骨の悩み
2017.3.13 改行位置修正
「あー、朝か……」
洞窟の出入り口から差し込んでくる光に、私は朝を感じ取る。昨日はあれから少しだけ近場を散策してみたのだが、何か猛烈にでっかいイノシシみたいなのが遠くを全力疾走していたのを見て、そのまま洞窟の中に引きこもっていたのだ。
いや、あれは駄目だろう。あんなのの突進を食らったら、全身の骨がバラバラになる未来しか予想できない。いや、バラバラになるならまだしも、ひょっとしたらカルシウム目当てに骨をガシガシ囓られたりするかも知れない。魅惑の骨ボディ、完全粉砕のお知らせである。
そのうえ、こっちは飲食を必要としない以上、仮にあのイノシシを倒せたとしても、得るものが何も無い。いや、皮とか牙とか、後は脂だって使い道はあるんだろうけど、今現在必要としていないうえに、加工する技術も道具もないのだから、どうすることもできない。
まさにハイリスクノーリターン。出会った瞬間全力エスケープ推奨のエネミーが存在しているのを見ちゃったら、いくら骨でも思わず洞窟に引きこもってしまうくらい仕方の無いことだと言えるだろう。
とはいえ、このまま永遠に洞窟暮らしという訳にもいかない。正確にはそれ自体は可能だと思われるが、そんな骨生など退屈どころか拷問である。であればどうすれば良いのか?
まず思いつくのは、自己の強化である。密林だけに忌諱剤的なものをプライム速度でお届けしてくれるなら一も二も無く飛びつくところであるが、そんなものは存在しないし、そもそも自分で考えていることなのに半分以上意味が分からないという謎思考を放置すれば、奴を倒す以外に平穏を得る手段は無い。
であれば、どうやって奴を倒すのか。罠を使ったり森に生えているであろう毒物を用いるなどの方法は思いつくが、そのどれを実行するにしても結局は森に踏み入る必要があり、そのために必要最低限の自己強化は必要だという結論になる。
なので自己強化である……が、ここで再び問題が発生する。即ち、「どうやったら強くなれるのか?」という根本的な問題である。
肉のある身であったなら、筋トレなり何なりをすれば少なくとも腕力はついたであろう。が、この身は骨である。ボーンであり、スケルトンである。どれだけ腕立て腹筋をしようと、力こぶも出来なければシックスパックに骨が割れたりもしない。
要するに、私が強くなるには、骨そのものを丈夫にするか、骨を動かしている不思議パワーを高める必要があるのだと思われるのだが……ここで振り出しに戻ってしまう。不思議パワーを強くする不思議トレーニングなど、それこそまさに皆目見当も付かないからだ。
骨を丈夫にするなら、牛乳を飲めば……こんなところに牛乳なんてないだろう。では、蝸牛みたいな殻の付いている虫を食べてみる? いやそれは流石に……そもそも飲食できないではないか……
「どうしよう……」
生まれて2日目なんて、どんな生き物だろうと成長真っ盛りであろいうというのに、骨の身故に既に詰み。未来を悲観し途方に暮れるとは、流石に予想外である。
「どうしたもんかなぁ……ハァ」
吸ってもいないのに漏れ出るため息に、骨の未来はまさに真っ白であった。