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我が輩は骨である  作者: 日之浦 拓


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閑話:冒険者エディルの苦闘

2017.3.13 改行位置修正

「ははっ……つまんねぇ嘘だな……薬草に、スクースとか……」


 息も絶え絶えのスタンクが、いつもと同じ憎まれ口を叩く。だから僕も、いつもと同じように答える。


「だって、仕方ないでしょ。僕がアニキを言いくるめることはできても、アニキが僕を言いくるめてくれるわけないですし」


「…………悪い…………貧乏くじ…………引かせたな…………」


「もう黙って、その辺の木にでももたれ掛かっててください。僕の体力じゃ、スタンクを抱えてレプルボアの突進をかわすなんて、絶対無理です。もしそっちに行ったら……その時は、諦めてください」


「はっ…………それで弟分の命が伸びるなら…………大歓迎だろ…………今なら、ノーラちゃんより…………熱烈歓迎して…………やるぜ…………」


「節操無しのスタンクらしいですね。なら、そこで寝ててください。目が覚めるころには……全部終わってますから」


 僕の言葉が、最後まで聞こえたかどうか。どちらにせよ、スタンクは近くの木の下に座り込み、そのまま動かなくなる。

 まだ息はある。でももう意識はたぶんない。つまり……どう考えても、もう助からない。


 でも、ここで諦めるわけにはいかない。僕が倒れれば、コイツはまだアニキを追いかけるかも知れない。それに、もし……もし万が一、あの世界一の親友(バカ)が戻ってきたとしたら、僕が注意を引きつけておけば、倒せはしなくても、撃退するくらいのダメージは与えられるかも知れない。


 僕は改めて、レプルボアに意識を集中する。勿論、今までだって油断してたわけじゃない。自分を一撃で殺せる敵を相手に、油断なんて出来るほど、僕の神経は図太くない。そんなのを持ってるのは、アニキくらいだろう。


 僕の態度の変化を見て、それまで悠然と構えていたレプルボアが、前足をかいて突進の合図をする。

 そう、こいつはわかっている。そうすると、僕の恐怖が膨らむって。これだけ会話をしていたのに、その間攻撃してこなかったことだってそうだ。奴らはわかってる。魔物は……人の恐怖や絶望を糧にする生物は、たとえこんな獣だって、それを本能でわかってるんだ。どうすれば一番美味しく、獲物を狩れるか。


「三つ星 六つ星 七つ星 我に宿る十六の星よ 今一際光り 輝き その力で我が肉体を満たせ! 『ブーステッド オーラ』!」


 左右の手首・足首・肘・膝・肩・股関節に、丹田・心臓・頭頂を加えた全身15カ所に光が宿り……見えざる16カ所目は、魂だと言われている……そしてすぐに消える。それと同時に光った場所が燃えるように熱くなって、全身に力がみなぎってくる。


 これが僕の切り札にして、最後の札。一定時間全身の身体能力を大きくあげて、疲労すら感じなくなる……代わりに、効果が切れたら指一本動かせなくなる。

 それは、魔法使いとしての身体能力しかない僕には、基本的に意味が無い魔法。こういうとき……他の誰も戦えなくて、僕一人しかいない。そんな、最低最悪を想定して、用意してあるだけだった、自主訓練以外では、初めて使う魔法。


 効果は、ちゃんと現れた。なら、あとは時間の問題だ。多少強化したからって、杖で殴ってダメージが通る相手じゃない。やることは、ただ避けて、避けて、避け続ける。それだけの、単純なこと。


 レプルボアが、突進してくる。動体視力もあがってるのか、多少の余裕を持って避けられる。

 突進してくる。避ける。突進してくる。避ける。ヤツが、だんだんいらだってくるのがわかる。動きが雑になってきて、その代わり、速度が上がる。

 避ける。突進してくる。避ける。突進してくる。避け……られない!?


「っ! くそっ!」


 辛うじて、ローブが引っかかって破けただけですんだ。でも、それは今だけだ。魔法は、まだしばらく持つ。でも、ヤツの速度の上がり幅が、予想より大きい。これだと、あと3回くらいしたら、直撃を貰ってしまうだろう。


 僕の焦りを感じてか、ヤツが嗤ったような気がした。悔しいけど、今の僕にはどうしようも……?


「…………ふふっ」


 思わず、笑みが漏れた。僕の心に、余裕が戻ってくる。そしてそれは、ヤツにも伝わったんだろう。もの凄く嫌そうにブルゥと鳴くと、今までで一番の速さで、僕に向かって突っ込んでくる。それはつまり、もう普通にはかわせないってことで。


 そして、僕たちの勝ちってことだ。


「やあっ!」


 僕の体が、横に飛ぶ。今までと違って、飛んだ後の体制を考えない、完全な横っ飛び。ヤツの攻撃範囲から、悠々と脱出する。

 勿論、そのままならヤツがすぐに仕切り直しの突進をしてくるだろう。そうなれば、地に倒れた僕はヤツの牙に刺さるか、踏みつぶされるか……どっちにしろ、ただじゃすまないだろう。

 でも、そうはならない。


「死にやがれぇ!」


 僕の後ろから、親友の声が響く。真っ直ぐ正面に、突き刺すように剣を構え、その場で踏ん張っているアニキの姿が、視界の端に映る。


 レプルボアは止まれない。あの巨体で、あんな速さで突っ込んできたら、曲がることだって容易じゃ無い。だから刺さる。自分から、刺さっていく。自分の力で、剣をその身に浴びに行く。


「ブルァァァァァァァ!」


「がぁっ!」


 それでも、ヤツは避けた。ほんの少しだけ体を反らし、頭に剣が突き刺さることだけは避けた。だが、裂けた。ヤツの体には、一直線の大きな裂傷が走っている。

 同時に、レプルボアが避けたせい、あるいはおかげでアニキも吹っ飛んでいたけど、そっちは最初から想定していただろうから、きちんと受け身をとっているし、実際すぐに立ち上がる。


「ディー、無事か!」


「バカ! バカアニキ! 何で戻ってきた!」


「話は後だ。それよりヤツを……あれ? 何処行った?」


 そう言われて、周囲を見回す。走り抜けたあと、そのまま少し離れたところでこっちを見ているんだと思っていた、レプルボアの姿が無い。


「……逃げた? 何で?」


「いや、俺に聞かれたって、ディーにわかんねぇことはわかんねぇよ……でも、逃げたなら好都合だな。よし、ディー、スタンクを担げ。休めるところに行くぞ」


「は? こんな森の奥で、休めるところ? 泉でも見つけたの?」


「いいから、さっさとスタンク背負え。で、そしたら着いてこい」


「ちょ、ちょっと待ってよアニキ!?」


 さっさと行こうとするアニキに声をかけ、まずは落ち着いて魔法を解除。まだ継続時間に余裕はあったから、とりあえず深刻な能力低下は起きてない。とはいえ、いきなり力が弱くなったようなものなので、いつもより余計に体が重い気がする。


「なんなんだよもう、いつもいつもアニキは……うわ、スタンク重っ! ちょ、アニキも手伝ってよ!」


「俺が背負っちゃったら、先導できないだろ? ほら、早くしろ!」


「そりゃそうだけど、僕は魔法使いで……ああ、もうっ!」


 鉛のように……とまでは言わないけど、重い体に必死に活を入れ、スタンクを肩に背負って、引き摺るようにしながらアニキについて行く。


 その先の出会いに、僕の世界がひっくり返るのを感じるのは、そのほんの少し後のこと。

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