骨、企む
「え? 王様が来るのであるか? ここに? え、本当に?」
先触れの兵が告げたその事実に、骨の顎がカクンとなる。
「はい。つきましては、王がこちらに滞在されるに相応しいように、場を整えさせていただけないかと思いまして」
そして、何故か伝令兵のように伝言を持ってきた、友人であるビート公爵。
「整えると言われても、あまり大規模な工事などをされては、流石に困るのであるが……」
正直、王を歓待するなどと言った発言は、社交辞令みたいなものであった。いくら何でも、こんな何も無い場所に、一国の王が来るとは思わなかったのだ。
「というか、そもそもどうやってここまで来るのであるか? 流石に森の中を馬車で走るなどということはできないであろうし……」
「ああ、それに関しては、王国宮廷魔道師であるエドマ・エグリジス殿に、空間魔法を使っていただくことになっておりますので」
「おお、空間魔法! それは是非とも話を聞きたいであるな」
骨の食いつきの良さに、公爵の眉がぴくりと動く。
「でしたら、エグリジス様も一緒に、こちらにお招きしても宜しいでしょうか? 王とエグリジス様はかつての生徒と師ということで、関係も大変良いですし」
「うむうむ。構わんよ。ふむ、そういうことであれば……」
「……ボーン様?」
突然考え込んだ骨に、多少の間をおいてから、気を遣いつつ声をかけてくる。
「以前にもちらっとだけ話したと思うのだが、実はちょっとした計画があるのだ。超長期的に見ている故、急ぐ必要は無いと思っていたのだが……それだけの人材が揃うのであれば、ここで検討してみるのも一興であろう」
「それは……詳細をお聞きしても?」
「勿論、良いである。悪い顔で『聞いたからには受けてもらう』などと言うような内容でもないので、安心して聞くが良い。実はな……」
そうして、骨が夢を語る。これから何十年、何百年もかけての完遂を目指す、遠大で壮大な、夢と浪漫の物語。
「どうだ? これの協力を飲むなら、ある程度なら周囲の開拓も許可するのであるが?」
「流石にこの規模になってしまうと、私の一存ではちょっと……」
「まあ、そうであろうな。故に、王と宮廷魔術師殿に会ったなら、話をしてみようかと思ったのだ。駄目なら駄目でも別に良いし、乗ってくれるなら……貴殿も含めた全員が、歴史に名を残すことになるであろうな」
イメージのみの骨ニヤリに、公爵の眉がピクピク反応する。今の公爵は、かなりわかりやすい感じである。ぶっちゃけちょっとチョロすぎて心配になるくらいである。
「それは……っ! 正直、ビート家そのものの栄達は望んでも、私自身の出世にはあまり興味が無かったと思っていたのですが……手の届く場所にそれをぶら下げられると、心が揺れますな」
「であろう? ならば……」
「話してみる価値は、十分にあるかと」
心の中では二人だが、現実的には一人だけ、悪い感じの笑みを浮かべる公爵。計画には悪意など欠片も無いのだが、ただの雰囲気だけである。
そして友は語り明かし、夢への一歩は踏み出される。今初めて、世界の歴史が動き始めた。見知らぬ誰かの意図ではなく、ただの骨、その人の意思のみで。




