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我が輩は骨である  作者: 日之浦 拓


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初遭遇

2017.3.13 改行位置修正

 森の下草をかき分けて現れた人間は、こちらを見たまま動く気配が無い。手に持った抜き身の剣はそのままなので、間違いなく警戒はしているのであろうが、さりとていきなり襲いかかってくるというわけでもないらしい。

 これなら、いけるかも知れない。


「何のようだ? 人間よ」


 先制して、声をかける。すると、人間の顔に驚愕の表情が浮かぶ。


「喋っ!? いや、スケルトン!? こんな昼間に!? なっ………!?」


 明らかに、混乱している。このまま相手の返答を待ってもいいが、これ以上混乱されて暴れ出されたりしたら大変なので、もう一度こちらから声をかけることにする。


「もう一度聞こう。この地に何のようだ? 人間よ」


「……あっ! いや、俺は、よう……違う! その、仲間が怪我をして、魔物で、だから、その、薬草を……」


「怪我、か……」


 今の話からわかることで、重要なのはは2つ。この人間以外にも、最低一人別の人間がいること。そして、こいつ自身は単独で薬草を探して歩ける程度の怪我……戦闘能力を維持している可能性が極めて高いということ。


 私は、弱い。スケルトンとして生まれたが、戦闘能力を磨いてこなかった。それどころか、一度も誰か、何かと戦ったことはない。兎などの小動物をのぞけば、命を奪ったこともない。

 故に、剣を手にし戦いを生業にしているであろうこの人間が、自分に襲いかかってきたら……おそらく、かなり高い確率で負けるであろう。


 だが、戦いとは力だけでするものではない。本来のスケルトンにはない、絶大なアドバンテージ。即ち、会話して交渉する能力。戦って勝つのではなく、戦わずに終わらせる能力。

 それがあるから、モコモコは私をここに残したのだ。仮に私が、身振り手振りでしか意思疎通できない程度であったら、モコモコは私も一緒に洞窟に連れて行ったであろう。話せないなら、多少知能が高かろうと、魔物と変わらない。


 だが、私は話ができる。相手の言葉を聞き、私の意思を伝えることが出来る。故に考える。今の最善は何だ? 何をすれば、もっとも戦闘を遠ざけられる?


 背後には、薬草畑がある。今は混乱しているようだが、もうしばらくして落ち着けば、この人間もそれに気づくだろう。ならば突っぱねるのは悪手。では何処まで協力するか? 薬草を渡すだけ? それとも、私の力を使うか……?


「あ、あの!」


「ん? ああ、すまぬ。少し考え事をしていたのだ。で、何だ?」


「その、奥に……薬草が見えるんだ、です、けど……」


 やはり気づいた。ならば、これを誤魔化す意味はないだろう。結果として戦闘能力を取り戻す者が増えたとしても、そもそも今の時点ですら戦ったら負けるのだから、背負うリスクは変わらない。


「ふむ。少し待て」


 言って、私は立ち上がる。成り行きを見守っていた妖精達が私から飛び立ち、私の周囲を円を描くように飛び回り続ける。

 そして私の間接から、刺さっていた草花がボロボロこぼれ、潰れた茎から緑色の汁が滴る。


 あぁ、まあこれは仕方ないな。面倒だが、後で外して個別に水洗いしよう……


 少しだけ緊張感を落としつつも、私は畑からいくつかの薬草と、止血用のスクースも抱えて持ってくる。あり得ないほど増えたので、在庫の心配は全く無い。


「このくらいで足りるか?」


「は、はい。足りると思います……その、ありがとうございます」


 薬草を手渡すと、人間は私に対し、きちんと感謝の言葉を述べ、頭を下げた。この分なら、とりあえずは戦闘ルートは回避できたようである。


「用が済んだのなら、行くがいい。ここは人間が長く滞在するべき場所ではない」


 そう告げ、私は人間に背を向け歩き出す。一歩、二歩……


「あ、あのっ!」


 三歩目を踏み出したところで、背後から声がかかった。斬りかかられることを警戒していたが、これで大丈夫だったなら、対話が続く限りは交渉力で何とかなりそうである。

 私は振り向き、そして答える。


「何だ?」


「あの……ここっ! ここで……野営させてもらえないでしょうか?」


「……ここに、お前と仲間を迎え入れろ、と?」


「仲間! 仲間の怪我が、結構深くて……森の中じゃ、手当も難しくて……ここなら、見通しもいいし、安全そうだから……」


「お前は、私がいるこの場所が、自分たちにとって安全だと……そう言うのだな?」


 力を込めた私の言葉に、人間は一瞬ひるむも、強い視線を返してくる。


「っ……はい。俺たちが何かしない限り、貴方は俺たちに攻撃してきたりしない、と

思います……思うような……」


 断言できず、最後が尻すぼみになるあたり、何となくこの人間に、私は親近感を覚えてしまった。それは小さな心の変化だが、それこそが、決断の最後の一押しとなる。


「いいだろう。ここに連れてくると言い。後のことは、全員が揃ってから話そう」


「あっ! ありがとうございます! そ、それじゃ、早速連れてきます!」


 そう言うと、人間は飛ぶような勢いで森の中へと戻っていった。その速度に、やはり自分の身体能力では及ばないであろうことを、遺憾ながら確信する。


 私は洞窟の方に振り返ると、両手を突き出すジェスチャーをする。人間がここに留まるなら、本来はケモ子達を森に逃がしたいところだが、タイミングを誤ると、森で鉢合わせすることになる。それを考えれば、自分の力である程度状況をコントロールできるこの場に残らせ、洞窟内に隠れていた方が安全であろう。

 幸いにして、取れすぎた木の実などは、洞窟内にたっぷりある。水場は外から見える場所にしかないが、水気の多い木の実もあるので、野生に生きるケモ子たちなら、多少の間なら問題ないだろう。

 こちらの意図を察したように、ほんのかすかに、洞窟内の気配が動くのを感じる。


 これで、今できることは全て。後は再び、成り行きを見るしか無い。


 私は最初に座っていた場所に戻り、再び腰を落ち着けた。そして、妖精達はここぞとばかりに、骨の関節に草花を刺し直していた。

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