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我が輩は骨である  作者: 日之浦 拓


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大収穫

 風呂上がりに新しいパンツを履いたときのような顔で、将軍は帰って行った。ああ、リックも勿論一緒に帰って行ったのである。別に忘れていたわけではないのである。骨の脳内には未処理のタスクがいっぱいで、ちょっと容量オーバーしていただけなのである。


「さて、ではモコモコよ。傷の具合を見せるのである」


「はい、ボーン様……」


 軽い感じで言う骨に、重い感じで答えるモコモコ。改めて良く見れば、左足の膝から下と、右腕の肘から先が、スッパリと切り落とされている。

 もしこれがちょっと前の骨であったら、怒り狂っていたことであろう。将軍への対応も、あんな穏便なものでは済まさなかったかも知れない。


 だが、今の骨は違うのである。生まれ変わったNEWボーンであり、マスターグレードどころかパーフェクトグレードな骨なのである。伊達に何度も地面から生えてないのである。


 地面に手を当て、ファイトを一発。ぽこっとあいた穴の中に、モコモコを抱きかかえていって寝かせる。


「よし、ではケモ子よ、モコモコに土をかけるのである」


「ホネ!?」


「あ、あの、ボーン様、私まだ生きてるのですけど……?」


「そうではないので、安心せよ。さあケモ子よ、埋めるのだ。あ、勿論首から上は出しておくのだぞ。窒息してしまうからな」


「ムー」


 何となく腑に落ちない顔をしながらも、ケモ子がざくざくと土をかけていく。勿論骨もコツコツと手伝い、あっという間にモコモコが、地面から生首状態になる。

「ではいくぞ。ぬぅーん…………おおぉ、他人は難しいのである……」


「え? あの、何か手足がむずむずするんですけど!?」


「ここを……こうで……こうかっ!」


「あっ、やっ!? はぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」


 恍惚の表情で、口からよだれを垂らして放心するモコモコ。ああ、これはまた駄目な奴である。あとで絶対怒られる奴である。もしくは襲われる奴である。どっちにしろ骨がカクカクしてしまうのである。


「これで大丈夫なはず……よし、ケモ子よ掘り出すのだ」


「ホネー!」


 今度は元気に答えて、ケモ子がモコモコを掘り出していく。ちなみに、ここで魔力でぽこっと穴を開けないのは、万が一にもモコモコに危害を加えないためである。効率よりもセイフティーなのである。


「はぁ、はぁ……あの、ボーンさ、ま……?」


 穴から抜け出し、すぐに気づく。まあそもそも気づいていたであろうが、改めてその目で確認し、ワキワキ動かしている。


「治ってる……いや、生えてる……? ボーン様、これは……?」


「ふっふっふ。これぞ私の新たな力! 骨式回復魔法、大地の恵みヴァージョンである!」


 説明しよう! 骨式回復魔法、大地の恵みヴァージョンとは、地面に埋めた相手に対して、強力な回復魔法の効果を発動するものである。

 要は、薬草などに付与していた回復の力を地面に付与することで、それに包まれた対象に回復魔法の効果を与えるということであり、ほぼ全身が媒介である地面に埋もれている状態であれば、その生物が生来持っている魔力の巡りを活性化させつつ、その流れに回復効果を載せることができるので、こうして欠損部位の再生すら可能とした、まさに究極の回復魔法なのである!

 ちなみに、使えるのは当然、緑玉が大量に埋まっているこの辺の地面でだけなので、お出かけの際には全く役に立たないのである。

 事前に用意も出来て持ち運べる特製回復薬と、場所限定だが強力な回復能力がある大地の恵みと、使い分けると便利なのである。


「……というわけなのだ。どうだ、凄いであろう?」


「ええ、掛け値無しに凄いと思いますけど……ボーン様は、何を目指してらっしゃるんでしょうか……」


「うむ。以前にもちょっとだけ話したが、今私が考えている計画に、この地の魔力を存分に生かすつもりでいるからな。魔力操作の練習は、実はコツコツやってきているのである」


「ああ、そうなんですね。そういうことでしたら、完全に納得です」


 うむ。骨が回復魔法を使うことは、もう問題ではないのであろう。モコモコのスルー力検定も、大分段位が上がったのである。


 ちなみに、骨ボディの超速再生に関しては、ちょっと仕組みが違う。当然であり今更であり、そして未だにでもあるが、アンデッドである私には、回復魔法は猛毒である。が、魔力そのものは普通に内在しているので問題ない。それを踏まえたうえで、今回は体の再生に、しょんぼりな量の魔素ではなく、馬鹿みたいに大量にある魔力を使った、種を明かせばただそれだけのことである。


 そう、私は気づいたのだ。アンデッドたるスケルトンは、白骨を魔素で動かしているのである。魔素は動かすのに必要なだけで、白骨を生成するのは、別に魔力でもいいのである。当然普通はそんなことは出来ないのだが、この畑には私の骨粉を蒔いてあり、大地にも骨体にも、大量の緑玉が埋められており、それが全て自身の体として認識できるように繋げる訓練を繰り返してきた、という奇跡のトリプルコンボにより、大地からマイボーンボディーを生成できるようになっていたのだ。


 しかも、本来のスケルトンの死因……頭部を潰される時、一緒に視覚や聴覚なども潰されてしまい、それらの再生にこそ多大な魔素を消費するため、魔素不足で死ぬ……というのも、正確な場所ではなくても、体が触れてさえいればある程度意識や感覚を繋げることができる、という宴会芸を利用し、かつ大地が全部自分であるというやけくそ気味な認識をいかして、実は最初に潰されてから、頭部だけ離れた別の場所で再生しておいたのだ。

 もしこれが漫画であったなら、骨がいる全てのコマの隅っこに、ミクロな頭蓋骨が間違い探しのように描写されていたことだろう。本体にくっついている頭蓋骨に意識を戻したのは、「大地があるかぎり、私が滅びることはない!」と、ここぞとばかりにドヤスカルを決めたときである。視覚や聴覚は魔素でしか再生できないので、実はあの時頭を壊されたら、割と深刻にやばかったのである。

 ああ、当然であるが、この再生方法もこの洞窟前広場と花畑でしか使えないのである。1エリアだけの王国無双である。


 それにしても、まさかの伏線全回収である。あれだけ不評であった骨体変態が命を繋ぐ秘密の一端となろうとは、流石の骨も驚きである。クリビツテンギョーイタオドロである。人生何が役に立つかわからないのである。いや本当に。


 ああ、これで本当に終わりである。何かもう日々が濃すぎるのである。当初予定していたゆるふわ骨ライフが、全く送れている気がしないのである。


「ふぅ。ではモコモコよ。少し付き合ってくれるか?」


「はい。どちらにでしょうか?」


「それは無論、洞窟にである」


「洞窟、ですか? 一体何を?」


「それこそ勿論……ぬっ、高さ的に手が届かぬ……くぬぅ!」


 もの凄い必死かつ微妙な体制を取ることで、ぎりぎり立ったままの骨の手が、モコモコの尻を撫でる。


「ひゃっ!? あの、ボーン様?」


「戦い終わったら、男はそういうものなのである。モコモコは新しい手足の具合を試し、私は生えかわった……植物のような気になってくるのだが……とにかく、新しい私の体を試してみるのには、それが一番良いのではないか?」


「あ、はい、そう……ですね。私も……ケモコ?」


「ムー」


 いつもなら、こういう空気を察して元気よく走り去っていく、察しの良いお嬢さんであるケモ子が、今日は何やら不機嫌な表情で、骨達の前に立ちはだかる。


「アー! アー!」


「えっ、一緒に!?」


「ファッ!?」


 ケモ子の言葉にモコモコがびっくりし、モコモコの言葉に骨がびっくりする。


「アー! ホネー! ムー」


「うん。そう……そうね。それじゃ、ケモコもいらっしゃい」


「ハファッ!?」


 そしてそう言うモコモコに、骨の顎がカックリ落ちる。


「い、一緒に来るのであるか?」


「この子も命の危機に晒されてましたから、生存本能が刺激されてるんだと思います。それに、そろそろそう言う教育をしても良い年ですから、本人がやる気ならちょうど良いかと」


「いや、でも、え?」


「私もこのくらいの歳の頃に、父と母から教えられたんです。フォクシールは、単純な寿命こそ長いですけど、何というか、短命の人が多いので……種の保存に関わる重要なことですから、教える人がいなくなる前に、しっかりと伝えることになっているんです」


「お、おぅ。そうであるか」


 種族的な重い理由を聞かされると、もはや否とは言えない。モコモコを早死にさせる気は全く無いが、それでも今回だって、ギリギリであったことは間違いないのだ。教えられずとも本能で理解はするのだろうが、知性や感情を持つものが、本能だけでそのような行為を行ってしまったら、きっと悲しい事も起こったりするのだろう。


「うむ、では、行く、か?」


「ええ。参りましょう。ほら、ケモコも」


「ホネー!」


 モコモコの左手には、嬉しそうにはしゃぐケモ子。そして、新たに生え替わった右手には、骨の手が繋がれている。


 非の打ち所の無い一家団欒の風景が、これ以上無いほどの健全な空間である洞窟の奥へと、ゆっくりと消えていった。

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