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33-1. いつか帰るところ

 俺たちが持ち帰ったラムファベリーを家族はとても喜んでくれた。

 ハイムにも帰宅からその足で現物を渡しに行った。

 やっぱり新鮮な方が嬉しいだろうしな。

 ちょっと欲張りに持ち帰りすぎたのでおすそ分けの分を除いても、かなりの量だ。

 今、我が家ではドライフルーツにする分やジャムにする分の割合を話し合っている。

 元気な子が産まれるといいな。

 短い滞在期間だけど、みんなのためにできることがあって良かった。

 船の遺物については謎を残してしまったが、ロムスはいつか俺が帰る場所だ。

 みんなでじっくり研究できると思えばこれからの楽しみが増えたと言えるかもしれない。

 それまで発見されませんように。





 その夜は珍しく暖炉の間には俺とエリゼ母さんとアリスしかいなかった。

 特に理由があるというわけでもなく、カイルとクルーズそれぞれに用事があるみたいだ。

 アリスは良く寝ている。

 この部屋はみんながいなくなると凄く広く感じる。

 ちょっとした寂しさを感じていると母さんが手招きをしてきた。

 言う通りに近づいて隣に座ると横から抱きしめられた。

 気恥ずかしい気もするけどそのまま受け入れる。

 前世の記憶のせいか、これまで俺は子どもとして扱われるスキンシップに少しだけ罪悪感を感じてきた。

 今日はなぜかそれがあまり気にならなかった。


「みんな、王都では頑張っていたのね。魔術の勉強をしに行ったはずなのに剣の大会まで出て、アルバン兄さんの影響かしら」


「確かに伯父さんの影響はあると思う。でもお陰で師匠に会えたよ。師匠、すごいでしょ」


「そうね、ゼブとあそこまで戦える人なんて聞いたことがないわ。それにとってもいい人」


「自慢の師匠だよ。それにルイズとカイルも頑張ってた。いつも一緒にいた俺が保証するよ。大会の結果は二人の努力の成果だよ」


 そこで母さんはちょっと微笑んだ。


「その通りね。でも、みんなと話をしたら口をそろえてこう言うのよ「一番凄いのはアインだ、一番頑張ってるのはアインだ」って」


 ちょっと意外な気分だった。

 俺は剣術では四位だったし結局この間の期末試験もギリギリまで放置していた。

 それを言おうとしたら、母さんは遮って続けた。


「カイルとルイズが言うの。王都では沢山友達が出来たけど、みんな一度はアインに助けられてるんだって。ゼブも同じようなことを言ってたわ」


 それは違う。

 フヨウは助けようとしたけど、最後には助けきれずに自分で乗り切った。

 コレン先輩も助けたのはゼブだ。


「いつも誰かを助けるために走り回って、絶対にみんなを笑顔にするんだって」


 それも違う。

 王都の森では俺が師匠に助けられた。

 橘花香のみんなに至っては俺のせいで敵に狙われた。

 リーリアとトルドの時は詐欺師みたいなことまでやった。


「アルバン兄さんもアインのお陰って手紙に書いてたわ。フルーゼだって困ってたのをアインが助けたのよね。ずっと見ていたからわかるわ」


 なんとかしようとして空回って。

 そんなことばっかりだった。

 でもいつもまわりが助けてくれる。


「みんなの力になりたいっていつも頑張っているのよね。私とクルーズにはそれがとっても嬉しいの。こんなに誇らしい気持ちになったことは無いわ。私の自慢の子どもたち」


 みんなの力になりたかった、それだけが本当だ。

 なんだかわからないけど涙がでてくる。


「あなたの頑張りをみんな見てるわ。でもね、ここにいるときは甘えていいの。私はあなたのお母さんなんだから」


 俺はこんなに涙もろかっただろうか。

 子どもの体は泣き虫にできているのかもしれない。

 ただ、嫌な気持ちではなかった。

 嬉しくても涙がでるのだと知った。

 その日は落ち着くまでエリゼ母さんの腕の中で泣き続けた。


 ロムスへの滞在ももう終わる。

 今の俺たちにとってはまだ王都が帰る場所だ。

 いつかちゃんと力をつけてロムスへ帰ろう。

 みんなのいる街でちゃんとみんなを助けられる大人になろう。


 家族に見送られてロムスを旅立つ。

 師匠も王都に帰ってからのことを考えてちょっと憂鬱そうな顔をしている。

 だけど、それはこの旅が師匠にとって気晴らしになったということだ。

 良い思い出の中に俺の故郷が残ってくれるのが嬉しい。

 後ろ髪を引かれる思いを断ち切って一歩を踏み出す。

 次に帰ってくるときもまたみんなを喜ばせることができるように願いながら。

本話で第一章終了となります。

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