伝わる思い
2017.3.13 改行位置修正
「それでは、何をお手伝いしましょうか? 本格的な畑を作るのであれば、きちんと畝などを作った方が良いのですが……」
「ああ、いや。そこまでする必要はない。あまり整備するつもりは無いのだ。この状態の地面に、種を蒔いたりするくらいでな」
「それですと、咲き方がまばらになったり、そもそも芽が出なかったりすると思うのですが」
「構わぬ。完全に趣味の作業であるから、仮に失敗したとしても……ん? モコモコよ、ひょっとして農業の知識もあるのか? いや、花だと造園か?」
「あ、はい。農作業による食糧の自給には広大な土地が必要なので、そちらの方は僅かな知識程度なのですが、薬草などの緊急に必要になる可能性のある植物は、ほんの少しですが育てています」
「おお、そうなのか」
モコモコの言葉に、骨は大いに納得する。そりゃ怪我をした後で薬草を採りに行くより、最初から家に生えている方が便利に決まっている。と、そこで負傷したケモ子を見つけたときのことを思い出す。
「そうか。家で育てていたからこそ、ケモ子にも薬草の知識があったのだな」
「ケモコにですか? ええと、それは……?」
「ん? ケモ子から聞いておらんのか? 初めて会った時、ケモ子は大きな傷を負って森で倒れていたのだ。背中には大きな裂傷、足にも深い噛み傷があって、酷く出血していたのだが……その血を止めるのに使った草に、ケモ子が必死に手を伸ばしていたのだ。
この身は骨ゆえ、薬草の知識など全くないし、自身の体で効果を試すことすらできぬ。あの時ケモ子の手が薬草の方に伸びていなければ、ほぼ間違いなく、助けることはできなかったであろう」
「そんな……そんなことに……!?」
話を聞いて、モコモコは顔を真っ青にして絶句する。この様子からすると、ここまで詳細には知らなかったようだが……考えてみれば、意識の無かったケモ子が詳細を把握できているわけがないのだから、無理も無いことであろう。
「私は……何も、その時何も知らなくて……」
震えるモコモコの肩に、私はそっと手を置く。
「何を嘆く? お前は誇るべきなのだ。お前が家族のためにとやっていたことが、ちゃんとケモ子の中に活きていたのだ。胸を張れ。ケモ子が傷ついたのは、お前のせいではないのだろう? だが、ケモ子が助かったのは、紛れもなくお前のおかげなのだから」
「ボーン様……」
うるうるした目をしばたかせてると、モコモコの顔がバラ色に戻る。
「このところ、泣いてばかりです。ボーン様は本当に女泣かせなんですね」
「ぬぅ、そ、そうか?」
ここでまさかの色骨宣言に、流石の髑髏もカタカタ揺れる。
「ええ。ボーン様は凄くかっこいいですよ。もしもフォクシール……いえ、せめて生身であったなら……」
ゴクンと唾が飲めない代わりに、カクンと顎の骨が鳴る。
「ケモコにも、弟か妹が出来ていたかも知れませんね……ふふっ」
「はっ、ハッハッハ。ソ、ソウカ。アリガトウもこもこヨ。ウレシイぞ」
ヤバイ。人妻ヤバイ。未亡人マジヤバイ。見た目はほぼ完全にキツネなのに、何かもう色気とか色々がヤバイ。骨の恥骨も超ヤバイ。
「さて、そういうことでしたら、私は森に行って花の種とかを集めて参りますね」
「ウ、ウムッ! 気をつけてイッて来るがヨイ!」
おそらく人生で最もカタカタ言わせながら、必死でジェントルボーンを維持しようとする私に、楽しそうに流し目を送って歩き去るモコモコ。
骨、完全敗北である。




