変わったもの 変わらないもの
2017.3.13 改行位置修正
世界が揺れた。物理的に。まあぶっちゃけ地震である。震度的には、3くらいであろうか? たいしたこと無い揺れであるのに、タイミング的な問題で、思わずその場でよろけてしまった。
どれだけカッコイイ感じに決めても、決してカッコイイ感じには終わらない辺り、流石は骨、持っている男である。逆の意味で。
「あっ、あのっ、だ、ダイジョーブですか? ぼ、ぼーんサマ?」
「ホネーッ!?」
真っ青な顔であたふたしているモコモコと、必死な顔で抱きついてくるケモ子。高さの違う二人の頭に軽く手を置き、落ち着けるようにポンポンとする。
「うむ。何の問題も無い。あの程度の地震など、慣れているしな」
「な、慣れっ!? えっ、でも、世界が揺れるなんて……」
「ここは山のすぐ麓であるし、地震くらいはあるであろう。もっと大きな揺れなら揺れ戻しなどを警戒せねばだが、あの程度なら何も心配することはない」
「そ、そうなのですか?」
「ホネー?」
「うむうむ。大丈夫である。骨であるぞ」
大きくうなずく私に、漸く二人は落ち着いたようだった。立ち話も何なので、そのまま草地に座り込む。この辺りは野生ならではであろう。
二人も一緒に座るのかと思ったのだが、何故かモコモコは正座である。ちなみにケモ子は寝そべっている。子供は常にフリーダムである。
「それでは、改めまして。スカーレット・トリニティ・ボーン様」
「うむ……いや、待て。流石に常にそれでは長すぎるだろう。もうちょっと省略すると……スカーレット・T・ボーン辺りか? まあ、それでも長いから、普段はボーンだけで良いぞ」
「そうですか? では、再度改めまして、ボーン様」
そう言うと、モコモコは両手を地に着き、腰を折って地面に付くほど頭を下げる。
「私たち親子の忠誠を、どうかお受け取りください。この命続く限り、貴方様と共にあることを誓います。緋色の王、ボーン様」
王である。キングである。エンペラーとはちょっと違うのである。というか、何故に突然こんなことに? 名乗っただけなのに、しかもその後ちょっとよろけたりしたのに。
「……何故だ?」
「名前をつけてくれました。共に行くと言ってくれました。世界の全てから見捨てられた私たちと、太陽の下を歩くと。その喜びが、どれほどだったか。この子の行く末に光が見えたことが、どれほどの幸福だったか!
もし他のフォクシールがあの宣誓を聞いたなら、それが世界中の何処の誰であっても、同じことをするでしょう。だから私もするのです。どうか、どうかお願いします」
額を地にこすりつけ、祈るように願うように、言葉を紡ぐモコモコ。だが、私の答えは決まっている。
「断る」
「…………」
モコモコは、顔をあげない。ただ静かに、体を震わせるのみ。故に私は言葉を続ける。勘違いと早とちりですれ違うのは、漫画の中だけで十分なのである。
「忠誠などいらぬ。尽くすだけの心などいらぬ。立て。歩け。自分の意思で道を進め。お前達は奴隷ではない。私と同じ、一つの命なのだ。
頂くな。押し黙るな。お前達のいる場所は、下でもなければ後ろでもない。手を繋いで共に歩むからこそ、私は名前を叫んだのだ」
モコモコの肩に手を置き、その体を引き起こす。空洞でしか無い骨の目が、真っ直ぐに彼女の目を見つめる。
「ホネー?」
不意に、下から声が聞こえる。地面を転がるのに飽きたのか、変わらぬ声、変わらぬ態度で、ケモ子が私を見上げている。
「はっはっは! そうだな、骨だ。骨である。面倒くさい王などというモノではない。私はただの骨。お前達の変わらぬ友である」
「ホネー!」
モコモコから手を離し、飛びついてきたケモ子を抱き留めてやる。だが、もうモコモコの体が伏せられることはない。今度こそ本当に始まったのだ。
変わらぬものが変わり、変わりそうになったものが変わらなかった。それでいいのだ。それがいいのだ。これできっと明日からも、のんびりとしたゆるふわ骨ライフが続くのだ。
「ああ、だが、そうだな。どうしてもと言うなら、畑を作るのを手伝ってくれ。作りたいのだ。この草原に、花畑をな」
骨の言葉に、嬉しそうにうなずく二人。これでどうやら、再度腰をやってしまう危機は、回避されそうである。




