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我が輩は骨である  作者: 日之浦 拓


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エピローグ:約束の地

「なあ、知ってるか? 森の奥に、変な集落? 宿屋? みたいなのがあるって聞いたんだけど……」


 ジョッキの酒をあおりながら、今日会ったばかりの男に、俺は話しかける。酒を飲んで意気投合なんて、別に珍しいことでも何でも無い。


「ああ、知ってるぜ。あれだろ? 何か……キツネ? がいて、美味い飯とか出してくれるんだろ? 行ったことがあるって奴、たまーにだけど見かけるし」


「おいおい、あれはキツネじゃなくて、フォクシールだぜ? まあ、見た目はまんまキツネだけどな」


 俺たちの会話に、知らない奴がジョッキを片手に入ってくる。まあ、これもまた日常のことだ。


「フォクシール? どっかで聞いたことあるような……何だっけ?」


「いや、俺に聞かれたってわかんねぇけど」


 最初に俺が話していた男……仮にジョンにでもしておこう。ジョンが頭をひねっている姿を、俺はナッツを摘まみながら軽く流す。


「お前ら大概だな……冒険者なら、そのくらいは知っておけよ」


 そんな俺たちに、呆れるようにさっきの会話に入ってきた奴……仮にエディーとでもしておこう。そいつが言う。


「フォクシールってのは、まあ獣人だよ。昔は迫害されてたとかで全然見なかったらしいし、見つけたら殺せ、くらいまでなってたらしいな」


「うわ、何それ怖っ。獣人ってことは、普通に喋れるんだろ? 言葉が通じる相手を問答無用で虐殺って、昔の人半端ねぇな」


「まあ、人種とか宗教とか、そういうのの問題では色々あるんだろ。でも、しばらく前にそうなった歴史的背景とかが発表されて、立場が回復したんだよ。

 適当な事ふかして原因作った国の王様とか、ぼっこぼこにされたらしいぜ。原因そのものはずっと昔のことなんだから、別にあの王様が悪いわけでもないんだろうに」


「まあ、運が悪かったんだろ? 人生なんてそんなもんさ」


 ご先祖様のツケを払わされるなんて、不運以外のなにものでもない。俺なら親父の借金だって余裕で蹴っ飛ばすけど、まあ王様じゃそうはいかないんだろうしな。

「で、そのフォクシール? が集まった何かがあるのか? てか、それなら普通に集落じゃないのか?」


「あぁ、まあ基本的にはフォクシールしかいないみたいだけどな。何か不思議な結界が張ってあって、認められた奴しか入れないけど、中に入れるといろんなサービスが受けられるらしい」


「サービスって?」


「うーん。美味い料理や酒、快適な寝床、あとは、マッサージだったか?」


「マッサージ?」


 質問を質問で返す水飲み鳥にでもなったかのようなジョンに、エディーがニヤリと笑みを浮かべる。


「何か、この世のものとは思えないくらい気持ちいいらしいぜ?」


「気持ちいいのか……」


「ああ、気持ちいいらしい……」


「気持ちいい……」


 気持ちいいマッサージか……それはまあ、興味があるよな。男としては。


「ふっふっふ。俺は行ったことあるぜ」


 俺たちの話を聞きつけたのか、さらに横から……今日は知らない奴が寄ってき過ぎだろ……酔っ払いが入ってくる。顔の赤さから、そこそこ飲んでいるはずだ。


「魔王キツネ村……あそこはまさに天国だった……」


「魔王!? え、魔王がいるの!? なのに村なの!?」


「ああ、魔王っていうか、何か変な主はいるな。フォクシールを統べる王様って話だったけど」


「へぇ……いや、何でそれだと魔王なんだ? 普通にフォクシール王とかじゃねーの?」


「ああ、王様はフォクシールじゃないからな。それと、魔王の理由は、『魔王キツネ村』って名前の語感がいいからだそうだ」


「はぁ……え、そんな理由で魔王とか名乗れるもんなの?」


「名乗れるんじゃねぇの? 別に誰も何も言わないみたいだし。それに魔王って言っても、別に何か悪いことしてるわけじゃないんだろうしな。毎日フォクシールの女を侍らせて、モフモフ三昧の日々を送ってるとかで」


「え、何それ超うらやましい」


「だよなぁ、うらまやしい」


「えっ?」


「えっ?」


 俺の言葉に、三人目の男……あー、えっと、マックが同意の言葉を、ジョンとエディからは謎の反応が返ってくる。


「フォクシールって、獣人とはいっても、ほぼキツネだよ? 耳と尻尾だけみたいのと違って、かなり濃い血の種族なんだけど……」


「いいだろ。素晴らしいじゃないかキツネ。全身モッフモフじゃん」


「同士よ。お前とは美味い酒が飲めそうだ……だが、モコリーヌちゃんは俺の嫁だから絶対手を出すなよ」


「え、お前フォクシールと結婚してるの?」


「あ、いや、嫁になる予定っていうか、そうなったらいいなっていうか……」


 途端に、マックが言葉に詰まる。わかりやすい奴だ。こういう奴の方が、馬鹿話をするにはちょうどいい。


「ああ、俺も行きてぇなぁ、魔王キツネ村……」


 いつの間にか空になっていたジョッキを見つめ、しみじみと呟く。


「いいなぁ……モフモフ……」


 その呟きは、酒場の喧噪の中に溶けていった。








 そこは、魔王キツネ村。誰もが……いや、一部特定の者達が、血の涙を流すほど羨む、この世の狭間の理想郷。勿論一般客もウェルカムであり、可愛らしいフォクシール達のおもてなしは、女性客にも大好評である。

 見た目は普通なのに、何故かやたらと美味しい食事とお酒。体も蕩けるような秘伝のマッサージに、地面に埋まるだけなのに、肩こりが治り肌がツヤツヤになる土風呂。

 他では味わえない素晴らしいサービス満載の、癒しの空間、くつろぎのテーマパーク。かつて名も無きフォクシールが望んだ、小さく大きな夢の城。


 巻きひげ髑髏とその家族達は、貴方のご来村を、お待ちしております。

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