夢幻の英雄
「あー、今日も頑張ったであるな」
王との会合も終え、骨はつかの間の休息に身をゆだねていた。ここ最近は、やたらと忙しかったのだ。
お忍びとはいえ、流石に王が来るとなると、格式やら何やらで、面倒なことが沢山あった。正直先に公爵と打ち合わせをしてなかったら、途中で「やっぱり辞めるのである」とか思わず言ってしまった可能性が無きにしも非ずである。
豪華な椅子とか天幕とか、色々と運び込んでセットして、やっと話をしたと思ったらまた片付けて……と、色々とてんてこ舞いであった。別に骨が何かをするわけではなく、作業は全てやってきた兵士達がやっていたのだが、何というかまあ、気疲れというやつである。
そうして訪れた、久しぶりの平穏。骨はゆっくりと草原に寝そべり、いつかそうしたようにぼーっと空を眺めて……
「……何処であるか?」
気づいたら、何だか真っ白な感じの場所にいた。
「おーい、こっちこっち」
聞き覚えのあるような無いような、微妙な声に振り返ると、目の前には、やたらごつい鎧が立っていた。
「おう、久しぶりー……てのも違うか。あー、何て言えばいいんだ? お帰り? いや、むしろただいま? うーん……」
「いや、ちょっと待つである。お前は一体誰であるか?」
やや乱暴な言葉遣いだが、こいつが私を拉致したのなら、問題ないだろう。
……問題ない? こんな見るからに戦闘能力高そうな相手に、乱暴な口をきくのが? うーん?
「ああ、そうかそうか。これ着てちゃわからないか。じゃ、ちょっと待ってな。
『武装具現化・解除』」
そいつがそう口にすると、ごつい鎧がピカッと光り、そのまま光の粒子となって空間に溶けていく。え、何それカッコイイ。
そして、そんなカッコイイ演出で出てきた鎧の中身は……骨であった。黒くも無ければ赤くもなく、強いて言うならちょっとくすんできたかな? くらいの微妙な黒っぽさを演出した、ほぼ白い骨である。
「えぇー……」
「えっ、何で俺がっかりされてるの? 意味わかんないんだけど」
「いや、何というか、イメージ的にこう、光沢のある黒、みたいなのがあったのである……」
「そんなこと言われてもなぁ。それもできるっちゃできるけど、あれ結構疲れるから、日常生活で維持なんてしないぞ」
あ、できるんだ。何それカッコイイ(2回目)
「まあいいや。そんな余計なことを話してる時間は……別にいくらでもあるけど、まああれだ。今日はお前に、お別れを言いにきたんだ」
「お別れ、であるか?」
首を傾げる骨を前に、微黒な髑髏は軽い口調で、こう告げた。
「ああ、今日この時が、お前の最後だ」




