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我が輩は骨である  作者: 日之浦 拓


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骨の戴冠式

2017.3.13 改行位置修正

 あれから数日。骨の目の前には、範囲こそ当初の予定の数倍になっているが、結果としてはパーフェクトに近い素敵空間ができあがっていた。


 ここに至るまでの苦労は、筆舌に尽くしがたい。何せ初日でも凄かったのに、2日目以降も様々な草花がグングン伸びたり生えたりしてきていたのだ。最初のうちこそ出来るだけ手を加えず、自然のままにと思っていたが、森までの視界が8割近く遮られたり、モコモコですら足を取られそうになるほどみっちりと草が生え揃ったりしたせいで、こだわりなど窓から放り投げ、間引き、引き抜き、刈り取りと、自分たちの都合と快適性を最優先して一切の自重無しの手入れを行ったのだ。


 その結果できあがったのが、現在の配置である。

 洞窟を中心とし、当初畑にする予定だった洞窟左手側には、アシミ草やスクースなどの薬草類が、ちゃんとした畑っぽい感じで、整然と植わっている。

 そこから半円を描くように、ケモ子や妖精達の強い要望で作られた白蜜草畑、実をつける草や低木、蔓草のたぐい。洞窟正面扇状にソル・フラワーやナイトベルなどの、観賞用としての色とりどりの花。水仙やチューリップに近い感じの、球根で植えるタイプの花々、そして最後右手側山麓手前に、うねうね動いたり抜くと叫んだりする感じの、何とも言えない不思議系植物。

 洞窟正面の僅かな草原地帯を残し、周囲一帯を草花が囲むという、まさに理想の花畑となったのである。メガネでちょび髭の鑑定士も、「良い仕事してますねぇ」と大絶賛すること受け合いである。


「うーむ。壮観であるな……」


 苦労して作り上げたそれを、洞窟正面草原広場(たった今名付けた)にて、胡座で眺める骨。その周りには妖精達が飛び交い、骨の関節という関節に、いろいろな花を差し込んでいく。


「あの……んふっ、ぼ、ボーンさ……くふふっ……」


 不死系から植物系へと属性変化しかかっている骨に、モコモコが話しかけ……笑いかけ……まあとにかく声をかけてくる。必死に口元を押さえ、目を背けて肩をヒクヒクさせているが、そんな小さなことは気にしない。寛大にして雄大、都合の悪そうなことは気にしない、鈍感系骨なのである。


「どうした? モコモコよ。何か用か?」


「んふっふ……ふぅ。いえ、特に用事があるとかではないのですが……あの、私もお隣に座っても良いでしょうか?」


「無論だ」


 笑顔の問いに、笑顔の答え。ただし骨の方はイメージのみである。それでも十分伝わったようで、モコモコが隣りに腰を下ろす。ちょっと肩に手を回してみたい気がするが、あいにくと骨の関節には、みっちり草花の茎が刺さっている。下手に動かすと潰れて汁が出てくるため、臭いが残って大変なので、骨はその場で動かない。どっしりと構える大黒骨スタイルである。


「平和ですね……」


「うむ。平和だな……」


 まるで縁側で茶を啜る、熟年夫婦のような会話。陽気はぽかぽかと暖かく、隣には愛する者がいて、目の前では美しい風景のなか、子供が楽しそうにはしゃいでいる。ラブアンドピースの全てが集約された、まさに理想の時。今なら、もうゴールしてもいいような気さえしてくるが、流石に不死族に生まれてヤブ蚊より短い寿命というのは願い下げなので、あくまで気がするだけである。


「ホネー!」


「ん? どうしたケモ子よ」


 テッテッテッと駆けてきたケモ子が、骨の前で立ち止まると、手にしたソレを誇らしげに掲げる。


「ター!」


「んむ? 花の冠か。良く出来ているではないか。ケモ子は器用だな」


「んふー! ホネー! ホネー!」


「何だ? あ、ひょっとして私にくれるのか?」


「アー!」


「おお、それは嬉しいな。だが、今ちょっと体が動かせなくてな……流石に背骨の隙間にまで茎を差し込まれるのは……というわけで、ケモ子がかぶせてくれないだろうか?」


「アー!」


 動けぬ骨に一歩だけ歩み寄り、ケモ子の手によって骨の頭に冠が頂かれる。


「どうだ?」


「とっても素敵です。ボーン様。あの時は断られてしまいましたけど、今日からは王様ですね」


「ぬっ? それは……」


「ホネー! ホネー!」


 目の前で、ケモ子がはしゃいでいる。隣では、モコモコが笑っている。あの時とは、何もかも違う。


「……そうだな。こんな素晴らしい王冠を貰っては、断るわけにもいかんな」


「ホネ、ウー?」


「そうだぞケモ子よ。骨であり王である。ケモ子とモコモコ、二人のためだけの王である」


「ウー! ホネ、ウー!」


 はしゃぐケモ子がその場でクルクルと周りだし、それに釣られるように、10人ほどに数を減らした妖精達も、3人の周りを踊るように飛び回る。


 だが、しばらくして。


「っ!? ケモ子!」


「マー!?」


「ぬっ?」


 小さく、だが鋭い声でモコモコがケモ子を呼び、返事すら待たずにその手を強引に掴むと、一直線に洞窟へと駆けていく。

 どうしたのか? などと声はかけない。そうするだけの何かがあったのだ。説明する暇も無いほどの急ぎで、姿を隠さねばならない何かが。


 静寂。妖精達すら動きを止め、骨の体に止まって動かずにいる。それ故に、聞こえてくる。森の方から、ガサガサという音が。確実に、近づいてきている。


 頭を冷やし、魂の根を下ろす。モコモコは私に逃げろとは言わなかった。それはつまり、私は逃げる必要が無いか、私まで逃げてはもっとやっかいなことになるかのどちらかということであろう。


 ならば、ここで待てばいい。待っていれば、もうすぐ向こうからやってくる。


 そしてしばし。草むらをかき分け、やってきたのは……


「これは一体……!?」


 剣を手にし、鎧を身にまとい、頭から血を流した……人間であった。

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