見るけど……」


 両親は俺が中学2年生のときに事故で他界した。道路に飛び出した女の子を二人してかばって死んでしまったのだ。

いくら「困ってる人を助けてあげなさい」が口癖だからって自分たちが死んでしまってどうするんだと葬式の時、行き場のない怒りを周囲に当たり散らしていたことを思い出す。

その頃の俺は、親孝行もろくにできないダメなやつだった。学校は平気でさぼるし、何か胸を張って自慢できるものも持たない。そんな俺を両親はいつも笑って、ただ黙って“いつも通り”に接してくれた。ますますそれがしんどくて……でもどうしようもなく、その優しさに甘えることしかできなかった。

 けれど逝ってしまってからも心配を掛けては行けないと思い、まずは不登校気味で弱い体を強くすることから始めた。

だから今日も今日とて日課のサイクリングとトレーニングに向かう。


「じゃあ行ってきます」


 ───行ってらっしゃい。

 背中にそんな声を掛けられたような気がして振り向くが、当然そこには誰もいない。どうも疲れているみたいだな。

 父さんからの最後のプレゼントであるロードバイクにまたがって走り出す。頬にあたる風が実に気持ちよくて気分がよくなっていく。

 そうして小一時間ほどして着いたのはとある寂れた神社だ。一年ほど前にサイクリング最中、見つけて以降、気に入ってトレーニング場所に使っている。

 境内に愛車を停め、神社の周囲をランニングすることから始める。トレーニングをし始めた頃は根暗オタクだったこともあり、2周もすれば息が切れていたのだが、今ではペースの維持さえしていれば息切れすることはなくなっていた。かるく5キロほど走り終えると、筋トレに移行する。  

 これも最初はせいぜい各10が限界だったが、今では軽く行える。


「───っと、こんなもんかな。やっていれば意外と慣れてくるものだな」


こんなことを繰り返しているうちに貧弱だった身体は見る影もなく、腹筋は割れ、全体的にがっしりしてきた。中学時代の知り合いは俺だと気づかないだろう。……まぁそんな知り合いもいないけど? なんなら俺のことを知ってるやつなんて今はいないまである。

何を言ってるんだろうか、俺は……。

そうひとりごちていると


「……ん! ……じさん!」


 何処からともなく、声が聞こえてきた。小さく、けれど確かに聞こえるその声はか細く誰かに呼び掛けているようであった。俺は首を巡らし、声の出どころを探す。


「何処から聞こえている……。───(やしろ)のほうか」


 立ち上がり、古ぼけて今にも崩れそうな社へ向かうと段々声が大きく聞き取れるようになってきた。

 どうやら女性のようだが、どこかその声に聞き覚えのあるようにも感じる。


――――こちらです。


「うおっ!?」


先程まで不明瞭だった肉声は、俺の頭に響くようにしてはっきりと聞こえた。

俺はその声に導かれるまま、社の前に立ち、その扉に手をかけた。


「……っ!」


 ────扉を開けるとそこには、金髪翠眼の美しい女性がいた。柔らかい笑みを浮かべ、こちらを見つめている。

歳のころは20代前半くらい、ギリシャの神が身に纏うようなキトンを着ている。

その肌は透き通るように白く、その容姿と相まって現実感がない。

 ……それに、でかい。何がとは言わないがでかい。それと、でかい。


「ようやく会えました。紅月蒼司(あかつきそうじ)さん」


 それにただデカすぎるのではなく、形が良くいわゆる美乳というやつだ。


「あ、あの……? 紅月さん?」


 まるで男の理想を体現しているかのような容姿は、俺の視線を捉えて離さない。


「胸ばかり見てないで話を聞きなさいっ! 」

「おぉうっ!? 」


 ふと気付くとその女性が頬を紅潮させてこちらを睨んでいる。……ちなみに上目遣いで。


「ふぅ……ようやくこっちを見てくださいましたね。紅月蒼司さん」

「えっと、何故俺の名前を? それにどこかでお会いしましたか?」


 そう。なぜか俺は彼女に既視感を感じるのだ。しかし、思いだそうとしても心当たりはない。どこかでみたのか、それとも単なる気のせいか。


「それも含めて今から説明してもいいでしょうか?」

「あ、え、はい。大丈夫です」


 彼女は、にこりと笑ってこちらを見る。どうやら説明してもらえるようだ。

どもってしまったのは仕方ない。美人の笑顔なんて免疫ないのだから。


「び、美人だなんてそんな……」

「あっ! もしかして俺……声に出してました?」

「……はい」


 うわぁぁぁぁ、恥ずかしい……。俺は彼女にすぐに謝った。


「すいません、ほんっとすいません!」

「だ、大丈夫ですよ、その、嬉しかったですし……」

「そ、そうですか」


 気まずい沈黙が流れる。


「ん、んっ! ……では、改めまして。私の名前はアイテリアル。この世界とは違う次元に存在する異世界『ロストフィア』の創造神です。……まぁ創造神といっても世界自体を創造したわけではなく、創造を司るということです。こう見えても最高神の一人なんですよ?」


 ───what?

 おっといけないイケナイ。びっくりしすぎて思わずNaturalなEnglishがでてしまったよ。


「ええと、いったん落ち着こうか。何だっけ? あなたが異世界の神様で、最高神の一人?ということでいい……のか?」

「はい、そうですね。ついでに言うとあなたのことを転移候補として以前から見ていました。そして貴方に私たちの世界へ来ていただきたくて今回接触しました。あ、あと神であるということが信じられないと思いますし、先に証拠見せておきますね?」


彼女はおもむろに何も無い空間へ手を伸ばし、簡潔な呪文のようなものを唱えた。


「───創造(クリエイト)


すると彼女の手の内の空間が歪み、気付けばそこに何やら文字の刻まれた赤黒い色をしたナイフが握られていた。


「今のは私の基本的な権能である創造(クリエイト)です。これは貴方に差し上げましょう。一応神器という扱いにはなりますが、私からの餞別です。」


 そういって俺へナイフを手渡してくる。手にかかるズッシリとした重みとその冷たい質感がそれが本物であることを否応もなく伝えてきていて……。


「ふむ、ほうほう。なるほどね。確かに本物だ、つまり貴方は女神、そして俺はそれに選ばれた転移者……」


 溜息をつくと俺は息を吸い込み、口を開いた。


「はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!?!?」


拝啓、天国にいらっしゃる親愛なるお父様、お母様。

貴方たちの息子、紅月蒼司は異世界へとご招待されてしまったようです。




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