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我が輩は骨である  作者: 日之浦 拓


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癒やし系の骨

2017.3.13 改行位置修正

「も、モコモコよ。ちょっと確認したいことがあるのだが……」


「はい。何でしょう?」


「アンデッドと言うのは、幸せを感じるだけで苦しむのであろうか?」


「そうですね。おそらくケモコが元気に走り回っているだけでも、低位のアンデッドならもの凄く不快に感じると思います」


「アンデッドと言うのは、日の光に弱いのであろうか?」


「はい。先ほども言いましたが、太陽は命の象徴として強い力を持ち、とりわけ日の出の『生誕』と、日の入りの『終焉』は、かなりの影響力を持ちます。普通に日の光の下を歩くだけでも辛いでしょうし、朝日を浴びたりしたら、立ち上がれない度消耗するか、そのまま消えて無くなってしまうと思います」


「……スケルトンというのは、実はアンデッドの最上位だったりは……」


「私の知る限りでは、ゾンビと並ぶ最低位のアンデッドだと思います」


 マジか。えぇーマジっすか。先輩それマジ証明されてるんスか?


 ……驚愕の事実である。ケモ子が何故助かったかより、骨が何故今日まで存在していられたのかの方がはるかにミステリーである。


「……あの、大丈夫ですか? ボーン様?」


 カックリと膝を突いて崩れ落ちる私に、モコモコが心配そうな顔を寄せてくる。


「私は何故、今日まで生きていられたのであろうか……?」


「あ、はい。それです。それがケモコが助かった理由に繋がる、このお話の核心部分になると思います」


 あれ? しょんぼりボーンがお悩みシンキングタイムに入ろうと思ったら、この問題は既に解決済みなのか? 昼も夜も有能とか、モコモコ先生マジパないのである。


「先ほどボーン様はおっしゃった『朝日を浴びながら体を動かすと、気分がいい』というのは、アンデッドとしてあり得ません。存在の格があがって、マイナスがゼロになることはあっても、プラスに転じて『気持ちいい』と思うのは、慣れの範疇を大きく逸脱しています。

 そして、実はボーン様が魔物ではなく、骨型の新生物だというのもありません。腰を治す際に魔素を操ってますから、最低でも魔物ではあるはずです。なので、もし万が一アンデッドのスケルトンでは無かったとしても、陽の力である朝日を浴びて気持ちよく感じるのは、やっぱり無いと思うのです。

 それで、そこから導き出した私の答えなのですが……」


 そこで一端言葉を切って、モコモコがためを作る。カラカラというスカルロールが脳内で鳴り響き、猿顔のオッサンが猛烈にウザいどや顔をする。


「ボーン様は、空っぽなのではないでしょうか?」


「……カラ? で、あるか?」


「はい。空っぽです。余裕があると言うか、容量が大きいというか……あ、器が大きいと言うのが良いですかね?」


 どうにも話がよく見えない。とりあえずディスられているわけではなさそうなので、そのまま次の言葉を待つ。


「普通、生命というのは自分という器に、限界まで力を溜めています。器が成長することで余裕が出来て、努力によって力を溜められる余地が生まれる……

 ですが、ボーン様の場合は、その余裕が、最初からあり得ないほどに大きいのではないかと思うのです。

 莫大な大きさの器があるから、陽の力である魔力を体内に取り込んでも、魔素と干渉しない場所に保管できるし、そのままの形で保管できるから、それを取り出すこともできるのではないかと」


「うん? つまり、あのキラキラの正体は、私が取り込んで、未変換のまましまい込んだ太陽の力、要は魔力だったということか?」


「はい。『新しい命が生まれ出づる』という生誕のもつ強力な命の力を、傷口に塗ってそのまま放置するという使い方をするスクースに付与することで、持続型の回復魔法と同等の効果を発揮したのではないかと」


 回復! ここに来てまさかの癒やし系骨(魔力)である。誕生してから今まで、短い期間だというのに意外なことは沢山あった気がするが、これがおそらく、今までで一番意外なことである。


「一応聞いておくのだが…………いや、いい」


「はい。回復魔法の使えるスケルトンなんて、聞いたことがありません。この世界の長い歴史を紐解いても、おそらくボーン様が初めてではないかと」


 聞くまでも無いことを聞くのをやめたら、聞いてないことをニコニコ顔で教えてくれる。もはや以心伝心である。

 にしても、回復魔法とは、便利なものを覚えたものだ。ちょっとくらいは戦闘能力も欲しい気がするが、薬草などの回復手段が一切使えない骨にとって、回復魔法は極めて有用性が高い。

 物は試しと、さっそくキラキラ白濁液を大腿骨へと垂らしてみると……


「ぐあっ!? い、痛い! 痛いぞ!?」


「ちょ、ボーン様、何を!? 待ってください。すぐ拭き取りますから、動かないで……」


 イッテェ! 超痛ぇ! 輝く汁の垂れたところが、焼け付くように痛い。すぐにモコモコがぬぐってくれるが、ねばねばした液体のため、綺麗に拭き取ることはできず、結局ちょっとヒリヒリするくらいまでで処置を諦める。


「申し訳ありません。これ以上は……あ、薄衣を使えば、もう少し綺麗に拭き取れ」


「辞めろ! 絶対に辞めろ! こんなことに、そんな大切な物を使うな」


 手を伸ばそうとするモコモコを、食い気味の勢いで必死にとめる。代々伝わる大事な服を雑巾代わりにさせるとか、骨の心が闇墜ち確定である。美しい乙女に成長したケモ子が、光る剣を手に復讐に来る話が映画化決定されてしまうのである。


「ふーっ、もう大丈夫だから、心配するな」


 息を落ち着け、手をかざして告げる。あとで足を外して、水洗いしておこう……


「ボーン様。変換前の純粋は魔力はともかく、回復という方向性を与えられた力をご自身に向けるなど、毒を飲むようなものです。いくら何でも無茶が過ぎます!」


 プンプンという擬音を体現するような気配で、責めるようにモコモコが言う。骨に生まれて初めての怒られに、しょんぼりボーンが再び誕生する。


「ぬぅ、すまぬ。回復魔法が有効であれば、もし万が一この身が破損した際にも、治せるかと思ったのだが……」


「え? 私の知る限り、スケルトンでしたら必要な魔素さえあれば、欠損した部位は修復できると思うのですが……?」


「……そうなのか?」


 ああ、無能ここに極まれり。聞くは一時の恥、無知は一生の不覚。骨の人生、まだまだ勉強勉強である。

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