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我が輩は骨である  作者: 日之浦 拓


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原初魔法

2017.3.13 改行位置修正

「くぁー……ホネー?」


「ん? おお、ケモ子よ。静かだと思ったら、寝ていたのか」


 機を見るに敏を地で行くケモ子が、ちょうど話が途切れたタイミングで声をあげる。大事な物がことごとく抜けている骨と比べて、流石もっている娘である。


「ホネー……」


「よしよしケモ子よ。骨であるぞ。二度寝の気持ちよさは痛いほどわかるが、流石にこのまま三度寝させるわけにもいかんしな……お、そうだな」


 私は見本としておいてあった白蜜草の花に指を突っ込み、蜜をすくい取る。これは植え替えでは無く種を蒔く花なので、問題ない。

 さて、このままでは味が薄いと教えられた白蜜草ではあるが、ここで一工夫。さっき学んだことを即座に実践すべく、意識を集中する。


「美味しくなぁれ、美味しくなぁれ……」


「ホネー?」


 秘密の呪文を唱える私を、腰に抱きついたケモ子が首を傾げて見上げている。


 うぅ、モコモコからの生温かい視線がきつい……いや、だが、私の理論が正しければ、きっとこれでいけるはずなのだ。


「美味しくなぁれ、美味しくなぁれ……きたか? よしよしよし……ていっ!」


 気合い一声、指先の蜜が、キラキラ光る。これで完成である。


「ほーら、ケモ子よ。舐めてみるが良い」


「ンー? あーん……ンー!」


 口元に差し出した指を、躊躇無くぱっくり加えたケモ子の目が、次の瞬間、驚きに大きく見開かれる。


「ンー! ホネ、ンー!」


「え? ケモコ、そんなに美味しいの? え?」


「ふっふっふ。どうだモコモコよ。これが私の力である」


 戸惑うモコモコに、ここぞとばかりにドヤる骨。失敗したらどうしようと内心どきどきしていたのは秘密である。


「あの、何をしたかお聞きしても?」


「勿論良いとも」


 先ほどまでのお返しというわけではないが、今度は私が、モコモコに教える。ちなみに、ケモ子は未だに私の指をしゃぶり続けている。とっくに蜜は無くなっていると思うのだが……まあいいだろう。


「先の話から、私は自身に、魔力をそのまま溜めたり、あるいは放出したりする能力、その魔力に方向性を与える能力、そしてそうやって加工した魔力を、他の物に付与する能力があることが判明した。

 そして、お前は言った。魔力……陽の力は、楽しいとか幸せとか、そう言う気持ちを司るものであると。

 故に私がやったのは、スクースのような液体である花の蜜に、美味しいという陽の念を付与し、それをケモ子に食べさせたというわけだ」


 得意満面で語る骨に、だがモコモコは、何故か頭を抱えるようにしてうずくまる。


「美味しい念? 味覚じゃなく、精神に影響する概念を付与した? 専用の霊薬とかじゃなく、花の蜜に? え?」


「……そんなに深刻になることか? スクースの時と同じことだと思うのだが」


「同じじゃないです。同じじゃないですよ……回復魔法というのは、ごく普通に存在する魔法です。誰でも使えるとまでは言いませんが、どんな小さな街や村にでもほぼ間違いなく存在する教会で、必ず一人は使い手がいるくらいの魔法です。

 でも、そんな魔法は知りません。それはおそらく何千年かぶりの、原初魔法(オリジンマジック)です……」


「それはまた……凄そうな気がするな」


 骨的には、何故か弁当のイメージが浮かんでくるので、凄いと言うより安くて美味いである。


「凄いのです……とても凄いのです……それで、詠唱はどうされますか? あ、いや、今説明します。原初魔法(オリジンマジック)の発動に成功すると、世界に対して、その魔法を発動するための基本詠唱である言霊コトダマを設定することが可能になります。

 これを決めておくと、その言霊が発せられることで、全く同じ魔力の動きを再現することが……要は、最低限その言霊さえ詠唱さえすれば、よそ見をしていても同じ効果が発動するようになるんです。」


「おお、それは便利だな」


 ショートカットと言うよりは、パッチファイルであろうか? どちらにせよ、そんな便利な物の作成権利があるなら、ここは作っておくべきであろう。


「では、それをやりたいが……具体的には、どうすれば良いのであろうか?」


「それは、私にも流石に……原初魔法(オリジンマジック)の開発に成功した人なんて、ましてや発動のその瞬間に立ち会った人物なんて、それこそ神話かおとぎ話の話になってしまいますから。一応、開発者本人には、何となくわかるということなのですが……」


 困り果てるモコモコ。何千年ぶりと言っていたし、流石に記録も記憶もないのであろう。実際こんな適当に開発できるなら、絶対あるであろうファイアーボールの魔法など、人類種が知恵を持ち始めた頃からあると言われても納得できる。


 とすると、どうするか…………いや、実はわかっている。わかっているのである。骨の頭には、この魔法を発動した瞬間から、とあるフレーズがこびりついて離れないのである。これが、この魔法の言霊なのであろう。

 そう、これを口にしたくないだけなのだ。絶対に似合わないのだ。だが、言霊を変える方法など、それこそ思いつきもしない。


「あるには……ある。この魔法……美味魔法とでもするか? これにふさわしいであろう言霊が、私の脳裏にはハッキリと浮かんでいる」


「そうなのですか? 流石ボーン様! では、早速言霊を!」


「……今、ここでか?」


「はい。早いほうが良いかと……それとも、何か不都合なことでも?」


「そんなことは無いが……うむ。ここは覚悟を決めるべきか」


「?」


「ホネー?」


 覚悟を決めた骨の態度に、その理由が全くわからず首を傾げるモコモコと、やっと指から口を離し、モコモコの隣へ歩いて行くケモ子。


 そんな二人を見届け、骨は両手を胸の前で合わせると、そのまま指を曲げ、命を象徴する形を取らせる。命、即ち……心臓(ハート)である。

 そしてその手を維持したまま、骨は一息に言霊を叫ぶ。


「美味しくなぁれ、萌え萌えキュン!」


 瞬間、ハート型をさせた骨の手から、閃光がほとばしる。その光は対象指定しておいたモコモコの持つ陶器製の小瓶……中身は毎日少しずつ溜めておいた白蜜草の蜜らしい……に当たると、パアッとはじけて空に溶ける。


 それを見届けると、蓋を開けて中の蜜を指で掬ってモコモコが舐める。当然ケモ子も欲しがって、多めな一掬いを幸せそうに舐めている。


「ンー!」


「あ、美味しい……確かに、味は変わらないはずなのに、何だかとても美味しい気がします。凄いですボーン様! これでまた歴史に名を残されましたね!」


 甘味にはしゃぐ母娘を尻目に、骨はとても複雑な気持ちだった。自分に使えない回復魔法に、味覚が無いのに美味魔法……一体自分は何処に向かっているのだろうか? そして、3日かかると思われた穴掘りは一瞬だったのに、未だに一粒の種すら蒔けていないという驚愕の事実。果たして本当に畑は完成するのか?


 ままならない骨ライフは、まだまだ続いていく。

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