骨の薬草教室
2017.3.13 改行位置修正
「では、これより第一回種まき大会を始めるのである! 総員、拍手!」
「パチパチパチ-」
「ホネー!」
昨日気がついたら掘り返し終わっていた種まき予定地の前に立ち、高らかにそう宣言する骨と、拍手を返すモコモコ&ケモ子。ちなみに、第二回の予定は今のところ無い。
「さて、ではモコモコよ。用意して貰った種などの説明をして貰っても良いか?」
「あ、はい。わかりました。では、順に説明していきますね」
そう言うと、モコモコは昨日も持っていた緑の袋っぽいもの(大きな木の葉や蔦などを利用して作っているらしい)から、種、あるいは苗と、それが成長したものを、わかりやすく地面に並べていく。
「まずは、ソル・フラワーですね。ご覧の通り太陽のような形の花を一輪だけつけます。これは根が強く繁殖力が強いので、他の花との共生が難しい反面、これだけは失敗する可能性が極めて低いので、選ばせてもらいました。
次は、ナイトベル。ハンドベルの様な形の青い花を咲かせます。こちらも大分強い花なので、おそらく問題なく咲くと想われます」
ふむ。黄色い方はほぼタンポポだな。青い方は、リンドウに近いであろうか? どちらも素朴な美しさがあり、良い感じである。
「で、この白い花は、白蜜草です。すり鉢状の白い花弁の中央に蜜が溜まり、舐めると軽い甘味があります。砂糖を筆頭とした甘味の調達は全てに手間かリスクがかかりますので、この花の蜜が、私たちの貴重な嗜好品の一つになります。えっと……純粋に綺麗な花という意味ではないのですが、こういうのも育てて問題ないでしょうか?」
「うむ? ああ、何の問題も無い。先日の話を聞けば、薬草類なども普通に育てた方が良いであろうしな。とはいえ、流石に芋や麦を育てるのは無理であろうが」
モコモコの問いかけに、二つ返事で許可を出す。見た目が綺麗で賑やかであることは重要ではあるが、そのうえで実用性まであるのなら、反対する要素など皆無である。
「ありがとうございます。そう言っていただけると思って、実は薬草類も少しだけ根付きで持ってきているんです。
ということで、これがその薬草です。こちらのギザギザの葉が4枚ついたのが、一般的に『薬草と言われたらこれ』という、アシミ草です。葉をすり潰してペースト状にしたものを患部に塗って使います。
こちらの赤みがかったまだら模様の葉の草は……」
その後も、モコモコの説明は続く。軽い毒消し、熱冷まし、虫下し……どれも劇的な効果は無いが、知っていれば十分急場をしのげるであろうという数の、色も形もいろいろな草花が並んでいく。そしてその中には、決して忘れることなど無い、見覚えのあるあの草もあった」
「お、これはアロエもどきであるな」
「アロ? えっと、それはスクースという草で、厚くて大きな葉を割ることで染み出す液体を使って、軽い止血や傷口の保護を行うものです」
「スクースというのが正しい名なのか。これを塗っただけであれほど深い傷を癒やせるとは、薬草とは侮れぬものであるな」
うんうんとわかった感じにうなずく骨に、しかしモコモコは首を傾げる。
「あの……それはひょっとして、ケモコの時のことでしょうか?」
「うむ。そうだが?」
「聞いた限り、かなり大きな傷だったと思うのですが……これを塗っただけ《・・》、なのですか? 応急処置ではなくて、本当にこれを塗っただけで……?」
「そうだぞ。というか、そう言ったではないか」
「あ、はい。そうなんですが、私はてっきり、これで止血だけしてこの洞窟まで連れ帰り、その後しっかりとした手当をしたのだとばかり……」
「いや、あの時も言ったが、私には薬草の知識が全くなかった。知っていれば今教えてくれた薬草をすり潰して使い、そのうえでスクースを塗ったであろうが……あの時やったのは、本当にこれを塗っただけである」
「そんな、そんなはずが……」
私の言葉に、モコモコの口からは疑問の呟きが漏れ続ける。そして、ひとしきりそれが続いてから……
「あの、ボーン様……娘は、ケモコは何故助かったのでしょうか? それとももしかして……娘はアンデッドになったのですか?」
モコモコのその言葉に、近年稀に見る間抜け面になった骨(数日ぶり2回目)の、最近ゆるゆるな気がする顎が、カランと音を立ててずれ込んだ。




