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我が輩は骨である  作者: 日之浦 拓


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閑話:骨の記憶

「わかった。では、それはそのように処理しよう」


「ええ、お願い致します」


 憑き物の落ちたような、スッキリした顔立ちになった将軍に、未だに多少の違和感を感じつつ、ビート公爵が会釈する。


「ふむ。オルトランド将軍は、随分と印象が変わったな」


「そうですのぅ。以前にあった険の部分が、綺麗に無くなっておるように感じますな。さりとて芯の部分は全くぶれていない。これほど見事に折ってくれるとは、やはりボーン殿に全てを任せて正解じゃったな」


「まるで全てが計算済みだったような言い方だが、実際には我らは何もしなかっただけではないか?」


「いやいや、『何もしない』ことを選んだのじゃから、この結果はまさに陛下の英断の賜物でありましょうて」


「ふっ。物は言い様だな」


 軽く笑って、王は答える。実際、将軍が戻ってきた時間を考えれば、兵を出したところでとても間に合わなかったのはわかる。また、死者が一人も出なかったというのも驚きであった。ボーンと名乗るスケルトンを倒せるとはとても思えなかったが、彼の妻であるフォクシールや、あるいは将軍自身などは、犠牲になる可能性は決して低くなかった。もし王が兵を用いて対応するのであれば、死者こそさけられたとしても、それなりの数の負傷者が兵士に出たであろう。


 実際にはフォクシールの奥方には大きな怪我を負わせてしまったというが、慌てて見舞いに行ったビート公爵の話では、何事も無かったかのように治っていたという。


「にしても、ボーン殿の力は、本当に底がしれんな。部位欠損を完全に治す回復魔法を、アンデッドであるスケルトンが使うとは……」


「ふぁっふぁっふぁっ。それはもう、考えるだけ無駄でしょうな。これは公爵も意図して伝えておらなんだと思うことですが……先日見舞いに行った公爵が、機会を得てボーン殿に聞いたことがあるのですじゃ。『貴方が持つ、一番古い知識はどのようなものであるでしょうか?』と。

 奴は何と答えたと思う?」


 にやりと笑う老人に、王は頭をひねって考える。


「『先生』がそう言うのであれば、随分と面白い答えなのだろうが……ふむ」


 王国の歴史は、せいぜい400年程度である。世界の歴史としては、確実に残っているのは1000年程度前までであろうか? 伝説や神話まで遡れば、あるいは数万年ということもあるのだろうが……


「そうだな、では5万年でどうだ? 最古の神話に、与太話程度の信憑性を加えるなら、その辺が確認できる最も古い知識だと思うが」


「おお、きちんと勉強しておるのぅ。感心なことじゃが……奴が口にしたのは、46億年じゃ」


「46……億年?」


 そんな年月は、おとぎ話ですらない。永遠を生きると言われる最古のエルフとて、そこまで長生きではないだろう。


「ホネの奴は言いおったそうじゃよ。『この世界、海や空や大地が生まれたのが、およそ46億年前。それが遡れる最古の記録である』とな。わかるか? 天地創造の瞬間を、あのホネは知っておると言ったのじゃ!

 それほどの英知を誇るものが、ぽっと出の英雄程度であるはずがない。そりゃ運命なんぞ蹴っ飛ばすじゃろ! あやつこそが、運命を動かすことすら出来るのかも知れん。儂らのような凡人がどれほど覗き込んだとて、底など見えはせんじゃろうよ」


 まるで数十年も若返ったかのような声で笑う老人に、王はむしろ吹っ切れたような表情を浮かべる。


「そうか、そう言う存在なのか……何だかもう、対策を考えるのが馬鹿の所行にしか思えなくなってきたな……」


 創造神の仕事ぶりを知っているような相手に、50年も生きていない自分のような人間が、何か出来ると思うことの方がおこがましい。


「ああ、そうだな。一度会いに行ってみるとしよう。予定と予算をつけて……」


 今まではあった遠慮や配慮が、王の中から霞と消え去る。王が『友人宅』に遊びに行くのは、それからしばらく後のこと……

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