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我が輩は骨である  作者: 日之浦 拓


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Bone to Born

 目が覚める。辺りを見回す。太陽の位置は、眠る前と変わらない。骨の記憶も変わらない。そう、忘れてなどいないのだ。奴の最後の呟きまで、この胸にしっかりと残っている。


「不器用な奴であるな……まあ、私なのだからさもありなんであるが」


 褒めれば自画自賛、けなせば自暴自棄。何ともやっかいな相手ではあるが、強いて言うなら、割り切りの足りない奴であった。

 私よりずっと苦労して、いろんな決断を下しているはずなのに、私よりずっと色々なものを引き摺っている気がした。


「悩んだところで、この頭蓋骨はスッカラカンなのである。それに気づけば、もう少し……いや、それこそ奴の言う未練であるな」


 頭を振り、気を取り直して、私は立ち上がる。私と俺の、初めての共同作業の成果物、それを使うためである。


「モコモコよ、ちょっと良いか?」


「あ、はい。何でしょう?」


 薬草の世話を……薬草類だけはそれなりに手を入れている……していたモコモコを呼ぶと、私はその手を取り、この『庭』の中央部分に立つ。


「今から、お前に魔法を使いたい」


「魔法、ですか? どんな?」


「妊娠魔法だ」


「…………は?」


 結構な間を開けて、モコモコが未だかつて見たことの無い表情をする。そこそこ付き合いはあると思っていたが、完全に所見のあんぐり顔である。


「正確には、私の魂に刻まれている命の螺旋の情報を、お前の腹の中にある卵に直接刻み込み、そのうえで魔力にて活性化することで妊娠させるという魔法なのであるが……」


「え、あ、ちょ、ちょっと待ってください。理解が全く及ばないのですが……卵ですか? え、私は卵とか産まないですけど……」


「あー、まあ、要は使った相手に自分の子供を妊娠させる魔法である。私がアンデッドゆえ、身体的な特徴は一切引きつがないようにしてあるが、それ以外……根源的な魂の部分において、それは間違いなく、私とお前の子供となる」


「えーっと、つまり……産まれてくる子はフォクシールになるけど、間違いなくボーン様の子供である、と?」


「まあそんな感じであるな」


「子供……ボーン様との子供…………」


 同じ単語を幾度も繰り返しながら、モコモコがうつむいて、顔を手で覆う。


 嫌だったのか? などという愚かな質問などしない。この手の場面でそんなことを聞くようなヘニャホネ野郎は、そもそもこういうことを言うべきではないのである。


 私はモコモコの手を取り、顔をあげさせる。涙で濡れた瞳を見つめ、その口にそっと唇……は無いので、前歯を当てる。


「モコモコよ。私の子を産んでくれ」


「……はい。ボーン様……」


 泣きながら、笑いながら、モコモコは頷いて、私に抱きついてきた。私もそれを抱きしめ返し、しばらくしてから、手を離す。


「では、魔法を使う。良いな?」


「はい。覚悟は……あ、何かこう、準備とか心構えとか、そういうのが必要なことがあるんでしょうか?」


「うむ? 特にないとは思うが……まあ大丈夫であろう」


 口調は軽いが、効果は絶対である。何せ英雄神たる私の保証……あ、何だかちょっと不安になってきたのである……いやいや、ここはいくべきであろう。今をおいて、自分などというものを確信する時は無いのである。


「『其は螺旋。其は流転。流され、呼ばれ、導かれ、この地へと降り立つ 命の軌跡』」


 詠唱に伴い、骨の体が翠色に輝く。大地に埋め込んだ緑玉からも、翠の光の柱が次々と立ち上っていく。


「『其は希望。其は非望。あり得ぬこと、在りえぬ者を、この地へと繋ぐ 命の奇跡』」


 詠唱は続く。翠の光が大地に溢れ、世界の全てを覆い尽くしていく。


「綺麗……」


「ふぁー…」


 モコモコと、いつの間にかやってきていたケモ子の口から、感嘆が漏れる。この光景を見て感動しない者など、ちょっと思いつかないくらいなので、当然ではあるだろうが。


「『現れ出でよ 産まれ出でよ 世界は汝を祝福する』」


 私は上げていた手を下ろし、その場に膝を突くと、そっと両手をモコモコの腹に当てる。


「『生誕(ボーン)』」


 最後の言霊を刻んだその時、周囲に満ちた全ての翠が、螺旋を巻いてモコモコの腹に吸い込まれていく。轟々という音が聞こえそうなくらいの勢いで、目も眩むばかりの翠が迸り、そして……


「くあっ!?」


「モコモコ!?」


 全ての光がモコモコの腹に収まった時、その口から、苦しそうな声が漏れた。


「ど、どうした!? 大丈夫か!?」


「ボーン様、これは……」


 モコモコの息が荒い。目はうつろで、顔も赤い。


 失敗した!? まさか、そんな!?


 焦りが頭を満たす。詠唱は完璧だった。発動にも問題なかった。流石に実験することはできなかったから、最終確認はできなかったが、それでも全てが完璧だと、英雄神(クロ)からお墨付きを貰っていた。これで失敗するなど、リンゴが下から上に落ちるくらいの確立だと。


 だが、それでも目の前には、苦しむモコモコがいる。息をハァハァと荒げて、潤んだ瞳で見つめてくる……?


「駄目です。ボーン様。我慢できません」


「も、モコモコ? どうしたのだ?


「おそらく、魔法の副作用です。あまりに強力な結果の発生に、そこに至るための過程を、体が求めているんだと思います」


「つ、つまり?」


「ごめんなさい、ボーン様」


 モコモコに、押し倒される。その瞳には、軽い狂気すら浮かんでいるような気がする……というか、これは完全に獲物を見る目である。そして、骨は既にマウントポジションを取られている。始まる前から終わっている、孔明さんも真っ青の知将っぷりである。


「蹂躙します。お覚悟を」


「や、優しくね!?」


 それを最後に、モコモコは獣となった。それは正しく、獣であった。そしてその姿を、ケモ子はらんらんと目を輝かせて見続けていた。

 前の性教育の時にも思っていた。骨を責めるテクニックとか、そんなの私以外に生かしようが無いよね? こんなものを学んで、学ばせて、ケモ子は何処に向かうというのであろうか?


 いや、ケモ子の心配より、今は骨の心配である。何かミシミシ言ってるし、ガジガジされてるところがちょっとだけ削れてる気さえする。


 ああ、あれ、これ本当に食べられる? 本来の意味でも食べられちゃう? 別に再生はできるけど、そういう猟奇的なプレイは骨的にノーサンキューなのですが?


 化鳥の様な悲鳴が、森の広場に響き渡る。骨が開放されるのは、およそ36時間後の事であった。

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