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我が輩は骨である  作者: 日之浦 拓


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名を奪われた民

2017.3.13 改行位置修正

「名前が無い……?」


 それは、とても不思議な答えであった。これほど高度な会話を交わせるなら、ある程度の文化や文明というものを築いていて当然であろう。先ほどのマッサージにしても、名が付いているなら、それは先祖なりから伝来してきたものであるはずで、フォクシールという種族には、間違いなく「歴史」というものがあるはずだ。

 それほどの者が、固有名を持たないなどあるのだろうか? あるいは、持てない何かがあるのか? それは聞いても良いことなのか? スッカラカンの頭蓋骨は、見た目通りにスッカラカンの常識しか蓄えておらず、その判断が出来ない。


 どうすべきかと思案を始める骨に、ケモ子母の口が、ゆっくりと開いていく。


「私たちは……『名を奪われた民』なのです」




 ※※※


 それは、ずっとずっと昔のことでした。私たちフォクシールの民は、高度な魔力操作の技術を持つことから、医術の一族として世界に住んでおりました。人のみならず、エルフやドワーフ、果ては家畜や魔獣まで、フォクシールの民に癒やせぬ者はなく、権力や金銭などを求めない素朴な民族性もあって、世界中の人たちから、私たちは愛され、大切にされて来ました。


 そんなある時、とある大国の王から、一つの依頼をされました。最早自分の命は長くない。ならばせめて、恐怖も苦痛もなく、安らかに死んでいきたい。そんな願いに、フォクシールは答えました。苦痛を感知している場所への魔力供給を絶ち、世界を認識している箇所の魔力を操って夢を見せる。王の最後は、とても安らかなものだったと言われています。


 ですが、そこで一人の貴族が言いました。フォクシールが、王を殺した。王族殺しは大罪であり、決して許されるものではないと。頼まれたとは言え、助命ではなく緩やかな死への手助けをしたのは事実であり、王に施術したフォクシールは、何ら反論すること無く貴族の主張を受け入れ、罰として処刑されました。


 でも、それは始まりに過ぎなかったのです。その貴族が目をつけたのは、フォクシールの精神操作技術であり、これを使えば人を恐怖で縛り付けることも、快楽付けで廃人にすることもできると、気づいてしまったのです。

 彼は執拗にフォクシールを追い詰め、時に家族を人質に取ることで無理矢理施術を行わせ、自らの主張通りに「フォクシールによる精神操作犯罪」を成り立たせました。


 世界は冷たくなりました。皆がフォクシールを追い立て、追い詰め、捕らえていきます。捕らえられた者は名を奪われて奴隷とされ、ある者は主の命ずるままに快楽を与える道具とされ、またある者は憎き相手に悪夢を見せる精神殺人者として使われ、そしてまたある者は、そうやって生まれたフォクシールの犠牲者たちによって、切り刻まれて殺されていきました。


 今や私たちは、世界の影でひっそりと命をつなぐだけの存在なのです。物理的な戦闘能力に乏しい私たちは、捕らえられれば売りさばかれて奴隷として過ごすだけ。

 世界に居場所がないのです。世界に名乗る名が無いのです。


 私たちは……『名を奪われた民』なのです。

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