勘違い聖女
遠くではトランペットの甲高いファンファーレが鳴り響いている。
あぁ、始まったのだなとしか思えず、いつものように作業台に向き直って作業の再開をする。
私、奈良橋 李衣はある日”異世界召喚”なるものに巻き込まれた、ただの女子高生である。
アルフォリア王国と呼ばれるこの国は近年魔物が異常発生しており、王都騎士団だけでは手に負えないと悟った政府はアルフォリア王国に伝わる聖女召喚を行うことにしたらしい。
あの日私は学校から帰宅してすぐだった。
「ただいま」と家の中に足を踏み出せば、そこは一瞬で見知らぬ場所で、目の前には金髪やら赤髪やら色とりどりの美形とおじ様お爺様方。
隣にはふわふわ茶髪のテンプレ可愛い系女子。どうやら彼女もよくわかってないみたい。
この後が怒涛の展開だった。
どうやらこれは聖女召喚(?)っていう儀式みたいで、代々聖女は1人だけ。ふわ子(一緒に召喚された女の子。名前知らないからずっとこう呼んでる)が聖女っぽいし、私は用無しだから森にでも捨てとこう。とかいう謎の思考で私は本当に森に捨てられた。
右も左もわからなかったのにここまで生きてこれたのは、何気なしに使えた魔法と幼い頃からやってた剣道のおかげだと思う。
森の奥に建てた一軒家でのんびり暮らしてれば、この国の第二王子とか隣国の王子だとか精霊だとかと仲良くなっちゃって今に至る。
ちなみに最近ハマってるのは氷魔法で花を包んでアクセサリーにすること。私の氷魔法は永久的に溶けない仕様のようで、それを活かしてこんな感じの仕事をしている。自分で言うのもなんだけど結構力作だし、評判。
今日もそうやって仕事をしていたはずなんだけど、いつもと違うのは今日は聖女と王子様たちの婚約パーティーだとかなんとか。第二王子様づてに聞いてたし、心底興味がないから放っておいた。それに王宮での私の評判もあんまし良くない。聖女じゃないと見捨てられたのにとかなんとかって言われてるらしい。
街での評判はすっごい良いのになぁ。
花を弄びながらぼーっとしていれば、ガチャっと家の扉が開いた。
「リィ」
整った顔立ちに艶やかな黒髪、上質だけど派手すぎない服を着たその男はセシル・カレンヴァール。
アルフォリア王国の隣の国にあたるカレンストラ王国の第一王子。
「セシル、どうしたの?」
「・・・いや、さすがのリィも今日は王都に行くのかと思ってたんだが」
「うふふ、なんでわざわざ私を捨てたところに行かなきゃならないのよ」
「それもそうだな」
セシルはそう言うと肩をすくめ、私の隣に移動きた。
「今日はアレンはいないんだな」
「来るわけないでしょ、アレンは一応第二王子なんだから」
アレン、アルフォリア王国第二王子のアレンヴァート・アルフォギニア。彼もまたこの家に頻繁に出入りする人間だ。王子がそんなことしてていいのか。
「じゃあ今日は俺がリィを独り占めできるんだな」
優しげに微笑む彼は街の女の子たちが見たらイチコロだろうなぁ。
「セシル、そういうのは本当に好きな子にしか言っちゃダメだよ。みんな勘違いしちゃうんだからね?」
一体何人の女の子に言ってきたんだ。口説き文句がさらっと出てくるあたり手馴れてるなこやつめ。
そう言うとセシルは不機嫌そうに顔を顰めると、
「リィしか興味ないのに」
「??セシル今なんか言った?」
「いいや、なんでもないよ」
この話は聖女じゃないと勘違いされた聖女がきっと色々やらかす勘違いばっかりの話。