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我が輩は骨である  作者: 日之浦 拓


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世界一健全な骨とキツネのラプソディ

・艶っぽい話が苦手な方は、この話を読み飛ばしてもたぶん大丈夫です。

・キツネが白骨にじゃれつくだけの、極めて健全なお話です。


2017.3.13 改行位置修正

 夜。それは不死者の時間。夜。それは大人の時間。つまり、不死者であり大人である骨にとって、夜はフィーバータイムである。


 だが、今骨は震えている。ガクガクであり、カクカクである。原因など一つである。耳元でささやかれたアレである。断じて気分が悪いわけではないのだが、こわばる部分が何一つ無い代わりに、骨のソウルがオーバーヒート寸前である。


 骨は今、独りで草原に座っている。何故か体育座りである。「準備をするので、こちらでお待ちください」とモコモコに言われ、全裸待機しているのである。生まれてこの方服など着たことは無いが。


 落ち着け。素数だ。素数を数えるのだ……孤独な数字が心を癒やすと、偉大な先人が言っていたはずだ。よし、2、4、8、16、32……違う、これは2の乗数である。それこそ数多の者がやりすぎて、底が抜けている鉄板ネタである。

 よし、改めて……


「お待たせ致しました。ボーン様」


 背後から、声がかかる。名を呼ばれたからには、振り向かねばならぬ。後ろ手をつき、顔を背後へと向ければ……そこにいたのは、モコモコであった。


 そう。モコモコであったのだ。当たり前だ。他の誰かがいるはずがない。だが、そこにいたモコモコは、モコモコであってモコモコではなく、それでいてモコモコだったのだ。つまり、何が言いたいかと言えば……


「……美しい……」


 そう。美しかったのだ。口の先の白い毛並みに、ほんの少し紅が乗っていた。その身は薄衣に包まれ、月の光を背後から受けた姿は、いっそ神々しくすら感じた。それでいて、それは間違いなく生命であった。むせかえりそうな程強く匂い立つ、命の臭い。命を繋ぎ、命を育み、命を生み出す女の匂い。

 母の愛、女の愛、幾多の愛を知るであろうモコモコの、魅力の全てがそこで形を成していた。


 立ち上がり、歩み寄り、そして優しく抱き寄せる。身長差の関係上、モコモコの顔が肋骨の下辺りに来てしまうため、うっかり傷つけたりしないように、そっと優しく、だがしっかりと抱きしめる。


「その服や化粧は、どうしたのだ?」


「……人里を追われてから、服はとても貴重な物になってしまいました。森で暮らす以上普段から着たらすぐに駄目になってしまいますし、いざという時に誇りを捨ててケモノの振りをするためにも、普段は服を着ないで生活することが当たり前になってしまったので。


 だから、これは特別な物です。大切な人と、大切な時を迎える、その時にだけ着られる、ずっとずっと母から娘に受け継がれる、大切な服なんです……正直、ケモコに引きつぐ前に、また私が着ることになるとは思っていませんでしたけど」


 そう言って、モコモコが小さく笑う。愛おしそうに、骨の体に頬を擦りつけながら。


「紅の方は、スカーレット・ブロッサムです。本来は、その……プロポーズに使われた花を使って紅を作るのですが、今回は、あの時ケモコがとってきてくれた物を使いました。この2つが、フォクシールが初夜を迎える時の、伝統的な形です」


「初夜、か」


「……はい。通常、フォクシールは一度伴侶を決めると、その人と生涯を添い遂げます。例え死別することがあっても、他の人と番うことは滅多にありません。それは、倫理的な問題というよりは、精神的な問題です。深く愛するが故に、死して尚愛し続ける。死が二人を別つなら、己も死して再び一つとなるまで、その愛は永遠である……それがフォクシールの愛し方です」


「では……っ!?」


 言葉を発しようとした私の口を、モコモコの口が優しく塞いだ。唇の先をつけるだけの、優しいキス。緋色を名乗った私の口に、モコモコの口から緋色が移る。


「私は今でも、あの人のことを愛しています。その思いは、この瞬間でも変わりません。でも、あの人は言いました。『君が俺を愛してくれるように、俺も君を愛している。だからこそ、俺が死んで、君の愛が寂しさを表す言葉になってしまうことが、どうしても許せない』と。

 あの人への愛は変わりません。でも、あの人への愛を、寂しい物にしたくはありません。愛はいつだって、幸せでこの胸を満たしてくれるものなのです。

 だから、私は胸を張って言えます。


 私は、あの人を愛しています。

 私は、ケモコを愛しています。

 そして私は……ボーン様、貴方を愛しています」


「モコモコ……」


 目を閉じ、口を突き出したモコモコに、今度は私が身をかがめ、口を重ねる。熱を発さぬ骨の身に、じんわりとモコモコの熱が伝わってくる。


「ふふっ。不思議ですね。まだ本当に出会ってすぐなのに、こんな気持ちになるなんて。こんなに惚れっぽいフォクシールなんて、きっと世界で私一人ですよ?」


「ぬっ、そこは、私がいい男だったからだとは言ってくれないのか?」


「そんなこと……」


 言葉を切って、不意にモコモコが肋骨の一本を口に含む。ハモハモと甘噛みされ、薄くて熱い舌が、チロチロと骨の先端を舐めねぶる。


「言うまでもないでしょう? 旦那様?」


 熱く潤んだ瞳で、上目遣いでささやかれる。その間も、舌が、指が、肉球が、骨のあんなところやこんなところを、撫でたり摘まんだりくすぐったりぷにったりしている。


 ヤバイ。マジヤバイ。骨の体で何ができるんだとか思ってたけど、予想を遙かにぶっちぎってヤバイ。既に語彙はほぼ死滅している。ヤバイ以外の言葉が頭に浮かばない。だが、これだけは、これだけは言葉にして伝えなければ。

 滾る野生を押さえつけ、残る理性を総動員することで、何とか言葉を絞り出す。


「愛しているよ、モコモコ」


「愛しています、ボーン様」


 月の光に照らされて、骨とキツネが戯れる。そうである以上、誰が何と言おうと、ここは世界一健全な空間である。異論は認める。


 あふぅ

骨とケモノがじゃれてるだけなのに、これ以上書いたらノクターンなんだろうか・・・?

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