謎は謎を呼び、そして謎のまま終わる
2017.3.13 改行位置修正
「これは一体、何が…………?」
あんぐりと口を開けて、惚けたようにモコモコが呟く。だが、気づく。気づいてしまう。骨の鋭敏な感覚は誤魔化せない。さっきから凄い勢いで、モコモコがこちらをチラ見しているという事実に、気づきたく無かったのに気づかされてしまう。
「さて、何故であろうか? 私は知らないのである」
「……ボーン様?」
チラ見をやめて、正面から顔を合わせようとするモコモコの動きに先んじて、骨の髑髏がクルンと回る。
「私は知らないのである」
「ボ ー ン さ ま ?」
「わ、私は知らないのである」
合わせない。絶対に目を合わせない。骨は強い子元気な子。プレッシャーになんて、絶対に負けないんだから!
と、そこで逸らしまくった視界の外から、遂に直接私に触れる者が現れる。
「わ、私はしらっ!?」
「ホネー?」
「しら……しらな……」
「ンー?」
「……すまないのである。全て私のせいである。必要ならば土下座もいとわないのである……」
無理である。不可能である。つぶらなケモ子の瞳から逃げるとか、炭酸2リットル一気飲みよりきついのである。柄杓の隣りに星が見えてしまうのである。
「ドゲザというのはわかりませんが……結局何をされたのですか?」
責めると言うより確認する感じで、モコモコが話しかけてくる。本気で怒られると思っていたわけではないが、それでも幾分ほっとして、治りかけの肋骨がカラリと鳴る。
「うむ。実は昨夜の間に……」
-骨 説明中-
「……ということである」
「そうですか。肥料に骨粉……あの、それを今、もう一度作っていただくことは可能でしょうか? ボーン様のお体を傷つけるのは、本当に不本意なのですが……」
本気でそう思っていることがありありとわかる、渋い顔のモコモコ。だが、それが最も確実な原因の検証方法であることは、私にもわかっている。故に、ここで断る判断は無い。お金も真実も、ドブに捨てるつもりは無いのである。
爽やかかつ速やかに了承の意を示し、昨夜と同じように、肋骨を外して骨粉を作る。なお、流石に同じ肋骨を使うのは消耗が激しいので、左右逆の物を使った。『植物育て』と念を込め、削って削って……やがて、骨粉が光を放ち始めるが……
「うむ?」
「どうかなさいましたか?」
「いや、これで完成のはずなのだが……何となく、昨夜の奴とは光り方が違う気がしてな」
「ちょっと見せていただいても?」
「良いぞ。こぼさないように気をつけてな」
葉っぱの皿に入れた骨粉を受け取ると、モコモコはそれを指で摘まんだり擦ったり、あるいは舐めたりしてみる。
「おい、それは口に入れても平気なのか?」
「ええ、大丈夫だと思いますよ。元になった骨は、昨夜も舐めておりますし」
アッハイ、ソウデスネ。ならば何も言うまい。漢は黙って待つものである。沈黙は金、お口チャックボーンである。
「うーん。これは……」
その後もじっと見つめたり、実際に薬草の根や花の種に付けたりなどの検証を続けていたモコモコの口から、やっと言葉が出る。
「調べてみた感じですと、確かに魔力はこもってますし、素晴らしい出来の肥料だと思います。ただ、あくまでも常識の範囲内での『素晴らしい』であって、こんな光景を一晩で生み出すほどとは……」
「うーむ……そうなると、私も本当に心当たりが無くなるのだが……」
「何か特別な条件がある……とか? でも、魔力を込めてるのに、昼より夜の方が効果が高くなるというのは考えづらいですし……うーん……」
二人揃って頭をひねるが、結局のところそれ以上にわかったことはなく、最終的に出した結論は。
「やってしまったものは仕方が無いのだから、気にしないことにせんか?」
「そうですね。やってしまった物は仕方ないですから、気にしないことにしましょう」
丸投げにして棚上げである。そう、やってしまった物は仕方が無いのである。わからないことをわかるようにするのは、研究者の仕事であって、骨の仕事ではないのである。
「せめてほんの少しでも現物があれば違ったんですけど……」
「これ以上こだわっても、本当に仕方あるまい。これほどの効果が強くては、正直作れたとしても使い道に困るしな」
どう考えても、目的の作物以外の雑草やら何やらが大繁殖するであろう。明日食べる物にすら困るような切羽詰まった状況ならともかく、飲食を必要としない骨と、狩りで食料を調達しているモコモコ親子では、明らかに宝の持ち腐れである。
そして当然、世に出すようなことをすれば混乱と混迷を生むことが明らかなので、そちらは最初から選択肢に無い。
堅実な現実志向こそ安定した日々の秘訣である。
「そう言えば、ケモ子は何処に行ったのだ? 作成法の説明中にはいなくなっていたようだが……」
まあ、おそらく突然出来た花畑で遊んでいるのであろうが。突然現れた完全初見のプレイスポットに、ケモ子が飛び込まないわけがないのである。
「そう言えば、そうですね。まあ、花畑で遊んでいるのだとは思いますが……ケモコー? 何処にいるのー?」
モコモコも同じ結論に達していたようで、特に心配する様子もなく、ケモ子を呼ぶ。だが、そんな平穏な予想に反して、次に聞こえてきたのは……
泣き叫ぶ、ケモ子の悲鳴であった。




