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我が輩は骨である  作者: 日之浦 拓


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不死者の業

2017.3.13 改行位置修正

 ケモ子は、何故助かったのか?


 疑問に思わなかった訳では無い。明らかに悪い様態に、ろくな治療……いや、治療と呼べる程のことは、何も出来なかったのだから。なればこそ、その驚異的な回復力には、私こそが驚いていた。いたが……他に比較対象など存在しないのだから、驚くだけで終えてしまった。薬草の力か、ケモ子の力か、どちらにせよ、この世界は凄いと、そこで思考を止めてしまった。


 だが、今モコモコは何と言った? 何故助かった? アンデッド化? なんだそれは。どうしてそうなるのだ?


「何故……だと……? アンデッド……?」


 絶句する私に、モコモコは真剣な表情で告げる。


「スクースの止血効果は、それなりではあっても、それなりでしかありません。他の薬草などを加えてしっかりとした調合をするなら、少し強めの回復力を持続させつつ、傷口を保護できる良質な回復薬を作ることはできますが、天然の物をただ塗っただけでは、そもそも傷を癒やす効果そのものがありません。あくまで血を止め、傷口を保護するだけです。

 なので、ちょっとした傷ならともかく、命に関わるような怪我が、スクースを塗っただけで助かるようなことはありません」


「わ、私が使ったスクースが、たまたま希少な変異をしたものだった、という可能性は?」


「絶対に無いとは言えませんが……ある日突然野に生えた草が魔法薬のような回復能力を宿し、それをたまたま見つけて使った、となると……」


「無い……だろうな。現実的には。では、アンデッドというのは?」


「不死に属するアンデッドに、その……殺されると、その対象もアンデッドになることがあるので……」


「……私が、ケモ子をこの手にかけた、と?」


 自分の中の何かが、急速に冷えていくのを感じる。そんな風に、思われたのだろうか? いや、しかし確かに私は骨であり、それが当然……


「聞いてください。ボーン様」


 震える手に、モコモコの手が重なる。さっきまでと変わらず、その手は優しく、温かい。


「私は母です。ケモコの……ボーン様が助けてくださった娘の、母です。だから、わかります。何を知っても知らなくても、悪意を持って娘を害するような相手に心を開くなど、絶対にありません」


「モコモコ……」


 真っ直ぐ私を見つめる瞳は、強く強く訴えかけてくる。


「なので、もし……もし万が一、どうしても他に娘を助ける手段が無くて、どうしようもない最後の手段としてアンデッド化というのがあって、その結果が今のケモコであるというなら……私は、やっぱり感謝すると思います。例え体が間に合わなかったとしても、娘の魂を助けてくれて……きちんと別れを告げるための、数日の猶予を与えてくれて、ありがとうございます、と」


「……そうか……すまぬ……」


 自然と、謝罪が口からこぼれた。少しでも疑ってしまったことが恥ずかしくて、髑髏がカクンと下を向く。


「あの、それではケモコは……」


「ああ、いや、そう言う意味ではない。ケモ子は間違いなく、普通に治って生きている……はずだ。スクースを塗ったり、水や食事を与えた程度で、それ以外に特別なことはしていないから、問題ない……はずだ」


 何もかもあやふやで、断言できない自分がもどかしい。こんなことなら、半端に強くなろうとするよりも、知識や経験を積み重ねておくべきであった。まあ、ではどうすればいいかと問われたら、やはりやり方などわからないのだが。


「でしたら……その、少し気になることがあるので、よろしければ、ケモコを治療した時のことを、再現していただけませんか?」


「再現? と言っても、スクースを塗って肉を食わせただけだぞ? それを再現と言われても……」


「それでいいんです。その時の気持ちとか、そういうものも踏まえて、出来るだけ同じように。どうでしょう?」


「ふむ……良くわからんが、モコモコがそう言うなら、そうしてみよう」


 言われるままに、あの時の様子を再現しようとする。頭蓋骨よりスッカラカンな知識しか持ち得ない私にはわからなかったが、自分でも気づかないうちに何かやらかしていた可能性は、うっかり骨兵衛の名を欲しいままにする私にはとても否定しきれない。


 スクースの葉を二つに割り、手にとって、意識を集中する。

 目を……視界を閉じて、思い出す。あの時の思い、あの時の気持ち。

 目の前にいたケモ子を、絶対に助けるのだと決意した。ほんの僅かでも苦痛が及ばぬように、スクースの葉を手の一部だと認識し、細心の注意を払って傷口に……


「これは……ボーン様!」


「ん? ぬおっ!?」


 葉から滴る、スクースの汁。そのやや白濁した液体が、ほのかにキラキラと光を放っていた。

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