最悪の出会い
2017.3.13 改行位置修正
「おおおぉぉぉ……おお? お? おおお?」
朝である。朝になっても唸っている骨である。そろそろ唸り検定で7級くらいは取れそうであるが、それだけ唸ったのは伊達では無く、ちょっといい感じに腰の絡まりが解きほぐせそうな気がする。
「お? お? いけるか?」
多少慣れた程度で、見えない何かを自在に操るのは難しい。それでも、その先にご褒美が待っているとなると、頑張る気力が湧いてくる。
ふっふっふ。待っているが良いケモ子よ。もうすぐ骨が会いに行くぞ!
骨の顔が、不適に笑う。無論イメージだけである。とはいえ、このイメージというのは馬鹿に出来ない。現に今も、森と草原の切れ目辺りに、ケモ子が二人見えている。
「おお……おおお……おおおぉぉ……」
声を上げつつ、力を動かす。幻のツインケモ子は、どうやら片方が頭一つ大きいようだ。いつものサイズのリトルケモ子と違って、ちょっと大きめなビッグケモ子は、こんな遠距離なのに、もの凄い不審な感じでこちらを見ているのがわかる。
あ、小さい方がこっちに向かって走ってきた……あれ?
「ホネー!」
「ぐっはぁっ!?」
幻とは思えない質量を伴って、ケモ子が飛びついてくる。そしてその勢いは、治りかけていたはずの腰に、軽くヤバい感じのダメージを与えてくる。
「ホネ!? ダー? ダー?」
「ぬぅぅ……だ、大丈夫だ。大丈夫だぞケモ子よ。この程度で私がどうにか……」
「あの……あまり動かない方が良いと思いますが……」
ぴくぴくカラカラし始めた骨に、さっきまで遠くから見ていたはずのビッグケモ子……というか、まあ普通に考えてケモ子母であろう……が、おずおずと声をかけてくる。 その顔に浮かぶのは、明らかな困惑。声の端には、不振と戸惑い。
まあ、順当であろう。娘を助けてくれた恩人に会いに来てみたら、待っていたのは大地に倒れて唸る骨である。もしも立場が逆ならば、無理矢理にでも我が子の手を引き、光の速さで回れ右である。こんな骨に関わるなぞ、正気の沙汰ではない。
そういう意味では、ケモ子母は肝の据わった御仁であろう。恩義に厚いと言い換えてもいい。そこに加わる若干の無謀さが、流石ケモ子の母である。
「失礼だが、貴方は?」
「あ、はい。私はこの子の母です。娘の命を助けていただいたそうで……本当に、ありがとうございます」
一応確認してみると、ケモ子母はそう言って、深く深く頭を下げた。今までと違い、そこには深い感謝の念しか感じられない。
「気にすることは無い。私が私のために、その子を助けたかっただけだ」
「それならば、なおのことお礼をさせていただきます。そして今、ご恩を返させてもらおうと思います」
そう言って柔らかく笑うケモ子母に、骨も静かに笑みを返した。イメージ的に。




