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我が輩は骨である  作者: 日之浦 拓


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骨の錬金術師

2017.3.13 改行位置修正

「ふむ。まあこんなものであろうか?」


 いい具合に種を蒔き終わった畑を見ながら、モコモコに声をかける。


「そうですね。そんなものかと。私の方の薬草の植え替えも……はい、これで終わりです」


「ター! ター!」


「そうね。ケモコもお手伝いありがとう。おかげで素敵な畑になったわ」


「そうだな。ケモ子、素晴らしい働きであった。無論、モコモコもだ」


「ホネー!」


 一仕事終え、飛びついてきたケモ子を抱っこしてやると、私とモコモコは並び立ち、私たちの畑を見渡す。

 今はまだ、何があるわけでもない。種を蒔いたところは見た目は土が掘り返してあるだけだし、植え替えた薬草にしても、まばらにあるだけである。緑の草原に、まるで傷の様に存在している畑。

 だが、私は確信している。この傷が癒える時、そこにあるのは最初の草原ではなく、色とりどりの花や薬草の生い茂った、素晴らしい畑であると。


「良いものになるといいな」


「なりますとも。何せ私たち三人の、初めての共同作業ですもの」


「ふふっ。そうだな……さて、では洞窟に戻るとするか」


「あ、それじゃ私は夕食を狩りに行ってきますね。ケモコは……ああ」


 優しい母の目で、モコモコがケモコを見つめる。まるで元気を使い切ったかのように、私の腕の中でスヤスヤと眠っている愛娘の姿に、彼女の微笑みは何処までも温かい。


「私が戻る頃には目覚めると思いますから、それまで宜しくお願いします」


「うむ。こちらは任せよ。モコモコこそ、気をつけてな」


「はい。それじゃ、ちょっと行ってきますね……旦那様」


 ケモコを起こさぬように、サッと背伸びをして、触れる程度の軽いキスを骨の頬に残し、颯爽と走り去るモコモコ。その後ろ姿を見送ってから、骨もまたゆっくりと歩いて、洞窟へと戻っていった。


 そう。蒔いたのである。遂に、遂に骨は種を蒔いたのである。ダイジェストにすらならない、圧倒的な効率で蒔ききったのである。

 これにより大地が泣くことが無くなり、大自然を敵に回す未来も回避されたため、色々盛り上がるはずの苦難の全てがキャンセルされるという、構成作家が泡を吹いて倒れるレベルの世界改変があったりするのかも知れないが、そんなことは骨には関係ないのである。気になるのは、今夜のアレやコレだけであり、そしてそれは決して語られることのない、二人だけの秘密なのである。



 そして、程なくしてモコモコは狩りから戻り、目を覚ましたケモ子と共に、美味魔法をかけた肉の美味さに舌鼓を打ったり、知性溢れる骨の素敵トークで笑い、理性を試すモコモコの不敵トークで特定箇所の骨をカタカタ鳴らし、相変わらず元気なケモ子を可愛がり、夜は再び月夜の下でモコモコを可愛がり、ホワイトデーなど目じゃないレベルのえげつない倍率で可愛がり返され、疲れたモコモコが寝静まる、夜なお深き丑三つ時。骨は一人、畑の前で佇んでいた。


「確か、骨の粉は肥料になった気がするのだが……」


 うろ覚えの知識を何とか引っ張りだそうと、月明かりの下座禅を組む。先ほどは興奮をもたらしていた月の光が、今は冷静さを与えてくれる。


「ぬーん。混ぜる? 振りかける? 今ひとつイメージが……まあ、やってみればいいか。失敗したところで、どうと言うこともないし」


 方針が決まれば、行動に迷いは無い。肋骨の一本を胸から外すと、手頃な石に擦りつけて、ゴリゴリと削って骨粉を作る。無論、魔力を込めて、である。




 この時、予想外のことが起きていた。骨自身が込めていたのは、陽の力、魔力である。『植物を成長させる』というのが目的である以上、この判断は正しい。

 だが、作業をした時間が問題であった。今は深夜。月の光の下、陰の力、魔素がその効果を最大限に発揮する時間である。それゆえ、例え本人が意識していなかったとしても、『骨粉に力を込める』という意思の働きが、そこに魔素をも送り込んでいた。陰と陽、相反する二つの力が、同じ目的、同じ方向性を与えられ、等量がひとつの物質に作用する。それは使い方によっては、あるいは死者さえ呼び戻せる霊薬を調合できたかも知れない、錬金術の奥義。何も知らずに実行したとはいえ、

その効果は劇的にして激烈。だが……




「ふむ。こんなものか? どうも昼間と光り方が違う気がするのだが……まあ、光の加減であろうか」


 なかなかのできばえに満足し、葉っぱで作った皿を丸め、骨粉が散らないようにすると、まずは外した肋骨をくっつけ直し、治るように魔素を込めてみる。と、何やら削れた部分がむずむずする感覚が生まれる。


「大して削れたわけでもないのだが、それでも瞬間再生はしないか……まあ、スケルトンの魔素量では、こんなものなのだろうな」


 少しだけ残念ではあるが、これは十分予想できたことなので、すぐに気を取り直し、葉っぱの皿を手にとって、そのまま大雑把に骨粉をまき散らす。それは当然畑に降り注いだが、その過程において、それなりの量の骨粉が、風に乗って草原中に広がっていく。


「……ふむ。まあそうだよな。骨粉をまいただけで、瞬時に成長とかしないよなぁ」


 脳内に残っていたイメージが、サトウキビすら即座に伸びる炭鉱夫謹製の骨粉のイメージだったので、ちょっとだけガッカリする。これも当然予想内の出来事なのだが、さっきよりもガッカリ度は少しだけ高い。


 とはいえ、ふと思いついたことはやりきったので、そのまま骨は洞窟へと引き返した。眠ることはできなくても、眠っているケモ子やモコモコの愛らしい姿を眺めることはできる。そうしていれば、夜などあっという間に過ぎてしまうのである。


 そして、翌朝……


「……何でこうなった……」


 骨たち三人の目の前には、種を植えていた場所などどこだかわからないほどの、一面の花畑が広がっていた。

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