前半
遅くなりまして、マジでごめんなさい…
拙いながらにも書かせて頂きました。
ブラウザバックの用意はいいですか?
では、どうぞ
3月14日。世ではホワイトデーなるイベントで盛り上がっている。
そこかしこでキャッキャと騒ぐ男女が闊歩する街中に、場違い感漂う貞子みたいな女性がいた。
「…バレンタインデーのお返しの日だなんて、そんな枠組みが必要なのかしらね」
ぶつぶつと不満を述べる彼女を気に留めず、人々は思い思いの行動をしている。
その中で、見知った顔の4人組が話しているのを見つけた。
髪がボサボサの眼鏡君。とんがり帽子の青年…のような化物。白熊のように透き通った肌の女性。そして、褐色で笑顔が眩しい男性。
私は少し複雑な表情を浮かべた。嬉しいような落胆するような…
そう、今この町が賑わっているのは白熊の女性が原因だった。
『14日にイベントしまーす!!
題して、【ホワイトデー大作戦】!!
(説明を要約すると、
・男子が女子に贈り物を送り、それに女子はお返しを渡す(一応女子から送っても可)
・出来れば、その二人で今日限りの恋人関係になる
とのこと)
皆様のご参加、お待ちしておりまーす!!!』
先程まで彼女が言っていた不満点を取り込んでいながら、疑似的、合法的にデートができるチャンスでもあるこのイベント。
参加資格があるのは、従者的な立場にある私達。眼鏡君と女性には参加資格はないが、彼等同士で話し合い、誰の従者と絡ますかを話し合っている…
私達のイベントでありながら、『私達に決定権はない』…馬鹿げているが、そんなことは言えず。何かが狂ったイベントの準備が着々と進み、今に至るわけだ。
因みに、私はあのバカ…眼鏡君の従者的な立場らしいのだけど…。そんな事に納得できないからいつもこうして距離を取っている。
『誰かうちの子を強襲させてください!!!』
『ちょ…マスター大声で…』
バカ(名詞)のバカらしい行動を止める帽子
『スイさん!アルスさんと!』
『どちらかというと私が強襲する側なのかな…?』
それに乗る女性と、笑顔を絶やさない男性。
バカがちらっとこちらを見て、含みのある笑顔を向けられる。
『アルスさんなら…』
(ちょ…準備してないわよ!!!)
嫌な予感がしたのか、自宅に逃げ帰るように転移した。
「アルスさんなら…あれ?●●さんは?」
「えっと…逃げた?」
「はぁ?」
先程まで彼女は何処かにいたのだろう…と、二人の会話を聞いてアルスは思った
「逃げたか~、残念!」
私の主人…と呼んでもいいのかは分からないが、彼女も残念そうにしている
「私が家に出向いた方が良いかな?」
彼女の家は知っているが、勝手に転移するのもどうかと思い、『スイさん』と呼ばれていた少年の方を見やる
「ちくせう…二人でイチャイチャデートをさせようと思っていたのn「斬るわよ」―――
私の話を聞かずに、自分の世界に入っていた少年の首が宙を舞う。倒れゆく体の陰から女性の姿が現れた。
とんがり帽子の青年?も驚いたように「あ、居た」と小さく零す。
―――
謎の力が働いたのか少年の首が元に戻り、立ち上がる
「…だから、自分は案山子じゃないって…」
「変なことを考えているのが悪いのよ…普通のカマイタチなだけありがたいと思いなさい」
「普通のカマイタチとは」
冷たい彼女の返答と、それに突っ込む青年。何とも奇妙な感じだか、とりあえず役者は揃ったようだ。
「いたのか…お嬢さん、少しいいかな?」
「でーとでーと!!」
「君は少し落ち着こうか?」
テンションの高い主人をなだめながら、彼女に向く。が、プイっとそっぽを向かれてしまう
「何よ、私はまだ何も渡してないわよ」
「お茶、クッキー、転移装置」
「…それでも、ちゃんとしたものは渡してないわよ」
「エェ~?」
少年の茶化し方に少し親近感が沸いたが、今は便乗する時間ではない。
「いやなに、私から先日の感謝を込めた花を…受け取って欲しいのだが…構わないだろうか…?」
「まま、男性から動くイベントですしそんな深く考えずにっ」
主人の言葉にああと相槌を打ちながら、手に持っていた数輪の花をおずおずと彼女に向ける。
受け取ってくれるだろうか…?
「…まぁ、良いわよ。受け取るわ……」
気恥ずかしさをこらえながら、目を合わせないように花を受け取る。
「素直じゃn「斬るわよ」―――
―――
もう一度首を切断したが、何事もなかったかのように元に戻る。ゴメンナサイと小さく呟くバカを横目に、溜息が零れ落ちる。
「ハァ…とりあえず花のお返し、普通のチョコよ」
前々から準備していた、何の変哲も隠し味もないチョコをぶっきらぼうに渡す。本当は『相手より前に渡す』つもりでいた…お返しだと思われたくなくて。
「ちなみにな、その花はラナンキュラスと言ってな、魅力的な君には似合う花だと思うぞ。
お返しのチョコ、ありがたく受け取ろう」
「あるすさんほんと、あるすさん」
…ラナンキュラス?確かラナンキュラスの花言葉は…『とても魅力的』『華やかな魅力』―――!?
慌てて渡された花を見直し、意味深にぽつりと呟いた彼女の意図を汲み取った。
「赤に黄色に白に…って!?貴方本気!?」
自分でもわかる程頬を紅潮させてしまう。だって、これは…
「あ、色ごとの花言葉を思い出して焦ってる」
「これは何というか…罪作りだね!」
ボソッ…と私の現状を語るバカと、何故か必死にメモを取る帽子。恥ずかしくて首を斬り落とす気力も湧かない。
「…それで、どうするのかしら?」
俯きながら、なるべく声を震わせないように確認する。多分まだ頬は紅いだろう。
「ははは、なんならどうだ…今度は私の家にでも来るか?」
その様子を見て、彼はからかうようにヘラヘラと笑いながら答えた。
「おでかけでなく?」
「城だからな。今ならとってもいい景色が見られると思うのだか、どうかな」
(天然タラシ本当にッ!!)
そうツッコミを入れそうになるのを堪えて、スイさんの方を見やる。
確かに、前回アルスさんは(結果的に私もだが)彼女の家に案内された。まぁ、順番としては間違っていないんだけど…。『その日限りの恋人関係』でのデート場所がお城…うーん、これは??
「ええ。良いわよ」
頬はまだ紅いが、いつものような雰囲気で彼女は返事をした。
「移転するの?」
「遠くなかったら歩いて行っても良いんじゃない?」
「そ、それは…色々と…」
「え…?あっ…」
わぁわぁと騒ぐスイさん達。残念だけど(?)、ここからお城までは遠いんだよ…
「移転しようか…ほら」
「触れてないと同時に転移出来ないか…」
うむと頷きながら、アルスが彼女に手を差し出す。
「え……ほ、本当に?」
「うんうん」
「やるしかないよ」
逃げ腰になる彼女と、それを応援するスイさん一行。あれは絶対に楽しんでいる。
「……………分かったわよ」
紆余曲折ありまして、彼女の手がアルスさんと結ばれる。俯き、拗ねたような口調で。
「ん、不服だったか…?」
「おや…?」
アルスは純粋に、私は少しからかいを込めて心配そうに尋ねる。
「…いいえ、別に、何ともないわよこんなの…」
小さくかぶりを振りながら、緊張したような声色で彼女は返答する。
「そうか…では行くぞ?」
アルスさんと彼女の姿が一瞬にして消え去る。後に残ったスイさんは、自分の顔を覆い天を仰ぎながら呟いた
「辛い…●●さんが手玉に取られてるのが可愛いいいぞスパダリイケオジタラシのアルスさんもっとやれ」
「褒めていただき…!」
豪華な部屋、だ。寝台、本棚、机、諸々の装飾品…それら全てを収めても十分に『広い』と思わせる容量に圧倒される。
一つでこれなのだ。城全体はどれ程まで大きいのであろうか。
「…お城、とは聞いていたけど、本当に大きいわね。ここは貴方の部屋なの?」
転移された場所に立ちすくみ、そう聞き返す。
「あぁ、私の部屋だ。
…ほら、ここから見える景色が綺麗でな」
そんな私に軽く微笑んで、これまた大きな窓の近くまで手を引かれる。
時差なのかこちらは夜だった。空に輝く星…それに負けず、だが控えめに光る街並み。
空と大地の絶妙なバランスは、まるでお城が星空の中にあるような。幻想的な風景を創り出して
「……」
息を呑む。かつてこれほどまでに美しい風景を見たことがあるだろうか? 少なくとも私の知る『世界』にはなかった
「…気に入ってもらえた、かな?」
少し間をおいて、彼は私にそう聞いた。子供が宝物を自慢げに見せる時みたいな無邪気な笑みを向けて。
それはまるで、私が今までで一番好きだったあの子のようで…
「…してよ。どうして優しいのよ貴方は!」
思い出を断ち切るように言い放たれた声は震え、迷いのある弱々しいものとなった。
ふむ…と小さく返す彼。そのまま私の髪を優しく、なだめるように撫でながら
「…何故だろうな、本当ならこんなに気にかけたりしないのだが。君の事は何故か気になったんだ」
あの日、互いの事情も知らぬまま相対して、戦わされて…少しだけ彼の記憶を見た。
口に出すのも憚れるような、深い「絶望」と「後悔」を体験していながら、それでも前を向こうとしている彼が羨ましく思えた。
お互いに境遇が似ていたのだ。あの後の説教も、私の自宅へ招いたのも、全て私が…彼の支えになりたいと思ったから。
そのつもりだった。だけど、
「何よ、貴方彼女がいるんでしょ?…こんな風に私と話しているのを見られたら、きっと殴られるわよ?」
―私が座りたかったその場所には、既に先客がいた。ただそれだけなのに、今まで通り諦められれば良かったのに。
そうすれば、今、こんな状況にならず…街行く人を他人事のように観察してたのに…出来なかった。
期待してしまった。温もりを求めてしまった。彼となら、お互いの傷を埋めあえるのでは…そう思ってしまった。
「なら…これは気の迷いだと思っておいてくれ」
ふわり
顔を覆う前髪を右手でそっと裂かれ、露わにになった頬に、
驚く暇もなく一瞬で終わった。
触れられた場所は冷たく湿って。だけど、そこを中心に熱が広がって。
涼しい顔で私を見ている彼は、どこか勝ち誇ったように見えて
胸を突き破らんと叩く心臓に
じわりと滲む風景に
平衡感覚を失いかけ、2,3度崩れ落ちそうになるのを必死に抑え
真白になった思考で、ただ一言
「
バカ」
それが今の彼女の、精一杯の返事だった