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我が輩は骨である  作者: 日之浦 拓


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大失敗

2017.3.13 改行位置修正

「ふぅ。良い仕事をしたのである」


 何となく気分的に、額の汗をぬぐう動作をしてから、骨は満足げに腰に下げた成果物に手をやる。


 今日やっていたのも、白蜜草の蜜の採取である。流石にケモ子一人で消費した量の花蜜を集めさせるのは無体なので、こうして骨も手伝っていたわけである。

 幸いにして今のところ花蜜の再収集が可能になる期間が延びたりはしていないので、それほど苦労することなく集めることはできた。モコモコの機嫌もとっくに直っているし、妖精達もあの日以来特に花蜜に興味を示してはいないので、十分な量の在庫は、これでだいたい確保できたことになる。


 ちなみに、保管方法に関しては、モコモコが草やら木の枝やらを組み合わせて、厳重な感じの何かを行っていた。「フォクシールの秘伝です」と言っていたが、花蜜の保管に本気の秘伝を使うのは……いや、言わぬが花である。2度あることは3度あり、同じ轍を踏んだりはしないのである。


「お疲れ様です。ボーン様」


「うむ。頑張ったであるぞモコモコよ」


 つい最近も同じことがあった気がするが、よく考えると別に特別でも何でも無いやりとりなので、そりゃそうだろうと納得する。


「これで花蜜の方は、もう当分大丈夫であろう。あとは……あれをどうするか」


 視線の先にあるのは、妖精達が花蜜と引き替えに生み出した、謎の緑色のガラス玉。たぶん貴重品なのではないかと思うのだが、数百個はあろうかという量で、無造作に地面に積んであるため、骨的には綺麗な石ころくらいの感じである。


「どうしましょうか。おそらく魔力が込められたものだと思うのですが」


「フォクシールは、魔力や魔素が臭いで見えるのではなかったか?」


「ああ、それは、生物限定なんです。物の中に留まって動かない魔力の臭いとなると、本当に何となく……魔力があるな、くらいしか」


「そうか……ん? それなら、私の中に埋め込まれた分は見えるのではないか?」


 気づいて問う私に、モコモコは微妙に眉をひそめる。


「ええ、それはわかりますけど」


「……何か悪いものなのか?」


「そういうんじゃないんです。そうではなくて……何というか、うにょうにょしてる感じなんです」


「……うにょうにょ?」


「はい。こう……元からあるボーン様の魔力の線に、太い蔓草の様にうにょっと巻き付いて来ているというか……」


「あー、何となくイメージはできるな」


「見た目からわかる効果としては、元の線を補強する感じになると思うので、悪いことは全く無いと思うんですけど……うにょうにょしてるので……」


「うにょうにょであるか……」


 うにょうにょでは、仕方あるまい。骨の蔓草プレイとか、ニッチすぎて市場開拓は不可能であろう。努力が限界を突破してなお、そこに見いだせる活路はないのである。


「ふむ。そう言う感じであるなら……いっそ畑に埋めてみるか?」


 植物っぽい感じがするなら、土に埋めたら何かが生えるのではないか? そんな予感からアイディアを出す。


「埋めるんですか? まあ、それで溶けて無くなったりしたとしても、出所が妖精であることを考えれば、悪いことにはならないでしょうし……ああ、案外悪くないかも知れませんね」


 骨のナイスな提案に、モコモコも賛同してくれる。遊んでいたケモ子も自ら手伝いをしてくれて、3人で花畑やら草原広場やらに、適当に玉を埋めていく。


「ふむ。だいたいこんな感じであろうか」


「ボーン様。埋め終わりました」


「ホネー!」


 程なくして、全員が作業を完了し、洞窟前草原広場へと集結する。


「ふーむ。特に何か変わるわけでも無さそうであるな」


「そうですね。まあ、もともと地面に山積みにされていたものですから、そんなものだと言ってしまえば、そうなんでしょうけど」


「あー、まあそれはそうであるな」


「ホネー?」


「大丈夫だぞケモ子よ。別に何かに失敗したとか、そういうことではないからな」


 ケモ子を撫でつつ、考えを巡らせる。


 今の状態は、地中に点としてのガラス玉が、バラバラに埋まっているだけの状態である。となれば、点と点を繋いでやる? ああ、そう考えると、この骨の体と近い構成になるのであろうか? であれば、この玉ネットワークに魔力を通してやれば、自分の体のように動かせる?


「…………やってみるか…………」


 呟き、地面に手を当てる。普段は光や音を認識している感覚まで総動員して、地中に埋めた玉の魔力を感知する。


 うむ。あるな……ならば、これを繋げて……うぉ、力の流れがうにょうにょしていて、真っ直ぐ結べない……ここで曲げて……これで……どう、だ?


 ガッシリと、手を繋ぐ感覚。骨の中のうにょうにょと、一番近くの地中にあった玉のうにょうにょが、しっかりと絡まり合って、繋がったのがわかる。

 ならば、あとはこれを足がかりに、地中にある全ての玉と、うにょうにょネットワークを結ぶのみ。


 それは、今までで一番の難易度であった。もし最初がこれであったら、おそらく何も出来ずに諦めることしか出来なかったであろう。

 だが、やった。やりとげた。やたらとグネグネする力と力を結びつけ、どうにかこうにか、地中全ての緑玉を繋げ、その全てを把握する。


 だが、ここからが本番。繋いだ全てを、自分の体として認識する。そうすれば、このそれなりに広大な土地を、自分の思うままに動かすことが……


「…………できないであるな」


「あの、ボーン様。結局何がどうなったんでしょうか?」


 静かに見守っていたモコモコが声を出し、骨は自分が何をしたのかを説明する。


「あの……そもそも基本的なこととして、ボーン様の骨の体を動かしているのは、魔素であって魔力ではありません。力の流れる方向が完全に逆なので、それで体を動かす、ましてや大地なんてものに干渉するのは、流石に無理かと……」


「……ああ、そう言えば、そうであったな」


 最近は魔力ばっかり扱っていたので、正直完全に忘れていたが、私は一片の疑う余地もない完全な魔物たるスケルトンであり、この体は魔素によって保たれているのであった。そして、力が逆となれば、単純に右が左、上が下になるようなものですら混乱の極みであろうし、実際にはそれより遙かに複雑で繊細な処理をしなければ体など動かせないのだから、ただ動かすだけでも、膨大な訓練が必要なのは当然であろう。


「となると、これは繋げただけで終わりであるか。何だか勿体ないが」


「……普通、繋げることすらできないと思うのですが……まあ、ボーン様ですし」


「ホネー」


 最近、モコモコの対応がちょっと投げやりになってきている気がする……いや、きっと気のせいであろう。しかも、まさかのケモ子まで似たような対応を取り始めるとかされたら、ちょっとだけ、洞窟の一番奥で膝を抱えてしまうのである。


「ぬぅ……こうなれば、意地でも何か……ぬーん、生えろ!」


 瞬間、生える。草が、花が、わっさりと。

 気づく。悟る。あ、これは駄目な奴だ、と。


「と、取り消し……は無理であるか。じゃあ枯れ……は、全部枯れてしまったら困

るのである、えーと……」


「……ボーン様……」


 焦ってカラカラ鳴りまくる骨に、モコモコの肉球がぷにっと押し当てられる。


「頑張って、草むしりをしましょう……」


「ホネー……」


「……すまぬ……」


 注意一秒怪我一生。腹水は盆に返らず、後悔は先に立たない。あれだけ苦労をして整えた花畑が、一瞬にしてかつてのわっさり具合を取り戻してしまった。

 ここから先の苦労を知っているが故に、骨のしょぼくれ具合は天も次元もぶっちぎりで突破中である。


「ああ、カルシウムに戻りたい……」


「はいはい。大丈夫ですから、一緒に頑張りましょうね」


 まさかの原子レベルまでの還元を望む骨に、子供をあやすような口調で、モコモコがその手を取る。人の温もりが、改めて身にしみる骨であった。

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