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我が輩は骨である  作者: 日之浦 拓


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閑話:刻を動かす報告

2017.3.13 改行位置修正

「それでは、報告を初めよ」


 重苦しい声に促され、男は顔を上げ、それでも一瞬、言葉に詰まる。

 求められるのは事実。自分の見たこと聞いたことを、一言一句違えること無く伝えることだけが、その男に求められていることの全て。


 だからこそ迷う。果たして自分の語ることが、事実として受け入れられるのか否か。判断するのは、自分では無い。故に判断を誤れば、自分の首など簡単に飛ぶであろう。職務的にも、物理的にも。


 だが、検討の余地などない。ただありのままを語るしかないのだ。それがどれだけ荒唐無稽で、巫山戯ているのかと罵られるような内容であっても。


 ゆっくりと、大きく息を吸って、吐く。己が使命を果たすため、口を開く。


「それでは、報告させていただきます」



 ※※※


 始まりは、小さな噂であった。北の山脈付近にある森で、大量の妖精が一度に確認されたというものだ。

 情報の確度は中。確実とは言わないが、全くの与太話などではないという判断。それは、そこそこの腕の諜報員を一人派遣する程度のことではあった。


 なにせ、妖精は資源である。市井の錬金術師ではその場で絞って終わりだが、国家が絡むなら話は別だ。街や村など人の集まる場所で密かに匿い、死なない程度に緩やかに魔力を絞れば、10年近くの間良質の妖精玉を継続して入手することができる。保存や運搬が楽で、割れば即座に魔力回復効果を発揮する妖精玉は、軍事物資としてとても有用なのだ。


 冒険者を装い、森に潜入して3日。男は遂に、大量の妖精が生息している場所を発見した。だが、それは男の予想を遙かに超えて意味不明な場所であった。


 まず、植生だ。多種多様な花が、あり得ない密度で生えている。自然では絶対にこうならないし、誰かが咲いている草花を集めてこの状態に植え直したなら、どれほどの人数が、どれだけの労力をかければできるのか、想像も付かない。仮にこれと同じ物を作れば妖精が発生するのだとわかっていても、実行はされないだろう。

 そのくらい、作成や維持のコストが度外視された光景だった。


 次に目に付いたのが、キツネだった。最初はただの野生のキツネが、妖精とじゃれ合っているのかと思ったが、驚いたことに、そのキツネは声のようなものを発すると、その足で立ち上がったのだ。

 ここで男は、フォクシールという存在を思い出した。傾国の毒婦、魂を弄ぶ暗殺者。フォクシールがいかに邪悪で凶悪な(ケダモノ)であるかを、男は諜報員としてしっかりと教育されていた。


 さらに観察を続ける。そこにいたのは、もう一匹のフォクシール。先ほどの子ギツネと違って、しっかりとした言語を操っており、それを聞く限りでは、この子ギツネの母親のようであった。

 これは、とても危険な兆候だ。母と子がいるなら、父親もいる可能性が高い。そしてそれは、この危険な獣がここで増える可能性があるということ。


 この時点で引き返しても、討伐対の編成を上申することは十分可能だったが、男はより精度の高い情報を求め、観察を続ける。そして、見つけてしまった。


(スケルトン! それもこんな昼間に!?)


 叫びそうになるのを押さえるのが、精一杯だった。思わず体が震えてガサリと音を立ててしまったが、幸いにも誰にも気づかれなかったらしい。男はそのまま、観察を続けることにした。


 男は、諜報員としてはそこそこの存在であった。決して特別ではなく、替えがきかないスペシャリストではない。だが、使い捨てにされるほど安い存在でもない。故に、自衛のための戦闘能力もちょっとした冒険者くらいにはあったし、魔物の知識というなら、小さな村なら教師を務められるくらいまで詰め込まれていた。


 だからこそ驚く。普通のスケルトンが、太陽の下で存在できるはずがない。

 奥に見える洞窟の中から、外の様子をうかがっていたというなら、まだわかる。だが、そいつは光を遮る物が何も無い、小さな原っぱの中央で、平然と座っていたのだ。


 最初、男はそれを、人間の白骨死体だと思った。この骨になった人物を、妖精やフォクシールが守っているのではないかと。そういうことなら、ここに希少な存在が集まっていることも、一応納得出来る。

 だが、その骨は動き、あまつさえ母フォクシールと会話さえしていた。その喋りはあまりにも流暢であり、さらに会話の内容は、高い知性や理性、精神性などを感じさせた。


 あり得ない。何もかもがあり得ない。常識を知るが故に、その常識からあまりにも逸脱しすぎているものに、理解が及ばない。ただ唯一わかることは、この場にこれ以上留まることは避けるべきだという、動物的な本能だ。


 勘や本能というものを侮る輩はいるが、男は違った。そこに至る知識や経験が、言葉には出来ないほど小さな何かを拾ったとき、それをもって勘や本能と呼ぶのだということを、きちんと学んでいたからだ。


 ※※※



「そうして私は帰還に成功し、ここにいるということをご報告させて頂きます」


 男の報告に、場は静まりかえっていた。誰もが耳を疑い、そんな馬鹿なことがあるわけがない、だがこの男が、命を賭けてこんな無茶苦茶な嘘をつくはずがない。そんな矛盾する考えに、誰もが口を開けずにいた。


「ふーむ。嘘とは言わんが、にわかには信じがたい話では、あるかのぅ」


 そんな空気を完全に無視するように、いっそ暢気ともとれるような口調で、老人が口を開く。


「ならはどうすると? さらなる確認のために、もっと腕の立つ諜報員を、複数人送りますかね?」


 年相応に腹の出た、中年の男が問う。


「何を悠長なことを! フォクシールなどという(ケダモノ)がいるのだぞ! 殲滅だ! 今すぐ軍を編成し、殲滅するべきである!」


 煌びやかな鎧に身を包み、警備の近衛を除けば、この場で唯一帯剣を許された男が、大声でそう主張する。


「どんな力を持っているかわからぬ、そもそも敵かどうか、立ち位置すらわからぬ相手に、いきなり軍を向けるなど出来るわけが無いだろう」


「甘い! 甘すぎる! 魔物と害獣が共にある姿を確認して、立ち位置も何もあるか! しかも、竜種や魔人種ならまだしも、相手はスケルトンだぞ! そんなものに後れを取る弱卒など、我が部下には一人もいない!」


「まあ待たんか。殺すだけならいつでもできよう。重要なのは、情報を集めることじゃ。未知を既知と変え、糧と出来るならば、それは百の勇士を得ることに等しいのじゃぞ?」


「害獣どもと戦う知識は、十分に要している! それとも貴様、あの害獣の怪しげな術を我が物とし、この国を乗っ取ろうとでも画策しているのか?」


「静まれ!」


 言い争いを続けようとする3人を、ただ一声が押し止める。それに異を唱える者など、その場に一人もいない。価値観も考え方も違うが、その全員が、真に国を愛しているが故に。


「ビート公爵。近衛を数名護衛につける故、その魔物たちのところへ出向いてくれぬか?」


「…………私が向かう理由をお聞きしても?」


「貴様! 陛下の命を!」


「良い、オルトランド。諜報員を送っても、今より多くの情報を得られる可能性は低い。先の報告を聞く限り、相手は高い知能を有している。そんな相手をこそこそ見張ったところで、単に心証を悪くするだけであろう。

 だが、言葉を話すというのであれば、それは交渉ができるということ。少なくとも会話が成り立つなら、相手の人となりを見極め、必要な情報を引き出し、そしていざとなれば、その場で討ち取るなり、一端引くなりすれば良い。知りさえすれば対応は検討できる。

 軍を連れては交渉が成り立たぬ。宮廷魔術師たるエドマでは、相手の警戒心を買いすぎる。そして、木っ端の役人では、得体の知れぬ相手と交渉などできようはずもない。故に貴殿だ。まだ質問があるか?」


「いえ。全ては陛下の御心のままに」


 答えて、公爵と呼ばれた男が、恭しく頭を下げる。それに合わせて、その場に居合わせた全ての者も、同様に頭を下げる。


 世界の片隅で、今再び、歴史が時を刻んだ。

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